第1話「未来へ(1)」

文字数 1,774文字

 スカイタワー。
 世界の中心に、高く高く聳えるネオンの塔。
 古くからそこには、クリスタルという石が祀られていた。
 クリスタルの存在を知る者は、限られた者だけだった。
 そのおかげで、そこには魔物は出現しなかった。
 スカイタワーの中には、選ばれた人々が暮らしていた。
 選ばれた者…それは、このネオ・エデン全体の1%にも満たない富豪たち。
 この世界は、金の力が全てだった。
 金のある者は、スカイタワーに住み、魔物から逃れることが出来たが、そうでない大半の者たちは、スカイタワーの外側――アウターエリアに住み、魔物の襲撃に怯えながら暮らすしかなかった。
 魔物…、人々は、昔からその存在に悩まされてきた。
 それを救ったのが、「ゴーレム」だった。
 「ゴーレム」は、科学者であるキールと、ネオ・エデンの統治者ドン・ペリが立ち上げた組織で、魔物退治とネオ・エデンの治安維持を目的とし、訓練された戦闘員と、人々の治療などにあたる看護員、インフラシステムを守る技術員などから構成されていた。

 イプシロン・エリア。
 ここは、四人の戦闘員が担当していた。
 通常、ゴーレム戦闘員は、二人組でバディを組み、二組が交代で見回りをする。
 今は、銀髪の青年と、金髪の女性が見回りをしていた。
 二人とも、同じゴーレムの戦闘服を着ていた。黒いフードつきのパーカースタイルで、普段着にも見えるラフな格好だったが、その方が、悪党を油断させやすいのだ。
 午前2時。二人は魔物に遭遇した。
 暗闇に、薄く光っている人型の魔物が数体。
「サイバー・ゴーストだ。気を付けろ。」
「う、うん。」
 女は、特別製グローブをはめた拳で、サイバー・ゴーストを殴りつけた。
 グローブには、攻撃した対象に電気が走る仕組みになっていて、サイバー・ゴーストは、電気に弱かった。
 たちまち、ゴーストは霧のようになって消えた。
 他のサイバー・ゴーストは、男を取り囲み、その視界を塞ぐ霧を吐き出した。
 しかし男は、剣をサイバー・モード――剣が電気を纏った状態――にして、体を回転させながら剣を振るった。一瞬にして、ゴーストたちは浄化された。
 後方から、他の魔物が男に襲い掛かって来た。
 ――グールだ。
 腐った体をしているため、辺りに異様な臭気が満ちた。
「気持ち悪い!」
 女は、グールから離れて様子を窺っている。
 男は、右肘を後ろに引き、後方から襲ってきたグールに肘鉄を食らわせた。
「ゴブッ!」
 グールは、口から汚い液体を吐きながらよろけた。よろけた所を、男がすかさず剣で攻撃して浄化した。
 さらに襲ってきたグールの群れ。
 グールは、動きが鈍いが、その爪や体に毒素を持っていて、触れたり引っ掻かれたりすると、傷口から病原菌に侵されて、何らかの病にかかったり、感染してグールになることもある。
「ここは俺が引き受ける。」
 男には、グールに感染しない理由があった。
 次々と襲い掛かるグールを、男は、まるで魚を捌くかのように、素早く剣を振るって浄化していった。
「グールって何なの?」
 全てのグールを浄化してしまうと、女が男に近付いて来て言った。
「バンパイアのなりそこないだ。」
「そうなの。よく知ってるわね。こないだこっちに来たばかりなのに。」
「BOXで色々調べられるぞ。それくらい、ちゃんと勉強しとけ。」
「…そうね。」
 二人は帰路に就いた。
「もう一週間になるのね。」
 女が言った。女は二十歳前後くらいで、大きな瞳は琥珀色をしていて、とても美しく、可愛らしさも兼ね備えていた。頭には獣の耳のようなものが生えていて、両側についた耳の先端は尖っていた。この時代、趣味で、頭にイミテーションの角や獣の耳を付ける者もいたが、彼女のは本物だった。
「慣れたか?」
 男が聞いた。
「そうね。魔物退治なら…。でも、悪党を殺すのはちょっと…どうしてもできないわ。」
「悪党なら、俺が引き受けるから、お前は殺さなくていい。」
「でも…何でもフィンに押し付けるのはよくないわ。」
 フィンと呼ばれた青年も、女と同じくらいの歳に見えたが、どこか老成した雰囲気があった。異様に白い肌に、緑色の目が光っていた。
「いいんだ、俺は。浄化するのが使命だからな。どんな悪党だろうと、浄化されれば、魔物でなくても、魂が少しはマシになるだろうさ。」
「そうかもしれないわね。」
 女は笑った。
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