第10話「アウターエリア」

文字数 3,452文字

 サイバーの特訓が終わったフィンは、正式にゴーレムの戦闘員として認められた。
「よし。これから任務に入ってもらう。お前の所属となるイプシロン・エリアには、既にテキーラとジンジャーがいるんだが、常に人手不足でな。お前たちに入ってもらうことにした。イプシロン・エリアは、魔物も多いが、悪党も多いエリアだ。だから、テキーラたちのような、強いバンパイアの力が必要ってわけだ。それにサイバーのフィンとバンパイアのウォッカが加われば、まず無敵と言えるな。」
 かかか、とキールは笑った。
「それで、お前たちはバディを組んで任務に当たるわけだが、テキーラ、ジンジャー組と交代でやることになるだろう。まあそのへんは、テキーラたちとも相談して決めてくれ。」
「テキーラたちは、バーをやってるが…、そんな余裕があるのか?常に魔物とか悪党を見張ってなくてもいいのか?」
「街の至る所に、ゴーレムの監視カメラが設置されている。カメラの内容は、本部の方で確認している。もし、悪党とみられる者や魔物がいたら、ゴーレムのBOXに知らせるようになっている。これは、イプシロン・エリアに限らず、全てのエリアでそのような仕組みになっている。」
「悪党、というのは、どうやって見分けるんだ?そいつも殺すのか?」
「基本的に魔物は消滅させるが、悪党に関しては、団員の決定に任せている。更生可能と思われれば、更生施設に移送する。更生不可能な悪党であれば、その場で殺す。その責任は、団員ではなく、俺が引き受ける。」
「…そうか。」
「でも、いくら悪党だからって…。同じ人間でしょ?殺すなんて…。」
「お前たちは、昔の時代からやって来たというわりには、生ぬるいことを言うのだな。今の時代は、金が全ての世の中だ。金持ちは栄えてスカイタワーに住み、庶民や貧乏人はこの、魔物や悪党が出るスカイタワーの外側、つまりアウター・エリアに住んでいる。」
「また新たな言葉が出たな。」
「スカイタワーというのは、この世の1パーセントほどを占める超金持ちたちの住む所だ。スカイシティの中心に位置し、周りを湖で囲まれ、東西南北に架けられた橋でしか行き来が出来ない。そして、そこには魔物は一切出ない。その理由は、後で説明する。そして、この世界…ネオ・エデンの中心がスカイタワーであり、その外側をアウター・エリアと呼んでいる。つまり、スカイタワー以外は全てアウター・エリアだ。」
「…つまり、あたしたちがいる所はアウター・エリアで、イプシロン・エリアはスカイシティのエリアの一つと考えていいのね?」
「その通りだ。」
「なら、別にアウター・エリアなんて言葉、いらないんじゃない?スカイタワーと完全に区別してるみたいでなんか嫌な感じね。」
「そう。区別するためにある言葉さ。スカイタワー=金持ち、アウター・エリア=貧乏人、とな。この世界では、金がないと生きていけない。そして、アウター・エリアを守るのはゴーレムしかいない。だから、悪党に情けは無用だ。」
「…そんなに世知辛い世の中になってるの?」
「どうだかな。場所にもよるだろう。このイプシロン・エリアはまだマシな方だ。魔物や悪党も多いが、それだけ人が多く賑わっている証拠でもある。スカイシティで最も貧しいエリアは、ロー・エリアだろうな。あそこは、魔物が少ない代わりに、悪党がはびこる所だ。ロー・エリアで悪党の仲間になって、他のエリアに盗みに行ったりする者も少なくない。」
「ところで、ネオ・エデンには、スカイシティしかないのか?他に、街とかはないのか?」
「ネオ・エデンは大きく3つの街に分かれている。一つはこのスカイシティ。二つ目はアクアシティ。三つめはグリーンシティだ。外から見えないから分からないが、それぞれの街は、巨大な飛行船になっているんだ。」
「飛行船?」
「空飛ぶ船、というとイメージしやすいか。昔、地震や津波に苦しんだ時代があった。それで開発されたのが、都市型飛行船だ。一つの街ごと移動することが出来る。これで、自然災害から逃れることに成功したんだ。」
「ここが船の中だなんて…。信じられないわ。」
 ウォッカが言った。
「昔から続けられてきた研究の成果だろうな。先人たちは、地震や津波で人々が苦しんだり死んだりしないように、様々なことを考え、研究してきたんだろう。」
