第4話「錬金術」

文字数 5,551文字

 しばらくの間、ヨロイも療養所で過ごすことになり、庭では、元からあった物置小屋を改装して、ツルギとヨロイのための家に作り替える工事が始まった。工事は、コビトのラーフとリーフが呼び寄せたコビトたちが中心になって進められた。
「皆ありがとう。とても助かるわ。」
 コビトたちに、ユリカはお礼を言った。
「いいんですよ。ラーフとリーフが世話になってるし、俺たちも、時々ユリカさんのおいしい料理を食べさせてもらってますからね。これくらい、どうってことないですよ。」
 コビトたちは、家や建物を建てるのが得意だった。
 あっという間に、小さな二軒の家が出来た。
 仕事が終わると、コビトたちは地底に戻って行った。
「物置小屋を改装したの。ちょっと狭いかもしれないけど…。」
「全然!これだけ広けりゃ十分だよ!ありがとう。」
「すごいですね!このような家に住まわせてもらえるとは!感謝します!!」
 ユリカに家を案内されたツルギとヨロイは、家の中を見て驚いていた。
 ワンルームだが、ベッドに机、トイレや洗面台などの、生活に最低限必要な設備が整っていて、小さな調理台では、簡単な料理程度なら出来るようになっていた。
「お風呂は、療養所にある所を使ってもらうけど…。」
「構わねえよ。ていうか、この部屋、俺らには立派すぎるだろ。ほんとにいいのかよ。」
「それは当然よ。二人には、働いてもらうんだから。」
「じゃ、俺は畑仕事担当な。魔物の世話は、お前…ヨロイがやれ。」
 ツルギは勝手に決めたが、ヨロイは別に気にしていなかった。
「いいでしょう。僕は防御力が高いので、多少噛まれても平気ですし…。」
「そうか。俺は、他人の世話とか苦手だからさ。畑仕事は結構好きなんだ。」
「じゃあ、それでお願いします。あ、それから、スミレのことは覚えてる?錬金術師のスミレよ。スミレが、錬金術を教えるって。この世界では、欲しい物があれば、お金が必要なの。錬金術が使えるようになれば、お金稼ぎにもなると思うわ。興味があるなら、コルバドの道具屋に行ってみて。」
「錬金術…ですか。面白そうですね。行ってみましょう、ツルギさん。」
「そうだな。うまくすれば、儲けになるかもな。」
「じゃあ、二人共頑張ってね。何かあれば、私の所に来て。」

 早速ツルギたちは、コルバドの道具屋に向かった。
「お!来たね。」
 スミレがカウンターから手を振った。
「あれが…スミレ…さん…!」
「?」
 ツルギの横で、ヨロイは顔を赤くして固まっていた。
「あれ?また新入り?あたしはスミレってゆーの。よろしくー。で、そっちは?」
「はい!!」
 ヨロイが突然大声で返事をしたので、皆びっくりした。
「何!?どしたの??ねえ、ツルギ。この人大丈夫?」
「ああ…。まあ、大丈夫というか…はは…。」
 ツルギは、またヨロイがスミレに一目惚れしたのだと察知した。
「ぼ…僕は…ヨロイ…!」
「ヨロイさんね。初めまして。あたしはスミレ。錬金術師なんだ。唐突だけどさ、錬金術、やってみない?うまく出来れば、お金稼ぎになるよ。」
「ああ。稼ぎになるなら、何でもやってやる。」
「うんうん。いいね。実はさ、店の仕事が忙しくて、最近錬金部屋に行ってないんだ。あんまり行かないと、ヘソ曲げられちゃうから、君たちに使ってもらいたいの。錬金部屋はここの隣だから。自由に使っていいよ。錬金のやり方は、そこに行けば分かるから。それと、何かあったら言ってね。あたしも力になるからさ。」
「ああ、分かった。ありがとう。」
「スミレ…さん。ありがとうございます!」
 ヨロイがスミレに見とれているのを、ツルギが無理矢理腕を引っ張って店の外に連れ出した。
「お前、本当に惚れやすいんだな…。」
「ああ、スミレさん…!なんて美しい…!」
「ま、これできっぱりユリカはあきらめられたってわけだ。」
「僕は、スミレさん一筋です!」
「あーあー、分かったって。俺も、ユリカ一筋だからな。」
 道具屋の隣に、赤い屋根の、小さな家のような建物があった。
 ドアに手をかけると、勝手に扉が開いた。
「これも魔法のドアか?」
 まず、ツルギが先に中に入って、次にヨロイが入ると、扉は勝手に閉まった。
 大きな机が真ん中に置いてあり、本棚や、戸棚が並んでいて、そこに錬金術の材料が綺麗にしまわれていた。部屋は道具屋と同じように、綺麗に片付いていた。
「で、どうすればいいんだ?」
「隅っこにかまどがあるだろ。」
 どこからともなく、声が聞こえてきた。
「お前は?」
「あたいはこの錬金部屋さ。ムダ話はいいから、かまどの前に行け。」
