第16話「謎」

文字数 2,201文字

「綺羅。無事だったのね。」
 ユリスが綺羅を出迎え、キスしようとして、綺羅に手で払いのけられた。
「なによ。どうかしたの?せっかく…。」
「…俺が死体になって帰って来るのを待ってたのか?」
「何その言い方…。」
「レッドローズのクレナ、あいつはサイバーだった。」
 綺羅はユリスを鋭い目で睨んだ。
「お前が手術したな。」
「そうよ。それがどうかしたの?」
 ユリスは腰に手を当てて、挑発的な表情をしてみせた。
「ブルーローズと戦わせて、一体何を企んでた!?」
「別に。で?勝ったの?負けたの?」
「知らばっくれやがって。俺たちはもう壊滅だ。分かってんだろ。」
「ふふ…。怒ってるのね。でも、大丈夫よ。ブルーローズは復活できるから。」
「倒れた奴らは、皆首を落とされた。」
「そんなの関係ないわ。体さえあればね。あたしの手術で…。」
「それより、俺をサイバーにしてくれないか?」
「え?」
 ユリスは驚いたように目を丸くした。
「クレナと戦うには、それくらいしないと無理だ。」
「まさか、綺羅がそんなこと言うなんて。あんなに、サイバーを嫌がってたくせに。」
「頂点に立つためには、もう手段なんか選んでいられない。」
「頂点って…。ブラックローズの頭はクレナなんかよりずっと強いわよ。あんたには無理よ。」
「お前は元ブラックローズだ。そいつの弱点くらい知ってんだろ。」
「知らないわ。だって、会ったこともないもの。」
「会ったことがないだと?」
 綺羅は眉間にしわを寄せ、怪訝そうな顔をした。
「ないわ。本当に。でも、強いのは確かよ。あたし、奴の命を狙ったことがあったんだけど、全然捕まらないし、影すらも見れなかったわ。なんだか怖くなって、それで逃げて来たの。」
「それで、なんで強いと分かるんだ。」
「カンとしかいいようがないわ。だって、全然姿を見せないなんて、おかしくない?だけど、別に奴をガードしてる者も見当たらなかったし、本当に奇妙なの。それでもブラックローズはちゃんと機能しているし、奴も姿は現さなくても、BOXとかで部下に指示を出していたわ。男か女かも分からない。謎の存在よ。」
 綺羅はユリスの話を聞いて、腕組みをして、何か考えていた。
「ちょっと!?綺羅?」
 綺羅は、突然ユリスの手首を掴んだ。
「手術してくれ!頂点に立つには、もうそれしかないんだ!ブラックローズだって何だって、やってやる!」
「分かったから!落ち着いてよ!なんでそんなに頂点にこだわってるの?レッドローズを潰せばそれでいいじゃない。」
「俺はそんなので満足出来ない。バンパイアの頂点に立ってやるんだ。そうすればお前だって、俺を認めざるを得ない…。そうすれば、実験なんて…!」
 それを聞いて、ユリスは笑い出した。
「あんた、あたしの実験を止めるために、そんなこと言ってたの!?アハハハ!!」
「…最初はそれだけだったが…。」
「分かったわ。そんなに実験をやめてほしいなら、やめてあげる。ただし、本当に頂点に立ったらの話よ。それじゃあ、早速サイバー手術してあげるから、とりあえず汗を流してきて。汚い体では、手術ができないから。」
 笑いながら、ユリスは手術の準備を始めた。
 綺羅は、シャワールームに入った。

 フィンとウォッカは、訓練所に来ていた。
 これから、バーボンの指導を受けるのだ。
「サイバーがサイバーと戦うこともある。その際、相手を電気ショックで体を麻痺させ、動けなくしたり、気絶させたりすることはよくある戦術だ。そこで、電気から身を守る術を教えよう。」
「まさか、ゴムの服を着るとか言わないわよね?」
「そんなことをしても無駄だ。サイバー武器の電圧には耐えられんだろう。耐えるのではなく、体内の気で、跳ね返すんだ。」
「気?」
「人間は、目に見えない気を纏っている。肉体を包むように、気が全身を流れているんだ。それは、エーテル体とも言われる。その流れを己の力でコントロールするんだ。」
「エーテル体…それは知っている。昔、神官だった頃に修行した。」
「ほう。なら、フィンに教えることはなさそうだな。」
「ちょっとフィン!それが出来るんだったら、なんであのとき動けなくなったのよ!」
「いや、それは単に相手がサイバーだとは知らなかったし、昔のことで今まで忘れていた。」
「とにかく、相手に電気攻撃をされそうになったら、気を放出するんだ。やり方は…。」
 ウォッカは、バーボンと一緒にVRSで訓練を始めた。
 気のコントロールの仕方を教わると、早速実践に入った。
 バーボンが、電気を纏った拳で、ウォッカに攻撃してきた。
 それを、ウォッカが気を放出して、攻撃を弾き返した。
「いいぞ。お前には、簡単だったな。」
「元々戦士だったし、なんとなくコツがつかめたかも。」
「そうか。お前は戦士だったのか。面白いコンビだな、お前たちは。」
 バーボンは笑った。
「あ!笑った。バーボンさんて、笑うんですね。」
「どんなイメージなんだ、俺は。俺だって笑うさ。」
 VRSから出たウォッカとバーボンは、待っていたフィンのもとへ行った。
「終わったのか?早かったな。」
「ウォッカの飲み込みが早くてな。もうこれで教えることはない。」
「ありがとうございました。」
 ウォッカはバーボンに頭を下げた。
「逆に、今度は俺が不安になってきたな…。バーボン、俺もVRSで訓練したいんだが。」
「分かった。俺も行くか?」
「頼む。」
 今度はバーボンとフィンが訓練に入った。
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