第11話「バンパイア」

文字数 3,715文字

 ネオ・エデンはスカイシティを中心に成り立っている。
 ゴーレムの本部もスカイシティにある。
 そして、ネオ・エデンの街全体が空中に浮かぶ都市型飛行船(「箱船」と呼ばれている)となっていて、街はスカイシティを中心として大きく3つに分かれ、南にアクアシティ、北にグリーンシティがあった。
 フィンたちは、スカイシティのイプシロン・エリアに住んでいる。
 スカイシティのさらに中心部にあるスカイタワー。そこは、魔物を一切寄せ付けない場所になっていて、その外側をアウター・エリアと呼ぶ。つまり、スカイタワー以外は全てアウター・エリアとなる。
 アウター・エリアのほとんどの場所に、魔物が出現する。それを退治したり、悪党などから街の治安を守る組織が、ゴーレムであった。

 こうして、フィンたちがネオ・エデンに来て一週間が経過した。
 二人は、キールに呼び出され、地下街にあるキールの研究所へ行った。
「現在、バンパイア勢力の抗争が行われている。これを好機とし、我々ゴーレムも動くときだ。」
 キールが言った。
「バンパイア勢力?」
「そうだな、お前たちには、説明が必要だったな。…バンパイアは、いつしか集まって組織を作った。大きくエリアごとに4つの集団に分かれている。北のブラックローズ、南のブルーローズ、西のレッドローズ、東のホワイトローズ。今、抗争中なのは、レッドローズとブルーローズだ。規模で言えば、レッドローズの方が数で圧倒し、ブルーローズは一番最弱な組織とされているが、最近、ホワイトローズと手を組んだようだ。ブラックローズについては、あまり情報がないが、グリーンシティを壊滅させ、自分たちのテリトリーとしたのがブラックローズだ。したがって、ブラックローズが最強と思われる。」
「グリーンシティを壊滅?」
 フィンが聞いた。
「そうだ。昔、グリーンシティは研究、開発機関の多くが集まる街だったんだが、その全てをブラックローズに乗っ取られたんだ。さらに、そのときブラックローズのナンバー2だった者が、研究資料を持ち出して、新たにホワイトローズを立ち上げたらしいんだ。そして今は、ブルーローズと組んで、何事かを企んでいる…。おそらく、レッドローズを壊滅させた後、ブラックローズも潰すつもりだろう。」
「バンパイアどうしで潰し合いをしてくれれば、俺たちにとってはラクなことだな。」
「そうだ。しかし、ブラックローズが倒れては困るのだ。」
「何故?」
「ブラックローズの頭は表に出たことがなく、その正体を知る者はほとんどいないとされているんだが、バンパイアとしてのルールを厳しく守らせている存在とも言われているんだ。そのルールというのは、人間を糧をして生きるために、ある程度人間と共存せざるを得ない、そのためのルールだ。その者の存在のおかげで、バンパイアはルールを守らざるを得ない。だがもし、ブラックローズが解体することになれば…。バンパイアの世界だけでなく、人間の世界も崩壊してしまうかもしれないんだ。」
「まさか…。バンパイアだって、そこまで馬鹿じゃないでしょうが。」
 ウォッカが言った。
「だといいがな。とにかく、俺たちがやることは、ブラックローズが倒れないように、他の勢力を小さくすることだ。」
「でもそれだと、今度はブラックローズが大きくなって、人間の脅威になったりしない?」
「…だから、他の勢力を潰すことで、バンパイアの数を減らすんだ。ブラックローズにとっては、ブルーローズやホワイトローズが拡大しては困るのだ。特に、ホワイトローズはな。レッドローズと抗争している所を狙って、バンパイアを退治するんだ。」
「……。」
 フィンは、キールを見ながら、何事かを考えている様子だった。
「で、早速だが、お前たちには、ブルーローズの頭を倒してもらいたい。」
「いきなり頭を?」
 フィンが言った。
「うむ。もちろん、ブルーローズを壊滅させてほしいという意味だ。作戦は考えてある。奴らの居場所はアクアシティ周辺だ。そして、よく出没する場所は、アクアシティの繁華街。そこに、まずウォッカが行って、ブルーローズの誰かと接触する。そして、アジトに潜入する。ウォッカのBOXの位置情報を辿り、フィンがそこへ行ってブルーローズと戦う。以上だ。」
「たった二人で大丈夫なの?」
 ウォッカが不安そうに聞いた。
「それに、あたしが接触するってどういうこと?」
「ヤバそうになったらもちろん援軍を出すから心配するな。ゴーレムの仕事は大抵二人組のバディでやる。大勢でやると目立つからな。ブルーローズの頭は、アクアシティの繁華街でよくナンパしているらしいんだ。まあ、血を吸うためだろうが、奴は美女に目がないそうだ。ウォッカがセクシーなドレスでも着て行けば、頭に会う確率が高まるんじゃないかとな。」
「なにそれ。ばかばかしい!あたしはそんな役目はお断りよ。冗談じゃないわ!」
 ウォッカは怒って言った。
「これはあくまでも作戦だ。時には、お前の色気も役に立つ。」
 フィンがウォッカをなだめるように言った。
「色気って…!フィンまで何言い出すの!?そんな目であたしを見てたわけ??」
 しかし、ウォッカはますます頬を膨らませて、フィンに背を向けた。
「…他の奴らじゃだめなのか?」
 仕方なく、フィンはキールに聞いた。
「テキーラたちにやってもらうつもりだったが、最初の大仕事ってことで、お前たちに頼んだんだが。」
「え?同じ役目をテキーラさんに?」
 ウォッカは振り返った。
「ああ。テキーラはそういう役目でも、文句一つ言わずにこなしてくれるがなあ…。」
 キールはため息をついてみせた。
「…分かったわよ!やるわよ!やればいいんでしょ!」
「よし。じゃあ早速、着替えてもらおうか。」
 キールに言われ、ウォッカは渋々、衝立の裏で着替えた。
「ど、どう…?」
 衝立から出て来たウォッカは、胸元が大きく開いたセクシーな黒いドレスを着ていた。
「うむ!素晴らしい!!」
 キールは目を飛び出さんばかりに開いて、ウォッカを上から下まで凝視した。
「そんなにじろじろ見ないでよ!もう!…フィンはどう思う?」
 ウォッカは恥じらいながらも、フィンを気にしていた。
「いいんじゃないか。いつもの服の方が露出が高いのに、今更恥ずかしがることもないだろう。」
 フィンは事も無げに言った。
「もう!そういう問題じゃないのよ!」
 ウォッカはドレス姿を褒めて欲しかったのだが、フィンにはそういうことは分からないようだった。

