第3話「魔物博士」

文字数 2,691文字

 北の森を抜けると、そこに一軒の奇妙な建物が建っていた。
 全体的に丸い形をしていて、見たことのない素材で造られていて、外壁は鉄のように硬かった。色は、金属的な光を帯びた緑色。まるで、スイカを横に半分に切ったような建物だった。
「なんだこれ!?」
 ツルギは建物に興味津々のようだった。
「ここが、魔物博士の家よ。」
 家の外側に付いていた赤いボタンを押すと、そのすぐ近くにあったドアらしきものが、自動で横に開いた。
「魔法の家だな。」
 ツルギは感心していた。
「こんにちは!博士はいらっしゃいますかー?私、ユリカです。」
 少ししてから、奥からいかにも魔法使いといった出で立ちの老人が現れた。
 とんがり帽子に黒い衣、先端が渦巻き状になった木の杖。老人は、ぎょろりとした大きな目で二人を見た。
「おお、ユリカ。ん?その少年は…。」
「この間、海辺で見つけた…ツルギです。」
「剣?そうか、ツルギか。わしもこの間、ヨロイを拾ってな。」
「……。」
 それを聞いて、ツルギは、怒ったように顔をしかめた。
「博士!ふざけないで下さい。彼は…。」
「いや、ふざけてなどいない。ヨロイという少年を見つけたんだ。…玄関先ではなんだ、ともかく中に入ってくれ。」
 ツルギたちは博士の家に入った。
 家の中は、外側と違って、普通の家と変わりなかったが、どこもかしこも本だらけで、本棚に収まりきらない本の山があちこちに出来ていた。また、怪しげな実験道具が机の上にぎっしりと置かれていた。
「汚いが、適当に座ってくれ。そこのソファがいい。」
 博士は、ソファの上に置かれていた雑多なものをどけると、そこにツルギたちを座らせた。
「で、話は聞いているだろうが、わしが魔物博士だ。名前は忘れちまったんで、適当に、博士とでも呼んでくれ。さっきの続きだが…ヨロイーー!こっちに来てくれ。」
「何でしょうか?」
 並んだ本棚の後ろから、一人の逞しい体つきの少年が現れた。
「こいつが、ヨロイだ。ヨロイ、こっちの女の子が、ユリカ。男の子が、ツルギだ。」
 博士に紹介されると、ヨロイはツルギたちの方を見た。そして、その目がユリカと合うと、はっとしたように顔を赤らめて、緊張したような口調で、
「あ…あの…よ…よろ…し…く…。」
と言った。
「…ヨロイは、呪いの鎧だったらしい。それが、何故か浄化されて、気付いたらこの辺でさまよっていたとな。」
と、博士が説明した。
「俺と同じじゃねーか!!俺も、呪いの剣だったんだよ!!」
 ツルギは、びっくりしたように叫んだ。それを聞いて、同じくヨロイも驚いていた。
「なんと!?僕たちは呪いのもの同士…!」
 ツルギとヨロイは、驚いた顔でお互いに見つめ合っていた。
「あの…それで何ですけど、ツルギは、魔物の力を失くしたようで…。」
 ユリカが博士に言った。
「ふむ。浄化されたときに、力も失ったんだな。大丈夫だ。今、力を授けてやる。」
 魔物博士は、何事かを小さく呟きながら、ツルギに向かって手を怪しくうごめかした。
 ツルギは、その手を見ていると、なんとなく気持ちが悪くなってきたが、耐えていた。
 そしてしばらくすると、眩い光の粒が、ツルギの体の中に次々と集まってきた。
「おお!?」
 ツルギの体が光り輝いた。
 その光が消えると、ツルギの全身に、力がみなぎってきた。
 ――魔法剣士。
 ツルギは、自分の職業を思い出した。
「おお!!力が戻った!!」
 思わず、ツルギは頭上にブロンズソードを掲げた。
「僕も、博士によって、力を取り戻させてもらったんです!」
 ヨロイは、ツルギに拍手を送った。
「良かったわね、ツルギ。…それで、これからどうするの?」
 ツルギは、ユリカの方を振り返った。
「お前には、世話になったから、畑仕事でも何でもしたい。お前の役に立たせてくれ。」
「え…でも…。」
「言っただろ。行くとこがないって。探すのも面倒だし…。寝るとこがあれば、小屋でもいいから。」
「小屋なんて…そういうわけには。じゃあ、私の仕事を手伝ってもらうわ。家は、ちゃんと用意してあげるから。」
「…う、うらやま…!」
 ヨロイがぼそりと呟いた。その呟きを、博士は聞き逃さなかった。
「ん?何だ?ヨロイも行きたいって?」
「ええ!?」
 ユリカは目を丸くした。
「…い…いやで…嫌ですか?…ユリカ…さん…は…。」
 ヨロイは、もじもじしながら、ユリカをちらちらと見て言った。
「魔物たちを一人で世話するのは大変だろう。ヨロイが手伝ってくれるなら、いいんじゃねーか?」
 ツルギが言った。
「そうね、確かに…一人では大変かも…。じゃあ、二人とも、よろしくね。」
 ユリカは、ツルギとヨロイに頭を下げた。
「…う、嬉しすぎる!!」
 ヨロイは思わず叫んだ。
「…惚れたのか?渡さないからな。」
 ツルギが低い声で、ヨロイに顔を近付けて言った。
「…なんと!!そ…そうでありましたか…。」
「やれやれ…。」
 博士は肩をすくめた。
「二人とも、どうしたの?いきなりケンカはやめてね。」
 ユリカは、何も気付いていなかった。
「…大丈夫です。僕はそんな…。」
 ヨロイは、ツルギにだけ聞こえるように言った。
「僕はただ惚れやすいだけなんです。可愛い子をみるとすぐにああなって…。でも、もう大丈夫です。僕はあなたを応援しますよ。」
「ふん…どうだか。」
 その後、皆でお茶を飲みながら、他愛もない話をしたあと、もう時間も遅くなったので、ツルギたちは博士の家に泊まることになった。
 夕食は、あるものでユリカが適当にこしらえた。ツルギはいつもユリカの作ったご飯を食べていたので、いつも通りのおいしい味だったが、ここ数日の間、まともな食事もとっていなかった博士とヨロイは、感激して涙を流しながら食べていた。

 翌朝。
「…博士。ありがとうございました。それでは、また。」
「ああ、ユリカ。いつでもおいで。歓迎するぞ。朝ごはんまですまんかったのー。おかげでしばらくは食事をせんでもすみそうだ。」
「だめです!ちゃんと食べなきゃ!」
「博士、ありがとう。おかげで力が戻ったぜ。」
 ツルギは博士にお辞儀をして礼を言った。
「せっかく力を取り戻したんだ。世界中の苦しんでいる魔物をどうか助けてくれよ。」
「ああ、分かった。」
「博士、今までお世話になりました!これからは、ツルギと、ユリカさんと、皆で魔物を助けます!!」
 ヨロイは、暑苦しい勢いで礼を言った。
「分かった、分かった。ほれ、ユリカが待っているぞ。おなごを待たせるんじゃない。」
「これから、よろしくなのです!!」
 ヨロイは、ツルギとユリカを見て、改まったようにして言った。
 こうして、ヨロイが仲間になった。
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