第3話「未来へ(3)」

文字数 1,542文字

「フィン!」
 ウォッカが起きてきた。
「あたしたち、このおじいさんに助けられたのよ!フィンは大怪我してて…。でも、良かった。」
 ウォッカはにこっと笑った。
「なんだ、ウォッカの方が詳しそうだな。」
「詳しいっていうか…。あたしは怪我しなかったから。」
「気絶したって聞いたが。」
「ああ…。それは、おじいさんがフィンを手術するって言うから、なんか混乱しちゃって…。」
「全く、この嬢ちゃんがそれはそれは泣きついてな。フィンを助けて、助けてって。」
「それより、どういう状況だったんだ?じいさん…博士が事故を起こしたのか?」
 フィンは事故前後の記憶が飛んでいた。
「あたしたちは、砂の塔からこっちの世界へ来たの。それは分かる?」
 フィンは頷いた。
「それで、あたしたちが歩いてたとこは、『エアライド』が走る場所だったの。エアライドっていうのは…この世界の乗り物らしいわ。馬車より早いんだって。」
「しかも、あのときは、暴走族の奴らが改造ライドを競ってた所だったんだ。俺はいつもそこで、負傷する奴を狙っててな。助けると言って、サイバー手術して、ゴーレムに引き入れていたんだ。」
「そういうことか…。」
 フィンはやれやれといった顔をした。
「引き入れる、というよりは、更生させる、といった方が正しいな。」
「まあとにかく、何でもいいさ。どうせ行くところはどこにもないからな。ウォッカはどうする?」
「あたしも、ゴーレムに入るに決まってるわ。」
「ああ、フィン。この嬢ちゃんがバンパイアってことは知ってるぞ。だが、それは問題ない。」
「どういうことだ?」
「見た所、人間に危害を加えることはなさそうだしな。それに、バンパイアに効く薬があるんだ。それを飲めば、一定時間、血への渇きを抑えられる。わしが開発したんだがな。」
 キールは得意気に言った。
「そうなの。さっき、薬をもらって飲んでみたわ。今の所、全然血が欲しくないの。なんだか、人間だった頃に戻ったみたい。」
「そんな都合のいいものがあるのか?」
「バンパイアは、昔からいる魔物だ。それを、魔物としてでなく、一種の病気として捉えた研究は昔から進められていた。それを、わしが完成させたというわけだ。さらに、薬を飲み続けることで、昼間も外を歩けるようになる。」
「すごいじゃない!ねえ、フィン。あたしこの時代に来て良かった!」
「…本当だとしたら、今までの苦労が、何だか虚しいな…。」
「そんなことないわ。過去は過去よ。あたしはバンパイアの症状がなくなってほしいって思ってたわ。それが、未来に来て実現するなんて、本当に夢みたい。」
「とにかく、今日のところは、ここに泊まってもらうとして、今後のことは、明日話す。」
 そう言って、キールは部屋から出て行った。

「…未来に来て早々に、働く所が決まるとはな…。これからは、定住しながら魔物を浄化することになりそうだな。ま、お前も良かったんじゃないか。」
「勿論よ。」
 ウォッカは、微笑んだあと、フィンをじっと見つめた。
「…相棒、か…。」
「聞いてたのか。」
「そりゃあ、相棒には相棒かもしれないけど…。あたし、砂の塔でフィンのこと、色々分かったんだから。」
 ウォッカは少し悪戯っぽく微笑んだ。
「やめろよ。」
 フィンは珍しく、困ったような顔をした。
「もう。」
 ウォッカは、フィンの頬を人差し指で軽くつついた。
「そうね。同じ不死身どうしだもの。今のままがいいのかもね。」
「俺は、どうだろうな。呪いの剣がなくなったから、不死身じゃなくなったかもしれない。」
「そういえばそうね。あの大きな剣がなくなってる。」
 ウォッカは青ざめた。
「いやよ。フィンがあたしより先に死ぬのは。」
「キカイと人間の融合…サイバーって言ったか。サイバーについて、もっと知る必要があるな。」
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