 キールの研究所を出て、部屋に戻った二人だったが、フィンは、何か考え続けていた。
「フィン、どうかしたの?」
「いや…。ちょっと気になってな。」
「何が?」
「キールがブラックローズを守るような言い方をしてたことがな。別に、ブラックローズが倒れたって、俺たちは困らないはずだ。」
「でも、バンパイアのルールがどうのこうのって言ってたじゃない。」
「そんなことは関係ない。奴らが言われた通りにルールを守っているかどうかも怪しいところだ。とにかく、ブラックローズには何かキールの知る秘密がありそうだ。」
「…ふと思ったんだけど、バンパイアの薬。これをバンパイアたちは飲みたくないのかな?」
「それはあくまでもゴーレム用にキールが作った薬だろ。バンパイア全部に薬を作ってたらそれこそキリがないだろう。それに、バンパイアの組織に入って、人を襲っているような奴らは、バンパイアであることを良しとしていると思うぜ。お前みたいに、バンパイアであることを苦しんでいたら、組織に属したりしないで、孤独でいるはずだからな。」
「それもそうね。」
 ウォッカは、どこか寂しそうな笑みを浮かべた。
「…でも、本当にテキーラさんたちに会えて良かった。同じバンパイアって思うと、少しは気がラクだもの。いくら薬で症状が抑えられるといっても、完全な人間に戻れるわけじゃないし。これからも、あたしはこのまま、ずっと、生き続けていかなくちゃいけないけど、仲間がいるって思えば…。」
 早速フィンは、BOXを操作してホログラムボードを出し、キーを打ち始めた。すると、宙にホログラム文字が浮かび上がった。
『アクアシティ』
 そして、アクアシティを上から見た平面地図が表示された。
 キーで表示を変更すると、地上から見た立体地図となった。
「へえ!すごいわね。」
 ウォッカはホログラムを見て驚いていた。
「キールに教わったんだが、このBOXで、ゴーレム内で共有する情報にアクセス出来るんだ。それに、バンパイアの出没情報、場所に関する情報もある。」
 フィンがパスワードを入力し、さらにキーワードを入力すると、アクアシティの繁華街周辺に赤い丸が表示された。更に、他にも赤い丸が示されたが、大きく表示されているのが繁華街周辺だった。
「よし、このあたりをお前がうろついていれば、バンパイアに遭遇するかもしれないな。」
「やってみる。」
「…だが、危険なことに変わりはない。俺は一緒にはいられないぞ。警戒されるかもしれないからな。」
「大丈夫よ。あたしの強さは知ってるでしょ。」
「…何かあったら、BOXで俺を呼ぶんだぞ。」
「うん、分かった。任せてよ!」
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