第6話「ゴーレム(1)」

文字数 2,559文字

 キールについていく途中、フィンは、見覚えのある顔に出会った。
「フィン!?フィンじゃないか!!」
「テキーラ!?」
 カールした真っ赤な長い髪の美女が、フィンに向かって走って来た。
「誰?」
 ウォッカは眉をひそめた。
「昔、一緒に旅をしていた仲間だ。」
「仲間…。」
「フィン!」
 女は、フィンを抱擁した。それを見て、ウォッカの心に怒りが湧いた。
「苦しい…。」
「いやあ、まさかこんなところで再会するなんてね!おや?こっちの可愛らしい子は?」
「あたしはウォッカといいます。フィンの相棒です。」
 ウォッカはむっとしたように言った。
「そうかい、ウォッカね。あたしはテキーラってんだ。よろしくね。」
「テキーラ、お前、しゃべれるようになったんだな。」
「ああ。あれから何百年たったと思ってんのさ。その間に、少しずつね。しゃべれるようになったのさ。そうだ!ジンジャーも、アリスもブランデーもいるよ!呼んでこようか?」
「いや、俺たちは今から、テストを受けに行くんだ。」
「ああ、ゴーレムの?あんたたちもゴーレムになるんだね。嬉しいよ。きっと、アリスも大喜びするね。それじゃ、後でね。積もる話があるんだ。」
 テキーラは手を振って、店のある方へ走っていった。
「…アリス?」
 ウォッカは、不審な目つきでフィンを見た。
「なんだ、その目は。仲間だって言っただろ。それも、皆バンパイアなんだ。」
「え?バンパイア?あたしと同じ?」
「ああ。」
「そうだったのか。テキーラたちの知り合いだったのか、お前。」
 キールも驚いたようにフィンを見た。
「一体、お前は何者なんだ?バンパイアでもないのに、そんなに長く生きてきたとは…。」
「……。」
「まあ、いい。とりあえず、テストが先だ。」

 ワープサークルでゴーレム本部に移動した。
 ゴーレムテストは、施設の奥の方にある訓練所の一画で行われた。
 身体能力テスト、知能テスト、心理テストなど、様々なテストを受けさせられ、二人はすっかり疲労困憊した。
 結果はすぐにキールから伝えられた。
「ウォッカは戦闘員に決定。そして、フィンだが…。」
「一定期間の訓練の後、戦闘員とする。」
「あたしは、訓練しなくていいの?」
 ウォッカが聞いた。
「うむ。ウォッカの方は戦闘能力に何も問題がないからな。むしろ、現役戦闘員の中でもトップクラスに入るだろう。だが、フィンの方は…最低限、自分の身を守ることは出来るようだが、相手を倒すこととなると、消極的な傾向だ。身体面の問題というより、これは心理的な問題だ。せっかくサイバーの体になったからには、徹底的に訓練して、サイバーの戦い方を身に付けてもらう。以上だ。」
「そのことだが、キール。俺には、浄化の力があるんだ。」
「浄化?」
「魔物を元の人間に戻して、浄化する。これは俺の使命なんだ。」
 それを聞くと、キールは笑った。
「魔物が人間だったって?何を言うんだ。」
「魔物は、造られた存在なんだ。…いや、無理に信じなくてもいい。とにかく俺は、魔物を浄化することが使命だ。そのために、ゴーレムの仕事をする。」
「浄化というのは、つまり、倒すことと同じと考えても差し支えないのだな?」
 フィンは頷いた。
「それはそれとして。サイバーになった者は皆、訓練を受けることになっている。サイバーの体に慣れてもらい、その超人的能力を活かしてもらうためにな。フィン、お前はキカイとの同調率が80%を超えていた。訓練すれば、ウォッカほどの戦闘員になることも夢ではないぞ。普通の人間は、キカイとの同調率は高くても30~40%程度なんだ。お前の肉体とキカイとの相性が良かったということだ。サイバーになるために生まれてきたといっても過言ではない。」
「すごいじゃない!なんか、よく分からないけど…。」
「やれやれ…。訓練か…。」
 フィンはため息をついた。
「そして、お前たちを正式にゴーレム団員と認める。これは、団員全員が所持するゴーレム専用の『BOX』だ。連絡を取るときに使う。」
 二人はそれぞれ、キールから、手の平サイズの小さな四角いカードを手渡された。
 『BOX』は、この時代、ほとんど全ての者が所持している機器だった。
「用があるとき、それを触れば、ホログラムで相手が出てきて会話が出来る。また、文字などを伝えたいときには、ホログラムボードが出てきて、それを使って文字などを打てる。ま、使ってみるうちに慣れてくるだろう。」
「…これ、失くしたりしないかな?」
 ウォッカが言った。
「失くしても、それぞれの認証コードが埋め込まれているから、簡単に探すことが出来る。もし失くしたら、わしか、施設の受付に言えばいい。」

 キールと別れて、部屋へ戻る途中、朝テキーラと出会った場所に、一人の小さな女の子がいた。
 その、黒髪のおかっぱ頭の女の子は、誰かを待っているように見えた。
「…アリス。」
 フィンは、仕方なさそうに言った。
「フィン!?」
 途端に、アリスと呼ばれた女の子は、目をキラキラとさせて、フィンの方を振り返った。
「フィンーーー!!」
 アリスが走って来た。そして、フィンに抱きつこうとしてきたが、フィンはそれをひらりとかわし、アリスは、後ろにいたウォッカに抱きとめられた。
「ひどい!もし誰もいなかったら、あたし、転んでたわ!」
「…自業自得だ。」
 フィンはため息をついた。
「もう!フィンったら!あたしが今まで、どれだけ待ってたと思ってるの!?フィンは、あたしたちに会えて、嬉しくないの!?」
「嬉しい。嬉しいに決まってるさ。…しかし今は、カンベンしてくれないか。ゴーレムテストで、疲れてるんだ。また後でな。」
 フィンの後を追いかけようとして、ふと、アリスはウォッカを見つめた。
「…あなたは?」
「あたしはウォッカ。フィンの相棒なの。」
「あいぼう?」
 ウォッカはにっこりと笑った。
「…あたしは、アリス。昔、フィンに助けてもらったの。テキーラも、ジンジャーも、皆。」
「そうなんだ。あたしもバンパイアなのよ。」
「そう…なの!?じゃあ、仲間…。ジンジャーが喜ぶわ!」
 アリスは、店の方へと走って行った。
「…仲間、か…。」
 ウォッカは、砂の塔で見たフィンの記憶の中に、テキーラやアリスたちがいたことを思い出した。
 夕日の沈む空を見上げながら、ウォッカは部屋に戻って行った。
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