 キールは、感慨深そうにして言った。
「さっき、スカイタワーに魔物は出ないといったが…。」
「それについては、いずれ説明するときが来る。説明ばかりで、頭が疲れたんじゃないか?今日の講義はこのへんで終わろう。任務については、あとでBOXで知らせるから、それまでは好きなようにしていて構わん。なんなら、新しく趣味でも始めたらどうだ?」
「趣味か…。」
 フィンは呟いた。
「そうだ、忘れるところだった。お前たち、任務のときは、エアブレードを履いた方がいいだろう。ヴィットの工房に寄って、自分のサイズに合ったものを選んでくるといい。ついでに、武器もな。フィンはいいとして、ウォッカは武器もあった方がいいだろう。」
「武器?あたしは素手で戦えるわ。」
「まあ、そう言わずに、ヴィットに見てもらえ。工房は、スカイシティの南、ゼータ・エリアにある。ワープサークルを使って行くと早い。」
 ゼータ・エリアは、工業地帯だった。どこもかしこも、工場や大型機械などがひしめき合っていた。
 キールに案内されて、ヴィットの工房へ行った。
 出て来たのは、黒いジャンプスーツを着た背の高い男で、背筋がぴんと伸びていて、キールと同い年にしては、かなり若く見えた。端正な顔立ちをしていて、白髪をオールバックにしていた。
「おう、キール。そいつらが、新入りか。俺はヴィット。よろしく。」
「俺はフィン。」
「あたしはウォッカ。」
 二人も自己紹介をした。
「で、こいつらに、エアブレードを選んでほしいんだ。あと、こっちの嬢さんには、格闘用の武器だな。」
「分かった。ちょっと、足を見せてもらうぜ。」
 ヴィットは、簡単に二人の足をみると、工房の奥へ行って、少ししてから戻って来た。
 手には、ちょうどスケート靴のように、靴底にブレードのついた黒いショートブーツを持っていた。
「初心者には、このタイプがいいだろう。色は他にもあるからな。履いてみろ。」
 二人は、渡された靴を履いた。すると、ひとりでに体が地面から少し浮かんだ状態になった。
「エアブレードは、普通に歩くよりも早く進むことが出来る、エアライドの一種だ。エアライドは操作が必要だが、エアブレードは体で操作する感覚だな。その辺で、少し練習してみろ。慣れたら、奥で好きな色を選ぶといい。」
 二人は、地面から浮いた状態で進む感覚を練習した。
「面白いわね。」
 二人はエアブレードにすぐに慣れた。
 浮きながら、走るように早く進むことも出来た。
 そして、二人は工房の奥へ行って、エアブレードが並んでいる棚の前へ行き、同じタイプのエアブレードの中から、好きなデザイン、色のものを選んだ。
 フィンは、茶色いナチュラル系のデザインのエアブレードを、ウォッカはゴーレム服に合わせて、黒に銀のラメが入ったエアブレードを選んだ。
「そして、武器だったな。」
 工房をもっと奥へ行くと、武器庫になっていて、様々な武器が収納されていた。
「お前の戦い方は?」
「あたしは、素手で戦うの。それと、足も使うわね。」
「格闘系か。それなら、これがいいだろう。」
 ヴィットは、黒い厚手の革の手袋をウォッカに渡した。手にはめて拳を握り締めたとき、ちょうど相手を殴る部分が金属製になっていて、攻撃しつつ、自分の手を守れるようになっていた。
「格闘用グローブだ。それなら、綺麗な手を傷つけないで済む。」
「いいわね。ありがとう!」
 ウォッカは喜んだ。
「…代金は?」
「いらない。ゴーレム初心者だろう?ま、サービスってことで。次からは金をとるから、しっかり働けよ。」
 フィンに聞かれて、ヴィットはにっと笑って見せた。
「だが、俺は既に剣をあんたに作り直してもらった。」
「…そういうときは、まず礼をしなきゃな。」
「そうだった。ありがとう。」
 フィンは、ヴィットに言われて、苦笑いして言った。
「そう細かいことは気にするな。これで装備が整っただろう。だが、装備は常日頃点検をしないとな。それと、フィン。お前の場合は、サイバーだろう。サイバーは、定期的にメンテをすることになっている。そのときはまた知らせるからな。」
 二人はヴィットに改めて礼を言って、工房を後にした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み