第23話「夢への道」

文字数 2,133文字

 翌日、ルカはエアライドを飛ばして、ギムレットのガレージへ向かった。ノアも付いて来た。
「これで、ユメへの第一歩ってトコだな、ルカ。そこで稼いで、金を貯めて、レースに出るんだろう。」
「ああ。だが、それだけじゃねえ。俺たちも、いずれは暴走族から足を洗って、まともな生活をしないとな…。」
「へえ、ルカがそんなこと言うなんてな。あのゴーレムの奴の説教に影響されたか?」
「そういうんじゃねえ。しかしあいつらの言う通り、盗みでいつまでも生きていけるわけがねえ。そんなことを続けていたら、いつか必ず、ヤミに手を出すようになっちまう。俺はそんな気はねえ。」
「そうだな。こんな俺たちでも、雇ってくれるなんて、有り難い話だ。」
 昨日、そんな話をしていた。
 ガレージへ着いたとき、ちょうど外でギムレットがタバコをふかしているところだった。
「おっ、来たな。ん!?なんだそのライドは…改造か?」
「うぃっす。お世話んなります。」
 ノアはギムレットに頭を下げた。
「改造は俺の得意ワザっす。」
「ふーん。なかなか上手く出来てんじゃねーの?おめー一人で?」
「うス。」
「やるなア。」
 ギムレットは、二人の改造エアライドを見て、しきりに感心していた。
「こいつで、暴走族をやって荒稼ぎしてたってわけか。聞いたぜ。ロー・エリアの知り合いに。」
「!?」
 二人は、ギクリとした。
「俺もゴーレムのはしくれでよ。でも安心しろ。まともに働こうとしてる奴を追い出そうなんてケチなマネはしねえから。実は俺もな、元暴走族なのよ。けど事故っちまってな。そんでサイバー手術ってのを受けて、ゴーレムの一員になったんだ。」
「サイバー?」
 ルカとノアは、サイバーのことを知らなかった。
「サイバーってのは、人とキカイの融合した、いわば超人(スーパーマン)みたいな能力を持つ人間のこと。俺は事故ったおかげで、サイバーに生まれ変わったのサ!」
「そうか…だからあいつら、反則的な強さだったわけか…。」
 ルカはゴーレムのジュレップとシェリーを思い出して納得した。
「このへんのゼータ・エリアには、俺みてーな元暴走族サイバーが結構いるぜ。だが、誰でもサイバーになれるとは限らねえ。キカイとの同調率ってのがあってな。それがうまくねえと、失敗してサイバー・ゴーストって怪物になっちまうんだ。」
「事故に遭わないと、サイバー手術を受けられないのか?」
 ルカが聞いた。
「何、おめー、サイバーになりたいのか?別に事故に遭う遭わないはカンケーない。ただ、サイバーになったら、ゴーレムの一員にならなきゃいけないんだぜ。」
「ゴーレムになるつもりはねえ。俺はスカイ・レースに出たいだけだ。」
「それならサイバーにはなれねえ。しかも、スカイ・レーサーがサイバーなんて反則だろう。」
「そうか…。」
 ルカは納得したように頷いた。
「ま、とにかくおめえらはここで働いてまともになって、そうすりゃいずれはレースにも出れるさ。」
 ギムレットはそう言って、二人をガレージに入れ、仕事を始めた。
「ここではエアライド全般、エアライド、エアブレード、エアボード、もろもろの修理、整備を引き受けてる。やっぱりライドが一番多いな。だからまずライドの整備が基本だ。ライドの型は大概が一人乗りのバイク型だが、ごくたまに車型のライドもくる。車型は普通、パラダイスの連中くらいしか乗らねえがな。」
 ガレージには、何台ものエアライドや、エアボード、エアブレードなどが置かれていた。
 ノアは、エアボードやエアブレードを、珍しそうに眺めていた。
「へーえ、こんな形のやつもあるんだな。」
「何だ。知らねえのか。あんなすげえ改造ライドを造ったわりには…。」
「俺たちはロー・エリアに住んでる。ロー・エリアにはまともな品物がないんだ。」
 ルカが、ブルーの鋭い目を光らせて言った。ルカがふと横を向くと、金髪が揺れて光った。
「…ルカ、ノア。おめーら、歳は?」
 唐突にギムレットが聞いた。
「俺は19でルカも同い年。」
 ノアは黒髪、黒目で、背が高く体格もがっしりとしていた。それに対してルカは、まず端正な顔立ちが目立ち、やせ型で、ノアが185センチくらいとすると、ルカは170と少しくらいの身長だった。ちなみにギムレットは、185センチ、78キロ。23歳。
「そうか。まあ、ノアはフツーとして、ルカ。おめえはもてそうな奴だな。…ったく。」
「は?おい、んなこと仕事にカンケーねえだろ。」
「それが、カンケーあるんだなア。」
 ルカとノアは呆れたようにして、ギムレットの話を聞いていた。
「ここに来る客のほとんどが、オッサン。男ばっかりなのよ。たまには女の子も来るけどな、そういう客はリッキー目当て。俺にはオッサン。しかしな、お前らが入って、特にルカは、女の客をかなり集めると見た。女の客はライドより、ブレードが多い。ブレードは、女の子に人気があるんだ。オシャレにもなるし、いざというときには武器代わりにもなるしな。」
「要するに、俺はエアブレードの整備を覚えればいいんだな。」
「全くマジメだな、ルカ君は。まあそういうことでもいいが、接客も大事だぜー。リッキーがうまいから、リッキーのマネをするといいぞ。おめーそのままじゃ、あんまりぶっきらぼうすぎるからな。」
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