第14話「ユリス」

文字数 2,538文字

 アクアシティの東に、ホワイトローズの基地があった。
 基地内の一室で、二人の男女が会話していた。
「聖羅が死んだ!?どういうことよ!」
 女は、とても美しい顔をしており、白い髪は耳の辺りで切り揃えられたショートヘアだった。
「これからは、弟の俺がブルーローズのリーダーだ。…ユリス。俺の兄のことは忘れて、俺と…。」
 男は、聖羅に似ていたが、黒髪の聖羅に対し、男は金髪だった。
「何言ってるの?あたしはあんたの兄なんてどうでもいいの。それより、聖羅が死んだせいで、研究費が手に入らなくなるから困ってるのよ!」
「…ユリス。君は、研究のことばかりだね。」
「そうよ。あたしにとっては、研究が一番大事なの。あんたが研究費を出してくれるなら、結婚してあげてもいいけど。」
「それは勿論さ。だけど、君の心は…。」
「あーうるさい!どうせ、あたしの体が目的なんでしょ!愛だの恋だの、うんざりよ!」
「それは違う!俺は……!」
「綺羅。あんたの方が面倒ね。聖羅は体を与えてやれば金なんかいくらでも出してくれたのにさ。ほんとにもう、何でやられたのかしら?」
「聖羅は、遊んでばかりで、戦い方もほとんど知らないような奴だった。そんな奴が、ユリスにサイバー手術してもらっただけでリーダーになって。俺は納得できなかったよ。俺はブルーローズの仲間を集めて、新たにチームを作った。皆、俺についてきてくれたよ。聖羅はユリスのおかげでリーダーになってるだけだって。だから…、あいつがやられたのは、自業自得ってやつさ。」
「…あんたが仕組んだのね?」
「誰もあいつをリーダーと思ってなかった。いずれ、ゴーレムにやられても仕方なかったんだ。」
「ふん。そこまでして…。まあ、いいわ。確かに、ゴーレムとやり合うには、あんたがリーダーになった方がいいかもね。でも、研究費は出してもらうわよ。それがあたしたちホワイトローズと組む条件なんだから。」
「俺はあいつとは違う。本当に君を愛しているから。金なら出すよ。だから、もう少し素直になってくれ。」
「ふーん。じゃあ、面倒なことはなしでいいのね?それならその方がラクだわ。時間がもったいないもの。」
「…一体、何を研究しているんだ?」
「ふふ、知りたい?ついて来て。」
 ユリスの後をついていった綺羅は、基地の研究室に入って驚いた。
 そこには、何か緑色の液体に満たされた、縦長のカプセル型装置が幾つも並んでおり、その中には、魔物が入っていた。
「これは、魔物?」
「キメラって知ってる?魔物は魔物でも、色んな種類の魔物を混ぜ合わせた魔物なの。魔物だけじゃないわ。人間と魔物の合成や、獣と人間の合成なんかも研究してるわ。面白いわよ。」
 ユリスは目をきらきらと輝かせながら言った。
「その、キメラってのを作ってどうするんだ?」
「究極の生命体を作りたいわ。今の所、それに近いのが私たちバンパイアでしょ。でも私たちには弱点がある。ゴーレムの奴らはそれを克服する薬を開発したらしいけど、あくまでもそれは人間に戻す薬みたい。私はそんなのじゃなく、バンパイアとして生きる方向を追求したいの。だから、バンパイアと最強のキメラを合成して、完全なバンパイアになること。それが目的。」
「キメラを合成すれば、弱点を克服できるのか?」
「理論上は可能よ。例えば、私たちは日光に弱いでしょ。日光に強い、もしくは日光を必要とする生き物や魔物をバンパイアと合成すれば、日光に強いバンパイアが出来るわけ。そうやってどんどん合成していけば、弱点のない完全なバンパイアが作れるはずよ。」
「…だが、日光に弱い分、俺たちは夜の活動が人間よりも活発になる。日光に強い生き物をバンパイアと合成すれば、その力が弱まるってことにならないか?」
「ふふ、鋭いわね。確かに、日光に強い生き物は夜に弱いから、ただ合成するだけでは、弱点の克服にはならないわ。だから、まずは弱点のない完全な生物を作るのよ。バンパイアと合成するのは、完全な生物が出来たとき。その完全な生物を作るのが大変なのよ。」
「なるほど。じゃあ、ここに並んでいるのは、その実験体ってわけか。」
「そうよ。ふふ、綺羅と話してると楽しいわ。聖羅は研究のことなんて全然関心を持ってくれなかったから。あいつは女のことしか頭になかったおバカさんだから。その点、弟のあんたは頭がいいのね。」
「…この実験体は、ちゃんと管理してるのか?襲ってきたりしないか?」
「大丈夫よ。その点も、ぬかりはないわ。ただ、実験体は使い捨てだから、使い物にならなくなったらグールの餌にするの。新たな実験体の調達を聖羅にお願いしてたんだけど、今度はあんたにお願いするわね。男でも女でもいいから。そうだ、聖羅の狩場はゴーレムに知られてるみたいだから、別の場所でお願い。」
「ああ、分かった。」
 綺羅はユリスの研究室から出ると、ブルーローズのアジトへ戻った。そこは、聖羅の家ではなく、綺羅の家だった。聖羅のアンティーク趣味とは違い、綺羅の家は近未来的なデザインの黒いビルだった。
 ビル全体がアジトになっており、その最上階に、綺羅の部屋があった。
(俺は、何故あんな女に…。だが、あの残酷さに、妙に惹き付けられてしまう…。)
 綺羅はユリスのことを考えた。
 ユリスと聖羅、綺羅兄弟は幼馴染だった。
 昔から付き合っていたユリスと聖羅。その後を綺羅が追っていた。
 しかし、ユリスが研究に没頭するようになり、聖羅と綺羅は対立し合うようになった。
 そして今は聖羅がいなくなり、やっと綺羅は、ユリスに想いを告白出来たのだった。
 綺羅には、ユリスがあんなに研究に熱中する理由が分からなかった。
 趣味といえばそれまでだが、ユリスの熱中ぶりは異常だった。
 昔はそうではなかった。
 ユリスは気が強くわがままな所があったが、根は優しく、綺羅にとっては年上のお姉さん的存在だった。
 バンパイアの頂点に立てば、昔のユリスに戻ってくれるのではないか…。綺羅はそう願っていた。
 綺羅のBOXに連絡が入った。
「綺羅。レッドローズの奴らが狩場に入って来やがった。」
「場所はどこだ?」
「アクアの北西、ルーシャンだ。」
「分かった。すぐ行く。」
 綺羅はエアライドに乗り、急いでルーシャンへ向かった。
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