第16話「幻の島」

文字数 2,368文字

「着いたぜ。」
 船乗りの声で、寝ていた四人は目を覚ました。
 辺りは濃い霧に包まれていて、何も見えない。
 おぼろげに、島の砂浜が見えるばかりだった。
 ツルギたちは船から降りてみた。
 すると、一気に霧が晴れて、島の様子がはっきりと見えるようになった。
 白い砂浜に、薄い青の波が打ち寄せ、少し高くなった砂の上には、椰子の木が生えていた。
 赤や黄色の花が咲いていて、浜辺を賑やかに飾っていた。
 浜を上がると、緑や花畑が広がっていて、まるで絵本の世界に飛び込んだよう。
 美しい島だった。
「何もなくないじゃないか。」
「あれ?おかしいな…。こんな綺麗なとこだったっけ…?」
 船乗りは首を傾げていた。
「とにかく、島を調べてみよう。どこかに、幻の塔があるはずなんだ。」
 ツルギたちは、島を回った。島は小さく、30分もあれば島をぐるりと一周できるほどだった。
「…塔なんてどこにも見当たりませんね…。」
 ヨロイが辺りを見回して言った。
「どこに行っても草花だらけだな。植物はあっても生き物はいねーんだな。それも不自然じゃねえ?」
 ツルギはふと、この景色が作られたもののような気がした。
 船乗りは、何もない島だと言っていた。
 今、見ているのは何者かの作り出した幻なのではないか。
「幻の塔…。…待てよ…。」
 ツルギは、遠い記憶を探った。
 昔、呪いの剣だった頃。
「砂の塔…。」
 ツルギははっとした。
 突如、魔物の気配を感じた。
「…あのときは、ドラゴンだったな…。」
「ツルギ。どうかしたの?」
 ツルギが立ち止まって目を閉じていたので、ユリカが話しかけた。
「…ああ。ちょっとな。」
 ツルギは遠くから戻って来たかのように、ゆっくりと目を開けてユリカを見た。
「この島全体が魔物なんだよ。」
「え?」
 ツルギは、シルバーソードを振った。
 すると、目の前にあった花が消滅した。
「何をするの。」
「この花とか草とかは魔物の一部なんだ。これらを浄化していけば、どこかに塔が現れるはずだ。」
 皆はツルギの言う通りに、島を覆っている植物を浄化していった。
 すると、花の消えた所に、白い壁のようなものが現れた。
 壁の出現した辺り一帯を浄化していくと、塔の一部のようなものが露わになった。
「ここだ!」
 ツルギは、白い塔の入り口を見つけた。
 入り口の扉を開いた瞬間、島の美しい風景は崩れ去り、何もない空間に、ぽつんと白い塔が建つばかりとなった。
「風景の中に、幻の塔が隠されていたとは!」
 ヨロイは驚いていた。
「びっくりだね。でも、さっきまでの風景、もっと見てたかったな。」
「そんなのんきなこと行ってる場合じゃないわ。スミレ、分かってる?これから、魔物の出入口を見つけて、それを封印するんだから。失敗は許されないわ。」
 ユリカは緊張していた。
「そこまで自分にプレッシャーかけないの。こういうときこそ、心の余裕ってもんが必要なのよ。」
「…皆いいか?塔の中に入るぞ。」
 ツルギが先に塔に入った。続いてヨロイ、スミレ、ユリカが続いた。
 塔の中はただ真っ白い壁があるばかりだったが、内部には魔物がいた。
「ココハ、通サン!」
 剣を持ち、黒い甲冑を身に付けた、人型の強そうな魔物が二体、襲い掛かってきた。
「ブラックナイトよ。無属性だから、どの攻撃も普通程度に効くわ。その代わり、弱点はないの。状態異常も効かない。」
 図鑑を開きながら、ユリカが言った。
「浄化してやる!」
 ツルギは、シルバーソードを構えて、ブラックナイトの攻撃を避けながら、隙を窺った。
 ヨロイは、皆の防御を上げる魔法を唱えて攻撃に備え、スミレは、ブラックナイトの防御を下げる魔法を唱えた。
 ユリカは、ブラックナイトに光魔法「サンダー」を唱えた。普通ダメージなので、そこまでHPを削ることは出来なかった。
 ブラックナイトの攻撃!ヨロイが皆の盾になり、攻撃を代わりに受けた。ヨロイの防御はただでさえ高いのが、魔法で更に強化されている。ところが、ブラックナイトの攻撃がそれを上回り、ヨロイは大ダメージを受けた。HPが半分以上削られた。
「だ、大丈夫です…!」
 ヨロイは自分でヒールを唱えて少し回復した。
「ヨロイがあんだけダメージ受けたってことは、あたしたちが攻撃されたらやばいね。」
 スミレが言った。
「とりあえず、ヨロイの防御を最大にして、攻撃を受けてもらうしかないわね。そしてその都度あたしがヨロイを回復する。攻撃は、ツルギとユリカで。」
 ブラックナイトに隙ができた所を、ツルギが必殺技のクロスブレイドを放って攻撃した。
 ブラックナイトの一体のHPがわずかになった所を、ユリカがとどめの「サンダー」を唱え、浄化させた。
 ヨロイは、もう一体のブラックナイトの猛攻を耐え続けている。
「ぼ、僕は大丈夫…!」
 その間に、ユリカが「サンダー」を唱え、ツルギがクロスブレイドを放って浄化させた。
「よし。俺たち、確実に強くなってるな。今のでレベル23になったぜ。ライフドレインを覚えるまであと少しだな。」
 次の階にも、その次の階にもブラックナイトが現れたが、スミレの作戦で、危なげなく浄化していった。
 そうして四人はレベル25になり、最上階に到着した。
 最上階の部屋の中央には、ぐるぐると渦が巻いていた。
「これじゃねーか?魔物の出入口って。この変な渦をどうにかすれば…。」
「結界術なら、博士から教わってるわ。やってみる。」
 ユリカが、渦に近付いて、何かを唱え始めた。
「待て!ユリカ!何か嫌な気配がする!渦から離れろ!」
 ツルギはユリカに近付こうとしたが、遅かった。
 渦が消え、そこから巨大な蛇のような魔物が現れたのだ。
 魔物は、ユリカを捕らえて、蛇の体で締め付けた。
「きゃあああ!!」
 ユリカは思わず叫んだ。
「ユリカーーーッ!!」
 ツルギは、魔物の方へ駆け出した。
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