第18話「白と黒」

文字数 1,582文字

 真夜中のネオン街。
 破壊されて広くなった場所に、男と女が向かい合って離れて立ち、互いに睨み合っていた。
 瓦礫と化した地面には、首のない死体が幾つも転がり、引きちぎられた頭部も散らばっていた。
「復讐かい?」
 女が言った。
「いや、違う。俺はただ、やるべきことをやるだけだ。」
 男が女に向かって走り出した。
 女も走り出す。
「あたしにかなうと思うのかい!」
 女は、口から激しい炎を吹き出した。
 男は、両手からすさまじい勢いで水を放出した。
「なんだと!?」
 女は、水の勢いに圧倒されて、吹き飛ばされ、壁に激突した。女が吐き出した炎は、逆に女の体に燃え移り、女は火達磨になった。
「馬鹿な…!?まさかお前も…!?」
 男は、無慈悲な表情で女に近付き、火達磨の女の体に水を浴びせた。女は火達磨から解放されたが、間髪入れず、男は女に電撃を浴びせた。
「ぐあああああ!!」
 女はそこらじゅうを転げ回り、苦しみ悶えた。
「…殺すなと言われている。」
 男は、女の手足を鎖で縛り、猿ぐつわを噛ませた。
 女は、状況をすぐに察知し、何とか逃れようともがき続けたが、鉄の檻に入れられると、途端におとなしくなった。
「…これからどうなるか、もう分かっているだろう。あの女のもとに行くんだ。」
 女の体はガクガクと震えていた。
 男は、鉄の檻を軽々と片手で持ち上げて、歩き出した。

「ホワイトローズの勝ちだな。ま、予想通りだが。」
 物陰で、バンパイア同士の抗争を覗いていたフィンが言った。隣にはウォッカもいる。
「あれじゃ、あたしたちの出番も何もなかったわね…。あの男の人一人で…。」
「あいつが綺羅だな。聖羅の弟の…。…とにかく、状況をキールに報告しよう。」
 BOXのホログラムでキールが浮かび上がった。
「…というわけで、俺たちにはどうしようもない。」
「そうか、そうか。ホワイトローズが勝って、レッドローズは壊滅したんだな。よし、それでいい。お前たちは、余計なことはしないですぐに戻って来い。いいな?」
 それだけ言って、ホログラムのキールは消えた。
「…まあ、余計なことをしたくても、今の状況ではムリだな。戻ろう。」
 フィンとウォッカはゴーレム宿舎に戻った。

「しばらくは抗争も起きないだろう。ブラックローズは謎が多い上に、構成員もハンパなく多いからな。さすがにホワイトローズも簡単に手を出せないだろう。よくやった。」
「いや、俺たちは何も出来なかったんだが…。」
 フィンたちは、キールの研究所にいた。
「だが、あの戦いで、ホワイトローズもかなり数が減っただろう。このままだと、ブラックローズの天下じゃないか?」
「そうとも言えん。ブラックローズは、ホワイトローズを潰すことはしないだろう。むしろ、そのまま泳がせておくはずだ。バンパイアの集団が自分たちだけになると、ゴーレムの監視も厳しくなることは分かり切っている。それよりは、ホワイトローズにいてもらった方がいいはずだ。」
「となると、ホワイトローズを俺たちが…。」
「それはだめだ。」
 キールが強く言った。
「今の状況は、非常に安定している。ブラックローズもホワイトローズも動かない。これが理想的なんだ。」
「そうかな。バンパイアをサイバー化して、ホワイトローズは何かを企んでいる。」
「…とにかく、この件は一旦終わりだ。勿論、ホワイトローズとブラックローズの監視は続ける。何か動きがあったら知らせる。くれぐれも、余計なマネはしないようにな。」
「余計なマネとは?」
 フィンが言った。
「…お前たちは、ゴーレム団員だ。人々の安全を守るのが仕事だ。そのことを忘れるな!」
 キールはそれだけ言って、フィンたちを部屋から追い出した。
「やれやれ…。」
 フィンは首をすくめた。
「確かに、キールは何かを隠してそうね。」
 ウォッカも言った。
「…話は帰ってからにしよう。」
 二人は宿舎の部屋に戻った。
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