第12話「サキュバス」

文字数 3,206文字

 翌朝。
 宿を出発したツルギたちは、早速船屋で乗船券を買い、出航時間まで、道具屋や武器防具屋を見ることにした。
 ヤマトでは、属性装備が売られていた。
「アビシスは、風属性の魔物がよく出ますから。炎の鎧なら、風の攻撃を弱めることが出来ますよ。」
 店員に勧められ、ツルギは、炎属性の鎧を買い、ヨロイも同じものを買って、すぐに身に付けた。ユリカとスミレは、炎属性のローブを買って身に付けた。
「それと、混乱を防ぐ指輪もいいですよ。サキュバスという魔物も出ますからね。あとは、毒や麻痺の攻撃をしてくるサソリなんかも出ます。」
「うーん、それらを買うにはちょっとお金が足りないわね…。毒や麻痺は薬とかでなんとかなるから、混乱の指輪をユリカに装備させるか。」
 スミレは、混乱を防ぐ指輪をユリカに買ってあげた。
「え?いいの?」
「うん。前に、混乱したとき困ったでしょ。ユリカさえ混乱しなければなんとかなるから。」
「ありがとう。」
 そして出航時間となり、ツルギたちは、急いで船に乗った。

 船旅は何事もなく終わり、ついにアビシスに到着した。
 アビシスは、砂漠の国だった。
 街道が敷かれていたが、あとは何もなく、砂丘が広がっているばかりで、太陽がガンガンと照り付けており、空気が乾燥していてとても暑かった。
 船着き場から、アビシスの街までは、少し距離があった。
「魔物が出るかもしれないわ。気を付けて進みましょう。」
 遠くに、街の影が見えるので、街道に沿って進めば、間違いなくアビシスに到着できそうだった。
 しかし、旅人の邪魔をするように、早速魔物の群れが現れた。サソリ6匹。
「こいつは、風属性か?」
「ええ。ここに出るほとんどの魔物は風よ。ただし、サキュバスだけは、闇属性だから注意よ。といっても、闇は光に弱いから、ツルギと私の光魔法が効くわ。」

 ツルギは、炎を剣にまとわせて、サソリを斬りつけた。サソリに大ダメージ!サソリは浄化された。
 サソリの毒攻撃!ツルギは毒におかされた。毒状態になると、徐々にHPが減っていく。
 スミレのブライン!サソリは暗闇状態になった。暗闇状態になると、命中率が下がる。
 ユリカのアクア!サソリに通常ダメージ!サソリは浄化された。
 ヨロイの攻撃!サソリにクリティカルヒット!サソリは浄化された。

 …こうして、サソリの群れは全て浄化された。
 ユリカがツルギの毒を治したあと、一行はさらに先へ進んだ。
 その後も、鳥系の魔物などを浄化していって、レベルはついに20になった。
「よーし!マホトルとマホチャージを覚えたぜ!」
 ツルギの他、ユリカとスミレも覚えた。
「うらやましい…。僕はあまり魔法を覚えないみたいですね…。」
 がっかりしたように、ヨロイは項垂れた。
「お前はパーティの壁役だから別にいいんじゃねえか?それに、攻撃でも役に立つし。十分だろ。」
「ありがとうございますっ!」
 ツルギに励まされ、ヨロイは笑った。

