第5話「傷ついた魔物」

文字数 2,963文字

 ツルギは畑仕事を、ヨロイは魔物たちの世話をすることになり、数日が過ぎた。
 特に問題なく、二人は仕事をこなし、平穏な毎日を送っていた。
「ツルギ。」
 そんなとき、ユリカがツルギの家にやって来た。
「なんだ、ユリカ。」
 部屋の中に二人きりになり、ツルギは少し緊張した。
 ユリカはいつも通りの様子で、話し始めた。
「あのね、魔物博士から来てほしいって連絡があったの。それで、仕事の息抜きにでも、一緒に行かない?」
「それって、デート?」
「え??」
 ユリカは一瞬首を傾げた。それから、急に頬を赤くした。
「違うわよ!ヨロイにも声を掛けてあるから。準備が出来たら、みんなで行くわよ!」
「なーんだ。」
 がっかりしたように、ツルギは言った。
「…何か頼みがあるようだったわ。もしかしたら、傷ついた魔物がいるのかも。」
 平静を取り戻してから、ユリカは言った。
「ユリカ。お前、俺を見つけたときみてえに、怪我とかした魔物を連れてくるけどよ、結構そういう魔物が見つかるもんなんだな。一体、なんだってこの世界に魔物が次々湧いてくるんだろうな。」
「それが分からないのよ…。魔物たちに聞いても、わけがわからないうちにこちらにいたって言うし。魔物博士にも聞いたことがあるけど、博士もその原因が分からないようだったわ。」
「ま、とりあえず博士んトコに行ってみるか。」
「スミレも誘ったから、4人で行きましょう。魔物を浄化しながらね。」
 そして、4人が集まった。
「あたしの浄化武器は、銀のメイス(鎚矛:つちほこ)だよ。」
 スミレは、メイスを掲げた。メイスは、柄と先端の打撃部分に分かれた武器だ。スミレのメイスは、先端も柄も銀で出来ており、先端は球形をしていた。
「おお、かっこいいですね!さすがスミレさん!」
 ヨロイが褒め称えた。
「やれやれ…。さっさと行こーぜ。」
 ツルギはヨロイの頭をこつんと軽く叩いてから、先頭を歩き出した。

 魔物を浄化しながら、ツルギたちは魔物博士の家に辿り着いた。
「おお。来たか。そこの可愛いお嬢さんは誰かな?」
「スミレだよ。あなたが、魔物博士だね。話はユリカから聞いてるよ。よろしくー。」
「よろしくじゃ。…早速だが、魔物を助けてくれんかの?わしの家の北に森があってな。その森には、たまに研究のために行くんだが、魔物が多いから、普段は森を囲っている柵に鍵を掛けているんだ。この間、森に行ったら、傷ついた魔物がいてな。治療しようにも、警戒して襲ってきた。だが、ツルギ、ヨロイ。お前たちなら、同じ魔物同士、心を開くに違いない。柵の鍵は開けておくから、頼んだぞ。」
「よし!ついでに、森の魔物たちを浄化してやろうぜ!」
 ツルギは張り切っていた。

