第17話「新たな力」

文字数 2,267文字

 ユリスの手術が終わり、麻酔で眠っていた綺羅は、ベッドで目を覚ました。
「どう?気分は…。」
 身を起こした綺羅に気付いたユリスが近付いて声を掛けた。
「…終わったんだな。俺は…。」
「そう。サイバーになったのよ。そしていずれはあなたが最強のバンパイアになるの。」
「…特に体に異常はないな。何かが変わったという実感もない。」
「綺羅。あなたは3つの力を手に入れたのよ。電気、火、水。クレナは火だけだから、対抗するには水の力を使うといいわ。炎なんか水で消してしまいなさい。あとは火でも電気でも、好きな力でクレナを…。」
「しかし、クレナを倒していいなら、何故手術をしたんだ?始めから、俺をサイバーにするつもりだったのか?」
「…そうよ。聖羅もクレナも、あくまで実験体。バンパイアがサイバーになれるかどうかは分からなかったの。だから試したの。そして手術は成功した。綺羅もね。ブラックローズに対抗するには、もうサイバーになるしか方法はないの。」
「ブルーローズを潰させたのは、それもお前の計画のうちなんだな!?仲間をなんだと思ってるんだ!」
「仕方ないのよ、綺羅…。私だって、聖羅が死ぬなんて思ってなかったのよ、本当に。」
「聖羅のことはどうでもいい。ブルーローズの仲間のことだ!」
「私を責めるのはお角違いよ。クレナがやったことでしょ。私はそこまでは考えてなかったわ。まあ、クレナをサイバーに強化すれば、抗争が起きるかもしれないとは思ったけど。…でもね、もうすぐ完全なキメラが作れるわ。クレナとキメラを合成して、完全なキメラを作るの。その後、あなたとクレナを合成すれば…完全なバンパイアが生まれるのよ…。」
 うっとりと、ユリスは夢見るような目で言った。
「聖羅はゴミだったけど、クレナはもとが強いバンパイアだからね。日光に強いキメラと合成すれば、完璧なキメラ・バンパイアが出来るわ。そして、その完璧なキメラを、あなたと合成させれば…。私の研究は完成するはずよ。」
「…日光に強いキメラはもう出来てるのか?」
「ええ。ありとあらゆる日光に強い植物と生物を掛け合わせて作ったの。見る?」
「…いや。」
 綺羅は、いつか研究室で見たグロテスクな生物を思い出して、気分が悪くなった。
 それらをいずれ、自分の体と融合させられるのだ…。

 一方、ゴーレムでは、訓練を終えたフィンとウォッカが、キールの研究所で話をしていた。
「…というわけで、バンパイアはブルーローズが壊滅して、ホワイトローズとレッドローズ、それにブラックローズの3つになった。今度お前さんたちがやるのは、ホワイトローズだ。」
「ブラックローズのナンバー2が作ったっていう…。だが、俺たちがわざわざ手を下すまでもないんじゃないか。」
「そうだ。そこなんだが。」
 キールが、にやりとした。
「ホワイトローズとレッドローズが争っている所を狙う。おそらく、レッドローズはホワイトローズに負けるだろう。レッドローズに勝って喜んでいるホワイトローズも負傷している。そこへ、俺たちが…。」
「なんかせこいわね…。」
 ウォッカが呆れたように言った。
「何故、ホワイトローズが勝つと思うんだ?」
 フィンが聞いた。
「…まあ、なんだ。ブラックローズのナンバー2がいるからな。それに、そいつはサイバー手術が出来るとすれば、おそらく仲間をサイバーにしているかもしれんからな。」
 キールの返答は、どこか歯切れが悪かった。
「…じゃあ、そのときが来たらBOXに知らせる。いつでも行けるように準備はしておけよ。」
 フィンとウォッカは研究所を出た。

「やはり気になる…。」
 家に戻ったフィンは、ソファに座って考えていた。
「…キールが何か隠してるかも、ってこと?」
 ウォッカが言った。
「ああ。間違いなく、何かを隠している。ブラックローズのことでな。」
「なんで隠すことがあるっていうの?」
「知られるとまずいことがあるのかもな。例えば、ゴーレムの資金源は?装備や設備が充実しているが、それを維持するには金がいる。その金はどこから入るんだ?」
「どこからって…、あたしたちもゴーレムから給料をもらっているじゃないの。その給料は…魔物を倒してるから入るんじゃないの?魔物とか悪人を引き取る所とかから?」
「その、魔物や悪人を引き取る所とはどこだ?」
「確か、魔物は消滅させる、って言ってたわよね。悪人は、更生施設に入れるとか…。」
「魔物をどこで処分するんだ?更生施設とはどこにあるんだ?」
「そんなの、知らないわよ。」
「…そう考えて調べていくと、俺たちの住むアウターエリアにそういう場所はないことが分かった。だが、アウターエリアの外側に、更にエリアがあってな。そこはデッド・ゾーンと呼ばれている。おそらく、魔物や悪人はそこに送られている。」
「ええ!?どうしてそんなことが分かったの?」
「…BOXで何でも調べられる。だが、デッド・ゾーンのことはBOXでも出て来ない。そういうときには、足で調べるしかない。ロー・エリアなんかの貧民街ではその手の情報が集まってた。もちろん、金とか物と交換にな。そんで、デッド・ゾーンについて少し分かったんだ。」
「いつの間に調べてたの?」
「…とにかく、魔物と悪人の処分先はデッド・ゾーンだ。そして、デッド・ゾーンを管理する者が当然いるはずだ。資金はそこからこちらに流れているとみた。」
「どういうことなの?デッド・ゾーンを管理する者って…?」
「今、分かっているのはそれだけだ。ま、今はバンパイアどものことに集中しようぜ。そのうち、何か分かるかもしれないしな。」
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