第17話「大蛇」

文字数 2,540文字

 黒い大蛇は、長く太い体で、ユリカを締め付けた。
「ああああ!!」
 ユリカは、苦しそうに悲鳴を上げた。
「やめろ!!」
 ツルギは、大蛇に向かっていった。
 しかし、尾の部分で、ツルギの体は弾き飛ばされた。
「こいつはなんなんだ!?」
「分かんないけど、ユリカをどうにかしないと!」
 しかし、攻撃しようと近付くと弾き飛ばされてしまい、ユリカを助けることもままならない。
その間にも、ユリカは締め付けられて、ダメージを受けている。
「くそ!こうなったら!」
 ツルギは、光魔法「ホーリー」を唱えて大蛇を攻撃した。
 大蛇は、聖なる光に体を焼かれて、苦しげに呻いた。
 その間に、ツルギは大蛇の体からユリカを引っ張り出して助けた。
 ユリカは、気絶していた。
 ツルギは、ユリカを抱きかかえて、部屋の隅の方にそっと寝かせると、戦いに戻って行った。
 大蛇は、もうけろりとして、ツルギたちを見下ろしていた。
「こいつは光に弱いようだな。ってことは、闇属性か。」
「光なら、ユリカが得意なんだけど…仕方ないわね。でも、ツルギも使えるんなら…。」
「いや、ホーリーはあと一発くらいしか使えねえ。MPを多く使う魔法だからな…。」
「それなら、マホチャージであたしのMPをあげるよ。」
「だめだ。ユリカがいない分、回復はスミレに任せたい。ヨロイも、いざってときのために、MPは温存しておいた方がいい。」
「やはり、力技でいくしか!」
 ヨロイがハンマーを振り上げて突撃した。
 渾身の一撃!
 しかし、大蛇には、あまり効いていないようだった。
「あの分厚そうな体には、打撃はあまり効かないのかもな。ここは俺がやる!」
 ツルギは、高くジャンプして、大蛇の頭に乗ると、大蛇の大きな目に剣を突き刺した。
 大蛇は、苦しげにのたうち、暴れた。
「このっ!このっ!」
 ツルギは、何度も何度も剣を大蛇の目玉に突き刺した。
 大蛇の目から、黒い血が流れ出した。
「うあっ!?」
 ツルギは、突然目を押さえた。大蛇から飛び散った血が、ツルギの目に入ったらしい。
 みるみるうちに、ツルギの体が、紫色になっていく。
「毒よ!こいつの血は、毒なんだ!」
 スミレは、大蛇の上から倒れてきたツルギを受け止め、急いで離れた所に逃げた。
 そして、キュアを唱えた。ツルギの体から、毒は消え去った。
 しかし、毒のせいで、HPが半分も失われていた。
「なんて奴だ!」
 スミレは、忌々しげに大蛇を睨んだが、どうしようもなかった。
 スミレがツルギを治療している間、ヨロイが一人で大蛇と戦っていた。
「うおおおーーーーっ!!」
 ヨロイは何度も何度も、ハンマーで大蛇を叩いたが、逆に尾で跳ね返され、ヨロイの体は壁に叩きつけられた。
「ぐっ…!これくらい…!」
 ヨロイは立ち上がろうとしたが、体に力が入らなかった。
「スミレ…さん…。皆を…守らないと…!」
 気力で、ヨロイは立ち上がった。
 大蛇は、ヨロイを狙って近付いてきた。
「僕は、防御だけがとりえなんだ。最大まで防御を高めて…!」
 ヨロイは、「アーマーガード」を唱えて、防御を最大まで上げた。
「今の僕は、鉄のように硬いぞ!攻撃してみろ!」
 大蛇が挑発に乗るように、ヨロイを尾ではたいて攻撃した。
 その攻撃に耐えながら、ヨロイは、ハンマーで大蛇の首を狙っていた。
「これが、僕の力だあああああ!!!」
 ヨロイは、ハンマーを大きく振り上げ、大蛇の首に思い切り叩きつけた。
 大蛇の首は、他の部分よりも肉が薄くなっていた。そこに渾身の一撃を叩き込まれた大蛇は、苦痛の叫びを上げた。
「いいぞ!ヨロイ!よーし!!」
 復活したツルギが、「ホーリー」を唱えて、大蛇に光をぶつけた。
「ギャアアアア!!」
 大蛇はものすごい声を上げながら、どしんと床に倒れた。
「ちっ!これでもまだか!もうMPがねえぞ。」
「今です!ツルギ!浄化を!」
「バカか!こんなのを浄化したら、またこっちに出てくるかもしれねーだろ!」
「あっ、そうか!じゃあ、どうやって…。」
 そうしている間に、大蛇の口から、魔物たちが、次々と出て来た。
「大蛇の口が、魔物たちの通り道になってたのか!?」
 出て来た魔物たちは、ぼんやりとして、何が起きたのか分かっていないようだった。
「大蛇が倒れてる隙に、こいつらを全部浄化するぞ!」
 ツルギたちは、魔物たちを次々と浄化していった。
 しかし、再び大蛇が鎌首をもたげ、ツルギたちに攻撃してきた。
「くそっ!何か手はないか!」
「ツルギ!あたしのMPを全部あげる。」
 スミレが、マホチャージでツルギのMPを回復した。
「…待てよ。ライフドレイン…せっかく覚えたんだ、こいつに使ってみるか!」
 ツルギは、ライフドレインを唱えた。
「ウオオオオオオオ!!」
 大蛇はものすごい声を上げてのたうち回った。
「お?効いてるんじゃねえか?」
 大蛇のHPが削られていく。そして、その分、ツルギのHPが回復していった。
「こいつの弱点はライフドレインだったのか!」
 ツルギは、ライフドレインを唱え続けた。
 そしてついに、大蛇は倒れて、消滅した。
「MPはもう今ので底をついたぜ。あんなのがまた出てきたら、どうしようもねえ。」
 そして、ユリカのもとへ駆け寄った。
 ユリカは、スミレの治療を受けて、意識を取り戻した。
「…あ…。」
「ユリカ!あいつは、もう俺たちで倒したぜ。もう心配いらない。」
 ツルギは、ユリカに微笑んだ。
「…そう…なの…。良かった…。ありがとう…。」
 ユリカはよろよろと立ち上がった。
「ユリカ!無理しないで。」
 スミレが、ユリカを支えた。
「大丈夫よ。…あとは、魔物が来ないように、結界術で封印するだけね。」
 大蛇がいた所には、奇妙な渦がまだゆらゆらと回っていた。
 ユリカは、その渦に向かって、呪文を唱えた。
 すると、渦は消えて、代わりに白く光る魔法陣が床に浮かび上がった。
「これで、魔物がここから出てくることはないわ。」
 それが終わると、ユリカは力が抜けたようになって、スミレの腕に倒れ込んだ。
「ユリカ!」
 ツルギとヨロイも駆け寄った。
「…大丈夫。少し疲れただけだから。」
 ユリカはにっこりと笑って見せた。
「よし、これで解決だな。とりあえず、ミノルに報告しとくか。」
 ツルギたちは、アビシスに戻った。
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