第15話「船」

文字数 2,365文字

 ツルギとヨロイは、アビシスの医院へ運び込まれた。
 部屋のベッドに寝かされ、医者の治療を受けた。
「約一週間は安静にしておいて下さい。」
 医者はそう言って部屋を出て行った。
「一週間か…。結構長いね。」
「仕方ないわ。人魚にあれだけ攻撃されたんだもの。生きてるのが奇跡かもしれないわ。」
 ユリカとスミレも、部屋を出た。
「でも、宝は手に入ったし、これで船をもらえるわね。」
「ええ。」
 二人は早速、元海賊の宮殿へ行った。
「何!?そ、それは…!!」
 人魚の涙を見せられて、元海賊は驚いていた。
 そして手を伸ばして、人魚の涙に触れようとしたが、スミレがそれを手で制した。
「約束よ。このお宝と引き換えに、船をくれるって言ったわよね。」
「そうだったな…。仕方ねえ…。しかし、まさか本当に手に入れるとはな…。お前ら、あの人魚たちと戦って勝ったってわけか…。そういや、他にも野郎がいなかったか?あいつらはどうしたんだ?やられたのか?」
「怪我をして、今は病院で寝てるわ。」
 スミレが答えた。
「そうか。ま、お互い命があって良かったよな。それじゃ、船をやるよ。」
 男は杖をついて立ち上がった。
「無理しないで下さい。」
 ユリカが言ったが、男は笑った。
「足のことなら気にするな。船んとこまで案内してやるよ。俺がじきじきに行ってお前らに引き渡す。じゃねえと、船長が困るからな。」
 そして、男に船まで案内してもらって、無事船を引き渡された。
 スミレは、男に人魚の涙を渡した。
「これだよ!俺がずっと探し求めていた…!」
 男はしばらくの間、宝石をじっと眺めていた。
「これこそ、世界一のお宝だ。」
「どうして、そんなにこれが欲しかったの?」
 気になって、スミレが聞いた。
「聞きたいか?」
 ユリカとスミレは頷いた。
「俺は、海賊として、あらゆる宝を手に入れて来た。そして…ある日、人魚に出会って、俺はそのあまりの美しさに、人魚が欲しくなったんだ。人魚を追いかけたり、罠を仕掛けたり、色々な方法で、人魚を捕まえようとした。だが、人魚は絶対に捕まらなかった。そして、俺はあの洞窟へ行った。人魚の棲みかと聞いてな。そして俺は、人魚たちに逆に捕まった。そして半殺しの目にあわされ、命からがら逃げて来たんだ。しかし俺が逃げることが出来たのは、人魚の一人が、俺を逃がしてくれたからだった。彼女は、『どうかもう、私たちをそっとしておいて下さい。お願いです。』そう言って、涙を流したんだ。その涙は、虹のような輝きの色をしていた。彼女はそれを宝石に変えて、俺に手渡した。俺は海賊をやめ、その宝石を売って、宮殿を建てたというわけだ。だが、あの人魚の涙の美しさが忘れられなくてな。…俺は残酷な男だ。」
「ふうん…。あんたが人魚の涙を売ったせいで、もしかしたらあの洞窟に人魚がいて、宝石を落とすって噂でも流れたんじゃないの。全く、とんでもないことしたもんだね。人魚にとっては迷惑なことよ。」
「だがなあ…。人魚は確かに美しいが、それで人間を海に沈めたり、ときには船を沈めることだってある。所詮は魔物なんだ。美しさに惑わされて、魔物ってことを忘れてはならねえ。」
「うーん。人間が人魚を狙うから、人魚が攻撃してくるのか、それとも、人魚の方が人間を狙って襲うのか…。どっちにしても、魔物は魔物ね。浄化するべき存在であることに変わりはないね。」
「そうよ。人魚だって、元は魔界にいたはずなんだから。」
 皆そのように納得して、宝と船の交換が終わった。
 ユリカたちは、船を手に入れた!

 医院へ戻ると、ツルギとヨロイの意識が回復していた。
「おう、どこに行ってたんだ。」
「あら、ツルギ。元気そうね。今、宝と船を交換してきた所だったのよ。これで、幻の島に行けるわ。」
 ユリカが答えた。
「そうか!船が手に入ったってわけか!…俺、気絶してて何も覚えてねーんだけど、宝ってあったのか?」
「人魚を倒したら、人魚の涙が落ちてたの。」
「それが宝だったのか。ちょっと見て見たかったな…。でもま、船の方が大事だからな。」
「僕も人魚の涙を見て見たかったですね…。」
 ヨロイが残念そうに言った。
「でも、本当にごめんね。ある意味、ツルギたちを犠牲にして、なんとか人魚を浄化したようなものだったから。」
 ユリカが謝った。
「いいって。そのぐらいしねえと、やばかっただろ。人魚が1匹ならともかく、あんなに出てくるなんて思ってなかったからな。」
 ツルギは起き上がろうとして、痛そうに顔をしかめた。
「いててて…。」
「だめよ。安静にしてなきゃ。一週間はこのままでいないと。」
「一週間!?長すぎだろ!その間に、魔物が攻めてきたらどうすんだよ!ぐずぐずしてられねー!」
「そうね…。じゃあ、私のヒールで何とか早く治るように…。」
「あたしも、能力アップの魔法で。それと、錬金で作った薬も試してみよう。」
「試す!?大丈夫なのかよ。」
 スミレは、鞄から紫色の液体の入った怪しい薬瓶を出した。
「大丈夫!味は保証するよ。」
「いや、味がどうこうじゃねーだろ。」
 ツルギたちは、スミレの出す様々な薬を飲んだり、ユリカのヒールを受けたりして、何とか翌日には動けるようになった。
 治療費を支払って医院を出ると、早速ツルギたちは、船着き場へ行って、自分たちの船を確認した。
 甲板で、一人の船乗りが待っていた。
「これからはあんたたちが船の持ち主だってな。よろしく。」
「おう。これからよろしく頼むぜ。早速だが、幻の島に向かってもらいたい。」
「幻の島か…。」
 船乗りは戸惑ったような顔をした。
「知らねーのか?」
「いや、幻の島っつっても、あそこには何もないぜ。まあ、どうしてもっていうなら行くが。」
「ふーん。幻の島じたいはあるみてえだな。」
 占い師に言われた通り、船は東に向かって進んで行った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み