第18話「新たな目標」

文字数 2,038文字

 ユリカの体が回復してから、ツルギたちはアビシスから船でコルバドへ戻った。
「…そうか。魔物の出入口を封じたのか。それなら安心だ。感謝する。」
 報告を受けたミノルは、四人に対して深く頭を下げた。
「しかし、あの渦は何だったのか…。魔物たちは、大蛇の口から出て来たんだ。」
 ツルギは気になっていた。
「渦は、大蛇の本体だろう。大蛇は、倒したとしても、その渦がある限り、何度でも再生する。だから、渦に対して結界術を使ったのは、正しい判断だった。」
「何で分かるんだよ。って、そうか、お前はボス級魔物だから…。」
「おそらくその大蛇は、”邪悪”だろう。邪悪は、仮の姿で敵を欺き、本体は渦の姿なんだ。しかし、渦本体に攻撃は出来ないという厄介な魔物でな。そいつが、まさか魔物の通り道の役目をしていたとは。」
「でもま、封印したからには、もうどうしようもねえんだろ。」
「そうだな。邪悪は、封印するしかない。封印されれば、いくら邪悪でも何もできまい。」
「…で?ミノルの怪我はどうだ?」
「ああ。おかげですっかり良くなった。だから、ここでいつまでも世話になるわけにはいかないな。」
「…ミノルに良さそうな所を見つけたけど、家の手配までは…。ごめんね、追い出すみたいで…。」
 ユリカが謝った。
「何を言うんだ?とんでもない!俺はお前に助けてもらっただけでも十分なのに…。」
「魔物の出入口を塞いだといっても、こちらに来てしまった魔物はまだまだいる…。だから、怪我をする魔物もまだまだたくさん…。治療と浄化を続けなきゃならないの。」
「俺が手伝ってやるって。」
 ツルギが言った。
「俺も、何か出来ないか考えたんだ。俺と同じように、こちらへ来た魔物を守る役目なら出来るだろう。」
「いっそのこと、魔物の村でも作ったらどうだ?」
「それはいい考えかも!村作りなら、コビトたちが提案してたし!コルバドの西に、無人島があるの。そこに、コビトたちが村を作りたいって。」
 ツルギの提案に、ユリカも賛成した。
「それならそこに行って、コビトたちの手伝いをしよう。」
 新たな目標が出来て、ミノルは出発して行った。

 冒険を終えたツルギたちは、毎日の平穏な生活に戻っていった。
 ツルギは畑仕事に精を出し、ヨロイはユリカの助けた魔物たちの世話を手伝い、スミレは町の道具屋で働きながら、時折、皆に会いに来てくれた。
「ツルギ。」
 畑仕事をしているツルギのもとへ、ヨロイがやって来た。
「なんだ?サボリか?」
「違いますよ。一段落したので、ちょっと休憩を。…ところで、ツルギは、ユリカさんに告白したんですか?」
「まだしてねえよ。」
「旅が終わったら、するんじゃなかったんですか?」
「うーん…。」
「ツルギって、積極的なようでいて、こういうことには優柔不断なんですね。」
「うるせえな。俺にも色々考えがあるんだよ。今のままじゃあ、あいつを養える男とは言えねえ。あいつのおかげでメシが食えてるって状態だからな。」
「じゃあ、どうすれば告白できるんですか。ユリカさんは、きっと待ってますよ。」
「まさか…。」
「ユリカさんに養ってもらってるなんて考えないで、一緒に頑張ってるって思えばいいんですよ。実際、ユリカさんはツルギのおかげで助かってるって、言ってましたし。」
「なに!?それを早く言えよ。…けど…。」
「ほら!ユリカさんが家に入っていきましたよ。二人きりになれるチャンスじゃないですか!」
 どん、とヨロイに背中を押されて、ツルギは危うく転びそうになった。
「ばか!何するんだよ!」
「どうしたの!?」
 ツルギの大声に驚いて、ユリカが家から出てこちらへ走って来た。
「ふふ、僕は消えますよ。頑張って下さい。」
 ヨロイは療養所へ入って行った。
「あら?ヨロイは…?二人して、けんかでもしたの?」
「違う。ちょっとな…。」
 ツルギは、どう話を切り出したらいいか、迷っていた。
「何か困りごと?」
 ユリカは、まっすぐにツルギを見つめている。ツルギはますます言い出しにくくなって、顔が赤くなっていった。
 それを見て、ユリカも赤くなっていった。
 二人は、見つめ合いながら、お互いにもじもじしていた。
「…あのな、ユリカ…。俺は…ここに来て、良かったと思ってる…。」
「うん。」
「それで…。出来ればずっとここで…。」
 ユリカは真剣にツルギの話を聞いていた。
「お、お前と…。」
 ツルギの心臓は爆発しそうになっていた。
 ユリカも、どきどきしながらツルギの言葉を待っていた。
「ユリカ!!」
 突然、スミレの声がして、二人はびくっとして振り返った。
「…あ…。もしかして…あたし、邪魔しちゃった…?ごめーん!」
 スミレは苦笑いして謝った。
「邪魔だなんて!」
 しかし、ツルギは言おうとした言葉をぐっと飲みこんで、そのまま脱力していた。
「…あのね、魔物のじいさんがツルギとヨロイに用があるんだって。それを伝えに来ただけ。」
「そう…。」
 ユリカはため息をついて、脱力しているツルギをそのままにして、ヨロイを呼びに行った。
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