 街道をふらふらと歩いてくる者がいた。
 全身を布で覆い隠し、顔だけが見えていたが、遠くてよく見えない。
 しかし、体つきから、女性と思われた。
「まさかあれは…。」
 スミレが眉をひそめた。
「なんだか、様子が変ですよ。今にも倒れそうな…。」
 ヨロイの言葉が終わるか終わらないかのうちに、女性は倒れた。
「あ!」
 ヨロイは思わず女性に駆け寄った。
「ヨロイ!そいつは…!」
 スミレの声が遠くて、ヨロイには聞こえていなかった。
「あの…大丈夫ですか?」
 ヨロイが女性に声をかけると、女性は顔を向けた。
 雷がヨロイの胸を貫いた。
 その瞬間、ヨロイはまたしても恋に落ちた。
 その女性は、非常に美しかったのだ。
 大きな潤んだ瞳。艶やかな唇。
「助けて…。」
 女性が小さく言った。
「今!助けます!」
 ヨロイはヒールを唱えた。すると女性は、ゆっくりと身を起こして、体を覆っていた布を外した。
 女性は、黒いビキニ姿で、やけに肌が白く、豊満な体つきをしていた。ヨロイは、目のやり場に困った。
「ありがとう…。でも、あたしが欲しいのは…。」
と、女性は、突然ヨロイの唇に吸い付いた。
「!?」
「あれは、サキュバス!!男の精気を吸い取る魔物だよ!」
 ツルギたちは、急いでヨロイのもとに走った。
「邪魔しないで。」
 サキュバスは、ヨロイから口を離すと、目からピンクのビームを放ってきた。
 ヨロイは、ふらふらと倒れて気を失った。
「混乱ビームだ!避けて!」
 スミレが言ったが、既に皆ビームを浴びてしまった。
 ユリカは指輪のおかげで難を逃れ、スミレはかろうじて混乱しなかったが、ツルギは混乱してしまった。
「おお~!なんて美しい!」
 ツルギは、サキュバスの方へふらふらと歩み寄って行った。
「ツルギ!だめよ!!」
 ユリカが叫んだが、効果はなかった。
「うふふ…。」
 サキュバスは両腕を広げて、ツルギを待ち構えていた。
「させないわ!」
 ユリカが光魔法「サンダー」を唱えた。
「きゃあああっ!」
 サキュバスが悲鳴を上げた。
 しかし、これが混乱したツルギには逆に働いた。
「大丈夫か!?」
 ツルギは倒れたサキュバスを抱き起こした。
「ありがとう…。ねえ、こっちに顔を寄せて…。」
 ツルギは言われるままに、サキュバスの方へ顔を近付けた。
「だめーーーーーー!!」
 ユリカは必死になってサンダーを唱えた。
 サンダーは、サキュバスだけでなく、ツルギにまで直撃した。
「ぐああ!!!」
 サキュバスは浄化された。
 そして、気絶したツルギとヨロイ。
 ユリカは二人の気絶を魔法で解いた。
「…俺は…?」
 ツルギは混乱から覚め、何も覚えていないようだった。
「はっ!!ぼ、僕は…!」
 ヨロイは、自分の唇に手を当てた。
「初めての…。う、奪われてしまったんだ…。」
 ヨロイはしくしくと泣き出した。
「…そうか…。ヨロイにとっては、あれがファーストキスだったんだね…。よりによって、サキュバスに奪われるなんて。」
 スミレが気の毒そうに言った。
「…それより、大丈夫?」
 ユリカは、ツルギとヨロイの体を心配していた。
「俺は全然大丈夫だぜ…って、まさか俺まで?違うよな!?」
「ツルギはされる寸前だっただけ。」
「はー…。あぶねートコだったんだな。俺だってやだぜ。」
「良かった。」
 ユリカは、心の底から安堵していた。
「ユリカ、必死だったものね。それでツルギは助かったんだよ。」
 スミレが言った。
「そうだったのか…。ユリカ、ありがとう。」
「べ、別に…。」
 ツルギとユリカは思わず見つめ合い、お互いに赤くなって、顔をそらした。
「ううう…。」
 ヨロイはまだ泣いていた。
「なんかかわいそうだね。体に異常はなさそうだけど…。」
「僕は、スミレさんが好きなんです!あんな、あんな魔物なんかに一瞬でも心を奪われてしまった自分が悔しいです!」
 突然、ヨロイはスミレに告白した。
「え?え?」
 スミレは戸惑っていた。
「スミレさん!この旅が終わったら、僕とお付き合いして下さい!」
 ヨロイは頭を下げて言った。
「え?ちょっと…。いきなりそんなこと言われても…。」
 そこへ、魔物が襲ってきた。
 ヨロイは、人が変わったように、魔物たちを次々と浄化していった。
「僕はもう、自分を隠しません!そして、スミレさん一筋に生きていきます!」
 ヨロイが一人で魔物たちを浄化していくのを、皆呆気に取られて見ていた。
「サキュバスで覚醒したのか?あいつ…。」
「うーん…。ヨロイは、まだそんな目では見れないなあ。でもま、嫌な気はしないけど。」
 スミレは、魔物を浄化して戻って来たヨロイに近付いていった。
 そして、ヨロイの頬にキスをした。
「今はこれでカンベンしてね。答えは、旅が終わってからするからさ。」
 ヨロイは、しばらくの間固まっていた。
「や、やったああああ!!」
 そして、喜びを大声で表した。
「ヨロイのやつ…。」
 ツルギはそれを見て笑った。
 ユリカも微笑んでいた。
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