第4話「未来へ(4)」

文字数 2,763文字

 翌日。
 フィンとウォッカは、キールの案内で、ゴーレムの施設を一通り回ることになった。
 昨日フィンたちがいた部屋は、キールの研究所兼手術室だった。
 そこを出ると、狭い路地裏になっていて、地下街に通じていた。
「ここは、買い物したり、飲食したりできる所だ。ゴーレムの奴らがよく利用している。」
 地下街を通り過ぎて、階段を上って行くと、広い街のようになっていて、ゴーレムに所属する者たちの居住区域になっていた。
 そして階段のすぐそばに、大きなエスカレーターがあり、ゴーレムの施設に繋がっていた。
 風景の全てが、フィンたちには新鮮だった。何しろ、機械のない世界からやって来たのだから。
 ウォッカは、気になったもの全てについて、キールにいちいち尋ねた。キールは嫌がらずに、丁寧に教えてくれた。
「すごい!ひとりでに動いてるわ!歩いてないのに。」
 エスカレーターに初めて乗ったウォッカは、子供のようにはしゃいでいた。
「手すりにつかまった方がいいぞ。身を乗り出して、落ちたらどうする。」
 フィンが注意した。
「分かってるわよ。」
 ウォッカは頬を膨らませた。
 エスカレーターを降りると、施設の入り口になっていた。
 受付カウンターが二つ、入ってすぐの所と、奥側のカウンターとが平行に向かい合わせになっており、それぞれのカウンターの横には、何かの装置のようなものがあった。
「手前のカウンターでは、怪我などの治療が出来る。奥のカウンターでは、VRSに挑戦できる。VRSとは、ヴァーチャル・リアリティ・シミュレーターのことだ。仮想空間に入って、戦闘訓練を手軽に出来るものだ。」
 キールが説明した。
「いずれ、お前たちにもやってもらうがな。」
「VR?仮想空間?なんだかよく分からないわね…。」
 ウォッカは首を傾げている。
 カウンターのあるエントランスを通って、奥へ進んで行くと、左手に、大部屋が二つあった。右手には、シャワー室やトイレがあった。大部屋は、教室になっていて、前方に大きな電子モニターが設置され、20個ほどの各机にはパソコンも設置されていた。
「ここでは、講習を受けたり、会議をしたりする。まあ、今はそんなに使われていない部屋なんだが。」
 廊下を更に進もうとすると、そこでキールが止まった。
「この先は、お前たちには関係ない所だ。まあ、あとで気が向いたら覗いても構わんが。機械だらけでつまらん所だ。お前たちがよく利用することになる所は、エントランスのカウンターだけだな。あそこで受付すれば、すぐに戦闘訓練が出来る。これは覚えておくといい。」
 施設から出ると、再びエスカレーターに乗って下へ降りた。
 エスカレーターの右側には、施設でも見た、円形の装置があった。
「これは何なの?」
「そうだった。これは、ワープサークルだ。これに乗れば、一瞬で別のワープサークルに移動できる。例えば、このワープサークルは、スカイシティに繋がっている。スカイシティは、このゴーレム居住区の南にある街だ。徒歩でも行けるが、ワープを使った方が早い。試しに乗ってみろ。」
 二人は、ワープサークルに乗った。
 すると、一瞬目の前が白く光って、次の瞬間には、目の前に大都会の街並みが広がっていた。
 二人の後から、キールもワープしてきた。
「ここがスカイシティだ。しかし、今はここには用がない。戻るときは、そこの認証マシンに手をかざすんだ。そうすると、ゴーレム団員と確認されて、ワープサークルが起動する。お前たちはまだ正式な団員ではないが、一応認証はしておいたから、手をかざしてみろ。」
 二人がそれぞれ、認証マシンに向かって手をかざすと、
「認証確認。ワープできます。」
という、機械的な声がした。
「さあ、乗ってみろ。」
 キールに促され、再びワープサークルに乗ると、白い光とともに、ゴーレム居住区のワープサークルに移動した。
 ゴーレム居住区は、一つの街のようになっていて、食料品などを売っている店のスペースと、住居スペースにきちんと分かれていた。どの建物も金属的な材質で出来ていて、半円や四角などの形をしていて、フィンたちにとっては見たこともないような建物ばかりだった。
「さて、着いたな。スカイシティのゴーレム施設についてはこんなところだ。どのゴーレム施設も、似たような造りになっている。ワープサークルの認証マシンで、行き先を指定できるからな。他にも説明したい所はあるが、今日の所はこのくらいでいいだろう。で、お前たちの住む所についてだが、スカイシティの一番西にある、イプシロン・エリア。そこの居住区の空き部屋に入ってもらう。ちょうど、二人部屋が空いていたから、そこで暮らしてもらおう。お前たちはそこに配属するつもりだったしな。」
「…二人部屋?」
 ウォッカが聞き返した。
「なんだ。別に困らんだろう。ちゃんと個室もあるし、ただ台所とか風呂トイレが共同ってだけだ。相棒なんだろう?何にしても、自由に使って構わんからな。」
 今まで二人は、旅の中で、宿をとって一緒に泊まってきたが、定住するというのは初めてのことだった。
 急にウォッカは、胸がどきどきしてきた。フィンの方を見ても、特に変わった様子は見られなかった。
 砂の塔で、過去のヴィジョンを共有し、互いの想いをも共有したという意識がウォッカを緊張させた。しかし、フィンは今のままの関係でいたいと言った。それでもウォッカは、今まで一つの所で他人と暮らしたことがなく、しかも相手が好意を寄せている者だとは。考えただけでウォッカの顔が熱くなった。
「ははは…。良かったね。住むところも決まったし、えーと、あとは?」
 ウォッカは誤魔化すように笑ってから、キールに聞いた。
「明日、ゴーレムテストを受けてもらう。団員になる者は皆テストを受ける。戦闘能力などを確認するためだ。」
「テスト?」
「うむ。ある一定の点数に到達しない者は、戦闘員ではなく、その他の雑務に当たってもらっている。まあ、お前たちは見るからに戦闘員の方だろうがな。」
「いや…。俺は剣を持ってはいるが、使ったことがないんだ。」
 フィンが言った。
「何だと!?」
 キールが驚いた顔をした。
「今までは、剣の力で守ってもらっていたが…。サイバーってのになったら、どうなるのか…。」
「サイバーは、戦闘員にふさわしい体なんだ。とはいえ、もともとの素質もあるが。まあ、明日のテストでどうなるかだな。」
「あたしは戦闘員で決まりね。テストに合格してみせるわ。」
「よしよし、その意気だ。それじゃ、お前たちの部屋に案内するぞ。」
 再びワープサークルに乗って移動し、キールの後をついていくと、居住区の北西側の、一番隅にある部屋の前で止まった。
「ここが、お前たちの部屋だ。じゃあ、わしはこれで。」
 キールはどこかへ去って行った。
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