第5話「未来へ(5)」

文字数 1,926文字

「…しまった。」
 フィンが呟いた。
「え?」
「家賃とか、給料のことを聞き忘れたな…。」
「そんなこと。そのうち分かるんじゃないの?結構細かいよね、フィンって。」
 フィンたちの部屋は、四角い建物の一番隅だった。
 ウォッカが先に部屋の前に立った。
「えーと?どこから入るんだろう?」
 ドアと思われる、四角く窪んだ部分の横には、認証マシンに似た小さな画面が付いていた。
「そうだ、これに手をかざせば…。」
 手をかざすと、ドアが上下に開いた。
「ドアが割れた!?」
 二人が中に入ると、ドアは上と下から閉じた。
「へえ~…。変わってるわね。」
 ウォッカは感心していた。
 フィンは、部屋を確認していた。
 備え付けの冷蔵庫があり、フィンは、中身を確認した。
 冷蔵庫の中には、卵、牛乳、飲用水、肉、魚、野菜などがおよそ三日分ほど入っていた。
「…一応、食べられそうだな…。」
 一人で頷いて、フィンは冷蔵庫を閉めた。
 他の部屋や設備も点検して、異常がないことを確認した。
「ウォッカは、どっちの部屋がいい?俺はどっちでもいい。」
「じゃあ、こっちにする。」
 二つある個室のうち、フィンが左奥側、ウォッカは右奥側になった。
 個室の間に、風呂とトイレがあり、玄関からすぐに広いリビングと、カウンターで仕切られた台所があった。
「いい部屋だな。なかなか住みやすそうだ。」
「そうね。」
 ウォッカは、リビングに備え付けのソファにごろんと横になった。
「ああ~…。なんだか疲れたわ…。」
「そんなところで寝るなよ。自分のベッドがあるだろう。」
「フィンてさ…、ううん。なんでもない。」
 ウォッカはあくびをしながら、自分の個室へ行き、ベッドに横になった。
 フィンは、風呂を適当に掃除したあと、そのまま風呂に入った。風呂から上がると、冷蔵庫から葉物の野菜を取り出してそのまま食べて、それで食事が終了した。そうして、個室へ行って寝た。その間も、ウォッカはずっと眠り続けていた。
 朝になり、慌てて起きたウォッカは、急いで風呂に入って着替えた。そして、キールから処方されたバンパイアの薬を飲み、フィンが起きてくるのを待っていた。
 フィンが起きて来た。フィンは、今までの服装ではなく、新しい服を着ていた。
「あ、それ、あたしのとこにもあった服。」
「おそらくこれは、ゴーレムの服だろう。動きやすくてなかなかいいな。」
 ゴーレム専用服は、誰が着てもサイズがぴったりになるようになっていた。全身黒色で、上下に分かれていて、上はジッパーで着脱するようになっており、襟が首元まであって、フードが付いていて、上は尻が隠れるくらいの丈の長さだった。下はちょうどよくフィットしたスキニーパンツで、丈夫で、動きやすい素材で出来ていた。
「あたしも着てみたんだけど…。なんか…ぴったりしすぎてるような…。」
 ウォッカの豊かな美しい胸の形がくっきりと浮かび上がっていた。
「そんなもんだろう。今までの方が、肌の露出が多かったと思うが。」
 確かに、今までウォッカの着ていた服装は、下着も同然の黒いハーフトップに、黒いミニスカートだった。
「ま、似合ってるよ。」
 フィンは適当に誤魔化した。
「…それより、腹へらないか?俺は野菜を食うが…。」
「あたし?食べなくても平気。…って思ったけど、なんかお腹がすいたような気もするのよね。バンパイアなのに。血じゃなくて、何か食べられるものが欲しいのよ。」
「それじゃ、何か適当に作ってやるよ。」
「え?フィンて料理できるの?」
「一応な。旧世界では、神官として、料理の修行もさせられたからな。」
「へー!初めて聞いた。今まで、その辺に生えてる雑草とか花とか食べてたから、まさか料理が出来るなんて知らなかった。」
「…お前は、何も出来なさそうだな。」
「戦いのことばっかりだったから…。花嫁修業なんてバカバカしいって思ってたのよ。」
 ウォッカは、旧世界では戦士だった。砂の塔で、全ての記憶を取り戻していた。
「これからは、生活に必要なことも学んでいかないとな。」
「これだから…、本当、フィンてお父さんみたいね。」
 などと言っているうちに、美味しそうな卵焼きが出来た。
「懐かしいわ。昔はこういうものを食べていたのよね…。」
 ウォッカは、カウンターの席に座って、フィンに出された卵焼きを食べた。
「おいしい!料理は、フィンに任せておけばいいわね!」
「だめだ。今日は特別に作ってやったが、基本は、自分でやることだ。」
「そんな…。」
 そしてしばらくして、キールがやって来た。
「昨日はよく眠れたか?」
「おかげさまで。準備は万端よ!」
 ウォッカは張り切って言った。
「よしよし。それじゃあ、テストルームへ向かおう。」
 二人は、キールについていった。
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