第8話「ソレストの洞窟」

文字数 4,269文字

 街道をまっすぐ進んで行くと、次第に道が途切れて、山道に変わった。
 ここからは、ソレストの山。門番の話では、その先に洞窟があるということだった。洞窟を抜ければ、山奥の集落があり、そこを南下して行けば、船の出ている町、ヤマトに到着する。
「早速現れたな。」
 山道を少し進むと、魔物が現れた。
「スノーボールね。」
 スノーボールは、その名の通り、雪玉の形をした魔物だった。白い塊に一つの目が真ん中についていて、空中をふわりふわりと飛んでいた。
 と、スノーボールは、隠れていた口を開けて、いきなり無数の氷の粒を弾丸のように発射してきた。
「僕がガードします!」
 ヨロイは、すばやく皆の前に出て、氷の弾丸を受け止めた。
 その間に、ツルギが銀の剣でスノーボールを浄化した。
 しかし、スノーボールは他にも群れで出現し、一気に囲まれた。
「ここは、あたしに任せて!」
 スミレは、シルバーメイスを振りかざすと、呪文を唱えた。
 すると、スノーボールたちの下の地面が盛り上がって、小さな爆発が起こった。
 スノーボールたちは、爆発でショックを受けて気絶した。
 それをすかさず皆で叩いて浄化した。
「おし!今ので、かなり経験値が入ったみてえだな。レベルが12になったぜ。」
 レベルが上がったとき、体が光って、頭の中にレベルの数字が見えるのだ。これは、この世界の常識だった。
 ツルギだけでなく、皆レベル12になった。
「でも、まだレベルが足りないかもしれないわ。洞窟は、なるべく時間をかけないで探索したいわ。だから、このあたりで、もう少し浄化して、レベルを上げましょう。」
 ユリカが言った。
 その後も、スノーボールやスノーラット(獣系の魔物)の群れを倒して、経験値を稼ぎ、夕方にはレベル15に到達した。
「今日はこの辺で休みましょう。焚火を焚いておけば、魔物は近付けないはずよ。」
 4人は焚火を焚き、テントを張った。
 簡単な夕食をとったあと、もしものために、2人ずつ交代で眠ることにした。
「ツルギはあたしと。ユリカはヨロイと。これで決まりね。」
 スミレが勝手に決めた。
「ふーん。別にいいが。」
 ツルギはそう言ったが、内心、ユリカと番をしたいと思っていた。
「魔物に気を付けないといけないからね。あんまり仲のいい二人だと困るわけ。」
「なるほど。確かにそうですね。ツルギとユリカさんだと、魔物が来ても気付かないかもしれませんね。」
「お、分かってんじゃん、ヨロイも。」
「何言ってるの!?私が魔物に気付かないわけないじゃない!」
 珍しくユリカが怒って言った。
「それに…何なのよ?ツルギと仲がいいなんて。友達だもの、当たり前でしょう?」
 ユリカは膨れていた。
「友達…、ね。」
 スミレは何か言いたそうに、ユリカをじっと見た。
「な、なによ。」
「そのへんでやめとけって。」
 ツルギが割り込んだ。
「んじゃ、ユリカとヨロイは先に寝ろよ。俺とスミレで番してっから。」
「それでは、お先に失礼します!」
「お休みなさい。」
 ユリカとヨロイはテントに入っていった。
「…ツルギと話したかったんだ。ユリカのことで。」
 ヨロイたちが寝静まった頃、スミレが話し始めた。
「ユリカのこと?」
「そう。ユリカのことが好きなんでしょ?」
「ああ。」
「正直なんだね。ツルギは。あたしはあんたたちを応援してるよ。」
「でも、ユリカは俺の事を、友達って言ってたな…。」
「それは皆の前で取り繕って言っただけだよ。あの子はね、まだ小さいときに両親が亡くなって、おじいちゃんとおばあちゃんに育てられたんだ。そのおじいちゃんとおばあちゃんも亡くなって、一人になって、あの広い家に一人で住んでたんだ。」
「そうだったのか…。」
「うん。だから、寂しかったと思う。そこに、あんたたちが来てから、前より明るくなった気がするんだ。前はよく、あたしに色々相談しに来てたりしたけど、今は来なくなったからね。ちょっと寂しいけど、ユリカが楽しいなら、あたしはそれでいいと思ってるよ。ツルギ、あの子には積極的にいった方がいいよ。あの子、そういうことには鈍感だから。ユリカってかわいいじゃない?だから結構町の男の子にもてるんだけど、全く気付かないの。その子がどんなにアピールしててもね。だから、本気で狙ってるんなら、どんどんいった方がいいよ。」
「例えば?」
 ツルギの顔は真剣だった。
「うーん…。とにかく、ユリカの手伝いをするとか、話しかけるとか、デートに誘うとか…。それか、この際、告白しちゃうとか。」
「告白か…。ユリカは、俺が魔物でもいいんだろうか?」
「むしろ、魔物だからいいのかもしれないわ。あの子、魔物を助けることを使命みたいに思ってるところがあるから。それにあたしは、恋に種族なんて関係ないと思うよ。まあ、ツルギはほとんど人間に見えるしさ。いくらなんでもスノーボールみたいなのはナシだとは思うけど…。」
 スミレは笑った。
「…告白するのは、全てが片付いてからだな。俺は、真剣にユリカのことが好きなんだ。中途半端な感じで告白してもしょうがない。」
「ツルギも真面目なんだね。そういうとこが、ユリカと通じ合うのかもしれないね。」
「…スミレは、ユリカのことを気にかけてるんだな。」
「当然だよ。幼馴染だし、親友だからね。」
「親友か…。」
 ツルギは、何かを考え込んでいるようだった。
「あ、結構話し込んじゃったけど、そろそろ交代の時間だね。」
「そうか。」
 ツルギたちは、寝ていたユリカとヨロイを起こして、交代した。