 ――コルバド北の森。
 ツルギたちは、浄化武器を装備して、魔物たちの襲撃に備えた。
「その、傷ついた魔物だけは、治療しないといけないから、もしその魔物が襲ってきても、浄化武器は使えないわね。」
 ユリカが言った。
「え?俺、浄化武器しか持ってきてねえぜ。」
「同じく。」
 ツルギとヨロイが言った。
「治療っていうか、浄化しちまえば同じことじゃねえか?」
「そうはいかないの。怪我をしている魔物を浄化したら、怪我をしたまま、魔界に帰ることになるのよ。」
「そうなのか。面倒だな…。」
「ま、そんなこともあろうかと思ってさ。てきとーな武器を持ってきておいたよ。」
 スミレが、背負っていたリュックから、ツルギには短剣を、ヨロイには金槌を渡した。
「それでなんとかしてよね。」
「まあ、装備できなくはないが…。」
 ツルギは、横目でヨロイの金槌を見た。
「…金槌よりはマシか。」
 ヨロイの金槌は、ただの金槌だった。小さな魔物ならともかく、もし大きな魔物だったら、ダメージを与えられそうにもない。
「まあ、同じ魔物同士、戦うとは限らねえよ。」
 ツルギがヨロイを慰めた。
 しばらく進むと、黒い影の群れが襲ってきた。
「こいつは初めて見る魔物だな。」
「ゴーストよ。直接攻撃は当たりにくいから、私の魔法で!」
と、ユリカは両手をゴーストに向けてかざし、勢いよく水鉄砲を発射した。
 水鉄砲は、ゴーストを貫通し、そのまま浄化した。
 その調子で、ユリカは群れを全て浄化した。
「おおっ、すげえな!魔法なんて使えるのか!」
「あれ?ツルギは魔法剣士でしょ。ツルギも使えるはずよ。」
「そうだけど…。力が戻ったのはいいけど、レベルも1からになっちまったんだ。最低でもレベル5にならないと、魔法は覚えられなさそうだ。」
「でも、今3くらいでしょ?もう少しだわ。」
「ああ!」
 ツルギは、襲ってくる魔物をどんどん浄化していった。
 そして、他の皆と同じ、レベル5になった。
「やったぜ!ヒール、ファイア、カーズを覚えたぞ。」
 ヒールは回復魔法、ファイアは炎の魔法、カーズは敵を呪い状態にして、マジックポイント、略してMP、魔法を使うためのエネルギーを奪う魔法。
「へえ。ツルギは炎の魔法を使うのか。ユリカは水の魔法、あたしは風の魔法を主に使うんだ。じゃあ、ヨロイは土の魔法かな?」
「それが…、僕はそういった攻撃魔法は使えないんです…。すみません…。」
「じゃあ、お前はどういう魔法を使うんだ?」
「僕は、防御魔法ですね。皆さんの防御力を上げる『アーマーガード』、また、魔法ではありませんが、必殺技として、敵の防御を下げる『ガードクラッシュ』を使います。」

~RPG的説明~

ツルギ(魔法剣士):炎属性と光属性と闇属性の攻撃魔法を使う。回復魔法も使える。
必殺技=クロスブレイド…一体の敵に大ダメージ

ヨロイ(守護戦士):味方の防御を上げる魔法を使う。回復魔法も使える。
必殺技=ガードクラッシュ…一体の敵の防御を下げる+ダメージ

ユリカ(薬師):回復魔法を主に使う。
また、味方を守る補助魔法も使える。水属性と風属性と土属性、光属性の攻撃魔法も使える。

スミレ(錬金術師):敵に状態異常や能力低下を起こす補助魔法を使う。
また、味方の能力を上昇させる補助魔法を使う。風属性の攻撃魔法を使える。
必殺技=バーストブロー…連続で爆発を起こして敵全体に大ダメージ

※属性について(強い→弱い)
 炎→風→土→水→炎
 光→闇
 炎、風、土、水→光
 闇→炎、風、土、水
 四大元素(炎→風→土→水)は光に強く闇に弱い
 

「…なんか急に説明書きが出たな。まあ、この方が分かりやすいか。」
 4人は少しレベル上げして、皆レベル8になった。
 そして、森の奥に到達した。
「ここから先へは、ソレストの町に繋がっているの。…あら?もしかして…。」
 ユリカが、浄化武器から、普通の武器に持ち替えた。
「あそこにいるのが、傷ついた魔物かしら…?」
 ユリカが指差す先を見ると、頭に二本の角が生え、大きな体をした魔物がいた。
「あれは、ミノタウロスじゃねえか。」
 ミノタウロス。魔界の指揮官とされている魔物であった。(※この物語での話です)
「戦いにならないように、穏便にいきましょう。」
 ヨロイが金槌を後ろ手に隠して言った。
 だが、すぐにミノタウロスに気付かれてしまった。
「ん?何だ、お前らは!」
 ミノタウロスは叫んだが、どこか怯えているようにも見えた。
「僕たちは、あなたを助けたいんです!」
「うるさい!!」
 ミノタウロスは、話も聞かずに、いきなり突進してきた。
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