第8話「ゴーレム(3)」

文字数 2,696文字

 一方、フィンは訓練所で特訓をしていた。
 フィンを教えるのは、バーボンという名前の男だった。バーボンは、30代くらいの黒い肌をした男で、黒いサングラスをかけていて、大柄で筋肉質の体格をしていた。
「俺はバーボン。ガンマ・エリアを担当している。」
 スカイシティは、ゴーレムにより30のエリアに分かれていた。
 エリアごとに、担当する団員がおり、治安の維持、魔物の退治といった任務に当たっていた。
「まず、サイバーの戦い方についてだが…、お前は剣を持っていたな。」
 フィンは、剣を取り出した。
「それは、サイバー専用の武器だ。攻撃するとき、電気が出るようになっている。武器に、スイッチが付いている。それをオンにするんだ。」
 フィンは言われた通りにした。剣の柄に付いているスイッチを押すと、スイッチが緑色に光った。
「それで、サイバーゴーストを斬り殺せる。電気は、ゴースト系の弱点なんだ。サイバーゴーストもゴースト系だ。ここまで、分かったか?」
 フィンは頷いた。
「よし、それじゃあ、実際に武器を使ってみよう。VRSのことは知ってるか?」
「ああ。キールに聞いた。」
「…VRSで訓練する。ここでは、これを使って仮想空間に入る。」
 そう言って、バーボンはフィンにゴーグル付きのヘルメットを渡した。
「それを被るんだ。VR内に出てくる魔物は、あくまでも仮想の敵だ。本物ではないが、本物と同じ能力を持っている。最初は、お前たちの配属先のイプシロン・エリアでやってみようか。」
 シミュレーターには、あらかじめ、スカイシティの地図が読み込まれており、各エリアでの戦いを想定した訓練を行えるようになっていた。
「俺も同行しよう。」
 バーボンは何も武器を持っていなかった。
「…あんたの戦いも見てみたい。」
 フィンが言うと、バーボンは頷いた。
「俺は、素手で戦うんだ。サイバー用の武器は、剣だけじゃない。色々ある。俺の場合は、腕だけがサイバー化しているから、拳だけで戦える。電気の入力も拳で切り替えられるようにしてあるんだ。」
「あんたもサイバーなのか。」
「ああ。しかし、体の一部分だけのサイバーは特別ではない。ゴーレム団員の半分は、からだのどこかをサイバー化している。お前のように、体のほとんどの部分をサイバー化しているのは稀だ。しかも、それで普通に動けるんだからな。」
 バーボンの声音から、感心しているような響きをフィンは感じ取った。無表情で無駄口を叩かない男だが、信頼できそうだと思った。
 訓練所の一画に、均等な間隔で並んだ椅子が4つあった。
 椅子には、様々なコードが接続されていて、奥にある機械と繋がっていた。
「それに座れば、VRSが起動する。」
 フィンは、ヘルメットを被った状態で、椅子に座った。
 椅子に座ると、自動的にシートベルトが出てきて、フィンの体は椅子に固定された。そして、椅子がゆっくりと傾き、180度より少し上の所で止まった。
 VR内に入って間もなく、周囲が街の中の風景に変わり、”敵”が現れた。勿論VR内なので、これは本物そっくりの偽物だが、ちゃんと体があり、「殺す」ことができる。
「まず手本を見せよう。」
 バーボンはそう言って、体を瞬時に硬化させた。すると、敵がバーボンを殴っても、全く効かず、むしろ固い体を殴った衝撃で、痛がっていた。バーボンは、体を鋼鉄のように硬くする能力を用いていた。この能力は、サイバーなら誰でも出来るが、バーボンはその能力を更に究め、拳だけで戦えるまでになっていた。バーボンの体そのものが武器であり、鎧なのであった。
 バーボンは、敵を鋼の拳で打ち仕留めた。一撃必殺。敵は砕け散った。
「強い…!」
 フィンは思わず唸った。
「まだまだ!」
 敵が次々に出て来た。それを、今度はフィンも加わって仕留めていった。
 フィンは、「浄化」の力を使ってみたが、仮想の敵には効果がなかった。
「なかなかいい動きだ。」
 バーボンがフィンの素早い動きを見て言った。
「じゃあ今度は、サイバー・ゴーストと戦ってみるか?」
 バーボンが言うと、目の前に、真っ黒い人影が現れた。仮想のサイバー・ゴーストだった。それはいきなり襲い掛かって来た。
「武器をさっきのようにオンにすると、サイバー・モードになる。そうすると、電気が発生する。」
 フィンの武器は、白く光っていた。
 襲い掛かって来たサイバー・ゴーストに向かって、フィンは剣を振るったが、するりとかわされ、逆に殴られ、地面に叩きつけられた。
「心配するな。少しくらいやられても、VRだから死にはしない。」
 バーボンが言った。しかし、フィンの体は痛みを知覚していた。
 フィンは、もう一度剣を振るって、ゴーストを真っ二つに断ち切った。ゴーストはそのまま、消滅した。
「よし、いいぞ。一旦休憩しよう。」
 VR内が一時停止状態になった。
「…お前は、戦いの経験がないと言っていたが、そのわりには、動きがいい。」
「敵から逃げたり、攻撃を避けることは得意なんだ。」
「なるほど。」
 フィンは、魔物を浄化するために、呪いの剣に身を守られていたとはいえ、ときにはその力が及ばず、魔物の攻撃をかわしたり、逃げたりすることもあった。また、旅をしている中で、人間にからまれることもしばしばあり、逃げたり隠れたりすることが特技になっていた。
「まあ、あとは剣の使い方を習得すればいいだけだな。サイバーの体をそこまで使いこなせていれば十分だろう。」

 今日の特訓が終わり、フィンは快い疲労を感じながら、帰路についた。
「おかえりなさい!」
 ウォッカがフィンを出迎えた。
「なんだ?その格好…。」
「テキーラさんにもらったの。エプロンていって、料理をするときに身に付けるんだって。」
 ウォッカは、いつもの黒いハーフトップの上に、フリルのついた白いエプロンを身に付けていた。
「まさか、お前が料理を?」
「うん。テキーラさんにレシピをもらったの。それ見て作ってみなって。今日はカレーライスだよ。カレールーは市販のを使えば、一番簡単なんだって。もうすぐ出来上がるわよ。」
「…しかしな、お前…。その格好はちょっと…。なんでゴーレム服を着てないんだ?」
「だって、今日はお休みでしょ。こっちの方が気に入ってるから。テキーラさんにもいいねって言われたよ。」
「あいつは…そういう趣味だからな…。」
 テキーラはいつも、露出の多い服や、派手な色のドレスを好んで着ている。
「そうだ、服を売ってるとこもあるのよ。あとで一緒に見に行こうよ。」
「…そういえば、冷蔵庫の中身もそろそろ切れる頃だったな。丁度、明日は特訓が休みなんだ。買い物に行こう。」
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