 ツルギたちは言われた通りに、かまどの所へ行った。
 かまどの上には、底の深い大きな鍋がおいてあった。
「その鍋に、材料を入れて煮たり、焼いたりするんだ。試しに、薬草を作ってみるか。薬草は、雑草と、聖水で作るんだ。雑草はどこでも手に入るが、聖水は、ただの水じゃなくて、浄化された綺麗な水なんだ。だから、一旦、ただの水をこの鍋でぐつぐつ沸かして、沸騰させ、冷ませば聖水の出来上がり。そしたら、雑草と聖水を鍋に入れて軽くゆでたものを、乾燥させれば薬草の出来上がり。簡単だろ。」
「うーん。作るのが面倒だな…。買った方が早いような…。」
「薬草は一番安い買い物かもしれないが、自分で作った方がお得だぞ。薬草はよく使うものだし、一気に大量に作って保管しておけば、いちいちその都度買う必要もなくなる。なんたって、材料はタダだ。水と雑草さえあれば作れる。やっておいて損はないと思うぞ。」
「やってみましょう!ツルギさん。」
「ん~、じゃあ、試しに…。」
「材料なら、そこの戸棚に、雑草がいっぱい保管してあるし、そこにあるツボは、そのへんの川と繋がってて、無限に水が出てくる魔法のツボなんだ。」
「それだ!いちいち水を汲みに行くのが面倒って思ってたんだが…。まさかそんな道具があるとはな…。」
「そのツボのことは、口外するなよ。人に知られたら大変だ。」
「分かってるよ。ヨロイも、言うんじゃねえぞ。」
「僕は口が堅いので大丈夫です。」
「よーし!やるか!」
 二人は、薬草作りに取り掛かった。
 特に問題なく、最後の乾燥させる工程に入った。
「よし、これでいいだろう。乾燥には、数日かかる。」
 錬金部屋が言った。
「うまくいったな。で、他には何が作れるんだ?」
「道具屋で売っているもののほとんどは作れる。あとは、武器防具の強化だな。そっちに、炉があるだろ。」
 二人は炉の所にいった。
「そこで、武器や防具を打ち直して強化出来る。」
「打ち直す…?鍛冶屋でもないので、それは難しそうですね。」
 ヨロイが言った。
「それも大丈夫だ。適当に打っても成功するように、あたいが力を貸すから問題なし。」
「…鍛冶屋が怒りそうだな…。」
 ぼそりとツルギが呟いた。
「まあ、この錬金部屋は、誰でも使えるわけじゃないんだ。スミレと、お前たちしか使えないように設定してるから、鍛冶屋の客がいなくなるなんてことにはならない。」
「設定?」
「…いや、何でもない。こっちの話だ。で、ただ打ち直せばいいってわけじゃなく、強化するには、素材が必要になるんだ。それに、属性を付けたい場合にも、その属性の素材が必要になる。」
「その素材も、錬金で作れるのか?」
「いや、残念ながら、そこまでは出来ない。素材は、魔物が落とすんだ。倒したとき、たまに、石みたいなものを落とす。それが強化に使える素材だ。赤い石なら、炎属性。青い石なら、水属性、というふうにな。属性を付けたくない場合は、無属性の白い石を使う。強化したい武器防具を鍛冶用ハンマーでぶっ壊して、強化素材と混ぜて叩く。そうすれば適当に何回か叩くだけであたいが適当に調整して、強化が出来るってわけ。」
「その、魔物を倒すってことだが、なるべく倒さずに、浄化したい場合は、素材とか何も落とさねえのか?」
「いや、浄化だろうと倒すだろうと、落とすものは落とす。落とさないときもあるが、それは単にその魔物が何も持ってなかったってだけ。…それにしても、なんで浄化したいんだ?倒す方が簡単だと思うが。」
 ツルギは、ユリカの説明をした。
「そうか。まあ、その方が魔物にとってはいいことなんだろうな。ふうん…。」
 しばらく、錬金部屋は何か考えているようだった。
「浄化の力が、ユリカだけでなく、お前たちにも簡単に使えるようになればいいんだが…。」
「錬金術は、何でも作り出せるんでしょう?浄化の武器なんて、作れないのでしょうか?」
 ヨロイが提案した。
「そうだな…。ユリカの浄化の力がどんなものか、一度調べたい。そうすれば、もしかしたら作れるかもしれない。ユリカをここに連れてきてくれ。」
 数時間後。
 ツルギたちは、ユリカを連れて再び錬金部屋に入った。
「ここが錬金部屋なのね…。初めて入ったわ。」
「へえ?お前、スミレの親友なんだろ?なのに、今まで入ったことなかったのか。」
「私は魔物たちのことでいっぱいだから。錬金術までは…。」
「初めましてだな。あたいは錬金部屋さ。」
「!?錬金部屋がしゃべってるの?」
 ユリカは驚いた。
「まあ、これでも生き物だからね。…それはおいといて。初対面で悪いんだけど、ユリカの浄化の力を見せてくれないかな。こいつらにも、魔物を浄化できる武器を作りたいと思ってさ。協力してくれる?」