 そして何事もなく、朝を迎えた。
 近くの川で顔を洗って、簡単な朝食をとり、再び出発した。
「いよいよ、洞窟ね…。」
 4人の目の前で、洞窟が大きな口を開けて待っていた。
 洞窟の前に看板があり、「レベル15以上の旅人通行推奨」と書かれていた。
「ちょうど、レベル15だから、安全圏てところかしらね。でも、油断は禁物よ。」
 ユリカが先頭を歩こうとして、ツルギが止めた。
「俺が先を行く。ユリカは、俺の後ろを歩いてくれ。」
「…分かったわ。」
 ユリカは素直に頷いた。
 その後ろをスミレが、一番後ろをヨロイが歩くことになった。
 洞窟の中はひんやりとしていて、上から垂れ下がったつららから、氷水が滴り、その音が洞窟内に響き渡っている。
 突然、バサバサと羽音がして、白いバットの群れが襲い掛かってきた。
「スノーバットよ。風属性だから、ツルギの炎が効くわ。浄化武器に炎をまとわせて攻撃すれば、そのまま浄化出来るわ。」
 ユリカの言う事に従って、ツルギは剣に炎をまとわせて攻撃した。
 スノーバットはあっさりと浄化されていった。
「ザコだったな。」
「でも、油断はできないわ。スノーバットは、こっちを混乱させる音を出せるから、もし、強い敵と一緒に出現したら厄介だわ。」
「混乱て治せないのか?」
「私の魔法で治せるわ。私が混乱していなければね。」
「そう。ユリカはいろんな状態異常を治せるんだ。それに対して、あたしは、敵を状態異常にすることができるんだ。」
 スミレは得意げに言った。
「へえ。すげえな。」
「でも、状態異常系は成功確率がそれほど高くないんだ。それに、魔物も状態異常に対して耐性を持ってる奴もいるからね。必ず効くとは限らないんだ。」
「スケルトンやイエティには何が効くんだ?」
 ツルギがスミレに聞いた。
「スケルトンはおそらく、ほとんどの状態異常が効かないと思う。特に、呪いとか即死は絶対に効かない。ゾンビとか、そういうアンデッド系の魔物にはそういうのは効かない。毒も麻痺も効かない。眠りや混乱にも強いと思うよ。ただ、イエティの方は獣系だから、眠りとか混乱に弱い。あと、毒や麻痺も効くから、スケルトンよりは戦いやすいかもね。HPは多めだけど。」
「スミレといい、ユリカといい、魔物に詳しいな。」
「ツルギは、力を取り戻して、職業を思い出したのに、魔物のことが分からないの?」
 ユリカが首を傾げた。
「あれ?言ってなかったっけ?俺の記憶は完全じゃねーんだ。確かに職業は思い出したが、色々、混乱してるとこがあって…、思い出せる所と思い出せない所があるんだ。」
「そうなんだ…。」
「僕もツルギと同じです。なんか、記憶が曖昧というか…。やはり、元・呪いの鎧だったせいなのか…。」
「でも別に、思い出せないことがあったって別に困らねえし、なんとなく今の方がいい気がするんだ。過去のことなんかどうでもいい。」
「そうね。」
 ユリカが微笑んだ。
 先へどんどん進んで行くと、二つに道が分かれていた。
「こういうの、俺が選ぶとなんとなく失敗しそうな気がするぜ…。」
「じゃあ、あたしが選んであげるよ。」
 スミレは、目を閉じて、何かをぶつぶつと呟いた。
「分かった。こっちだよ。」
 皆はスミレが示す方向へ進んだ。
「さすがですね。スミレさんの錬金術の一種ですか?」
 ヨロイが聞いた。
「まさか。錬金術は占いじゃないんだから。テキトーに選んだだけ。」
「おいおい、そんなんで大丈夫かよ。」
「どうにかなるって。とにかく進まないとさ。」
 スミレの選んだ道を進んで行くと、狭かった道から、急に開けた所に出た。
「お?なんか良さそうじゃねえか?あっちに道があるぜ。」
 ツルギが進もうとしたとき、かちゃかちゃと骨の鳴るような音がして、動く骸骨――スケルトンが現れた。
 スケルトンは3体で現れた。スケルトンたちは、剣を装備していた。
「出やがったな!」
 ツルギは、銀の剣でスケルトンに向かっていった。
 斬りつけたが、案外スケルトンの骨の体は固く、傷一つつけられなかった。
「この、カルシウムの塊め!!」
 ツルギは無茶苦茶に攻撃したが、逆にスケルトンの持っている剣で斬りつけられた。
「くっ!」
「僕のハンマーで!!」
 飛び上がったヨロイが、上から、ハンマーをスケルトンに向かって振り下ろした。
 ぐちゃ…と音がして、スケルトンの頭が砕けて、そこから浄化されていき、やがて消滅した。
「おお!ヨロイ、やったな!」
「まだいるわ!」
 スケルトンの数がいつの間にか増えていた。
 スミレが皆の防御力を上げる魔法を唱え、ユリカは光の魔法でスケルトンを浄化していった。
 それでも、スケルトンたちはどこからかやって来て、浄化してもキリがなかった。
「次々と!これではらちが明かないわ!」
 そこへ、さらに追い討ちをかけるように、スノーバットの群れが襲ってきた。
 スノーバットは、人を混乱させる音波を発した。
「うあああ!!」
 ツルギたちは混乱した!
 スケルトン、スノーバットに囲まれてピンチ!
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