「浄化を…?」
「ユリカ。俺、魔物を殺したとき、なんかすげえ嫌な気持ちがしたんだ。できれば、お前みたいに、浄化できるようになりたいんだ。」
「それはいいわね。勿論、協力させてもらうわ。」
 ユリカは、浄化の力を解放した。
「うわわ…!!」
 すると、ツルギとヨロイの体が、光り出した。
「あ!!ごめんなさい!!すっかり忘れてたわ!!」
 急に、ユリカは浄化をやめた。
「あなたたちも魔物だから、浄化されちゃうってこと!!」
「俺たちも忘れてた!!」
 皆、顔を見合わせて思わず笑った。
「オーケー。今ので十分分かったよ。」
 部屋が揺れていた。どうやら、笑っているらしい。
「え?今ので…?」
「うん。浄化の力がなんなのか。それは、ずばり『愛情』!!これを武器に取り込めば、浄化の武器が出来るはずだ。」
「でも、どうやって?」
「愛情を強く念じるんだ。そしたら、あたいがそれを形にしてやる。」
「愛情を、強く、念じる…?」
 ツルギは首を傾げた。
 ヨロイは、ぽんと手を叩いた。
「そうか、そういうことですか…。あの、錬金部屋さん。僕の浄化武器を作ってくれますか?」
「勿論。愛情を強く心に思うんだぞ。」
 ヨロイは、目を閉じた。まぶたの裏に、スミレの顔が浮かんだ。
(スミレさん…!僕は…!!)
「なるほど、なるほど…。」
 錬金部屋が、ぐるぐると回り出した。
「な、なんだ!?」
「少し我慢してくれ。今、作ってる所だから。」
 部屋が回って、ユリカとツルギがぶつかった。ツルギは思わずユリカをじっと見つめた。すると、ユリカは恥ずかしそうに目をそらした。
「ご、ごめんなさい…。」
「いや…。」
 その横で、ヨロイは一心に念じ続けていた。
「できたぞ!」
 部屋が動きを止めた。
 すると、ヨロイの頭上に、一つの大きな金色のハンマーが現れた。
 ハンマーは、きらきらと輝きながら、ゆっくりとヨロイの目の前に着地した。
「これが…僕の浄化のハンマー!!」
 ヨロイは、ハンマーを持ち上げた。それはヨロイになじみ、重さをほとんど感じなかった。
「素晴らしい!!これが…僕の想い…!!」
「すげえじゃねえか!!…よーし!俺も…!!」
 ツルギは、目を閉じた。まぶたの裏に、ユリカの顔が浮かんだ。
(ユリカ…!!大好きだ!!)
 ツルギは、思わず顔を赤らめながら、強くユリカへの愛情を心に念じた。
 そして、部屋がぐるぐると回り出し、しばらくして、動きが止まった。
(ユリカ!!可愛すぎる!!俺は…!!)
 いつしか、ツルギは、自分の想いの中に没入していた。
「ツルギさん!武器が!」
 ヨロイに肩を叩かれ、はっと気づくと、ツルギの目の前に、美しい銀色の剣があった。
「これか…これが…!!」
 ツルギは、銀色の剣の柄を握り締めて、床から引き抜いた。
「なんかしっくりくるな…。まるで、昔からの相棒みてえな…。」
「すごいわね!これで、ツルギも、ヨロイも、魔物を浄化できるのね!?」
「おう!!」
「はい!!」
 二人は同時に返事した。
「おい、すげえじゃねえか!錬金術で、こんなものまで作っちまうなんてな。」
「まあ、今のは特別だ。お前たちに、強い愛の力があったからこそ、作れたシロモンだ。大事にしろよ。そうだ、あとでスミレにも作ってやるか。そうすれば、4人で冒険するとき、魔物を倒さなくて済むだろ。」
「今日はありがとう。錬金部屋さん。また来るからね。今日はもう夕方だし、そろそろご飯の時間よ。二人とも、一緒に帰りましょう。」
 ユリカにそう言われて、二人は錬金部屋をあとにした。
「そうだ!せっかく町に来たんだ、畑にまく種を買わねーとな。すっかり忘れてたぜ。」
 ツルギは、スミレの道具屋で種を買い、スミレにもさっきのことを簡単に説明した。
「へえ!いいものを作ってもらったんだね。あいつに気に入られたみたいじゃん。良かったね。そのうち、あたしも浄化武器を作ってもらいに行くよ。そしたら、一緒に出掛けられるもんね。」
 それから少しムダ話をしたあと、道具屋を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
「今日は、錬金で時間使っちまったな。畑仕事は、明日からやるから。」
「僕も…お手伝いが何も…。」
「気にしなくていいわ。浄化武器が手に入ったんだし、これからは、日常の仕事だけでなく、魔物の浄化も手伝ってもらえるんだもの。忙しくなるわよ。」
「ああ!」
 ツルギは、銀色の剣を誇らしげに掲げてみせた。
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