文字数 3,664文字

それから俺は、モーレツに白谷さんに
告白しまくった。

彼女がこっちのキャンパスに来た時や
稽古がないときは積極的にデートに誘って
帰り際に何度も「好きだ」と言った。

だけど、白谷さんはその度に俺の頭を心配していた。
真剣に言ってるのに、何、この仕打ち。
もしかして、遠回しに断られてるんだろうか。
それなら、遊びに誘ったら断るはずだ。

誘えば来る。でもOKはしてくれない。
一体なんなんだよ……。
俺って前世で悪いことでもしたのかな……?

そして、ある日の夜――。

この日は一緒に映画を観た。
なんでも白谷さんが観たい映画があるということだったので、
俺は同行させてもらったのだ。

「いや、なかなか面白かったな」

「そ、そうですね……」

彼女と観た映画は、いわゆるB級ホラー。
街のすべてが蝋でできていて、
生きた人間をも蝋でコーティングしてしまうという
殺人鬼が出てくる話だった。

正直、若い女性が観るようなもんじゃない。
だけど、白谷さんが好きなら付き合うしかなかった。

「ど、どのシーンが一番面白かったですか?」

「そうだなぁ……排水溝に主人公が隠れてるシーンで、
指をペンチで切られそうになった場面があるだろ?」

思い出して、俺はぞっとする。
そんなグロいシーンがお気に入りなのか!?
だが、白谷さんはそこの場面がお気に入りという
わけではなかったようだ。

「『ジャキンッ!!』って音がした瞬間、
隣のカップルの男の方がビクッ!! って
びびってたところかな。
上映前に『俺、こういうの余裕だから』って
彼女に言ってたのも余計にツボった」

映画の内容、ほとんど関係ないじゃん……。

夕食をファストフード店で済ませると、
俺は最近頻繁に立ち寄るようになった、
駅の近くの公園へと白谷さんを連れて行った。

また今日も告白だ。

「いい加減、今日こそは彼女になってもらいますから!
好きです! 付き合ってください!」

もう20回は言っただろうか。
お決まりのセリフだ。

「……はぁ」

白谷さんは頭をかきながら、
困ったように俺にたずねた。

「あのなぁ……一体私のどこがいいんだ?
顔じゃないだろ」

「はいっ! 違います」

「即答するな。まぁいいけど。
体でもないだろ?」

「興味ありません! 胸ないですし!」

「性格って言ったら、やっぱり頭を心配するが」

「最低なクズ女ですよね!」

「……キミは素直なのか?
それともアホなのか?
じゃあどこがいいんだ」

「……いいところは特にないんですけど、
一緒にいないと俺の精神に支障をきたすんです。
不安で仕方ないっていうか」

「それは……メンタル系の病院へ行くことを
オススメする」

もっともな意見だが、病院に行くより
白谷さんがそばにいてくれれば解決する問題だ。
それなら手っ取り早く済ませるために
彼女になってもらった方がいい。

「俺には医者よりも白谷さんの方が
必要なんですよ!!」

「そうか。そこまでいうならわかったよ……」

お、これはもしかして、やっとOKをくれるのか!?

期待していると、白谷さんはバッグからメモ帳を
取り出す。
ペンで何かをがりがりと書くと、最後に印鑑を押して
俺にくれた。

「はい」

「なんですか? これ」

紙には四角いマスが4つ並んでいて、
1個目には『告白』、2個目には『お付き合い』
3個目には『両親挨拶』、4つ目に『結婚/破局』と
書かれていた。
そのひとつ目のマスに、印鑑が押してある。

「……本当になんですか、これ」

「付き合うとなると、いろんなイベントが起こることだと
推測される。
ひとつずつクリアしていけば、印鑑を押す」

スタンプラリー式かよ……。
しかも最後『結婚/破局』って、もう決定事項!?

「あ、ちなみに2枚目もある。
2枚目は、『妊娠・出産』『育児・教育』『老後』『離婚/死別』だ」

夢を感じないスタンプラリーに、
俺はひざをついた。

「今日は告白クリアだから、次は『お付き合い』だな」

「お付き合い……はっ!!
つまり彼女になってくれるってことッスよね!?」

「まぁ……そういうことになるかな」

白谷さんは顔を赤らめながらそっぽを向く。
今度こそ、絶対照れてるんだよな!?
顔は美人じゃないけど、その仕草がかわいく見えるように
なってくる。

「うおおっ! 白谷さんっ!!」

俺は感極まって、白谷さんに抱きつこうとした。
が、それは失敗に終わった。
抱きつく前に彼女の肘が鼻を打つ。

「っ……!?
な、なんで!?」

「告白成功のご褒美だけど」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!
告白してOKなんでしょ?
そのご褒美がなんで肘鉄なんですか!?
普通はキスとかハグとかじゃないんですか!?」

「え? だって、バイト先の正社員の人に言われたぞ?
『美人じゃない子からボコられるのが
最高のご褒美だ!』って」

なんだよ、その正社員!
変態じゃないか!!
だからそのバイト、一体どんな仕事なんだ……。

「……キミも嬉しいだろ?」

ゴミでも見るように、俺へ視線を送る白谷さん。
それについ、ドキっとする。

「は、はい……」

……確かに悪くないかも……。
鼻血が出ていたが、ようやく彼女になってもらえて
俺は幸せだった。

5、お付き合い編

「こうして俺とみゆきさんは、見事カップルになったんだ!」

「鼻が折れた状態でそんなこと言われても、
うらやましくも思わねぇよ……」

智也につっこまれるが、俺はそんなことよりも
みゆきさんとお付き合いできることが嬉しくて、
かなり浮かれていた。

「はっきり言って、お前らカップルから
まったく色恋のオーラを感じない」

「そんなことない! 俺たちラブラブだぞ?」

「……何を根拠に?」

「今度は腕を脱臼させてくれるって、
メールで!
それって絡み合わないとできない技だよな!?
きゃーっ!! 俺、エロいこと考えてる!!」

「どこでエロいと思えるんだよ……。
しかも白谷さん相手に、そんなことよく考えられるな。
その上お前、ドMじゃねーか」

「だけど彼女になってもらったおかげで、
みゆきさんのこと考えなくて
済むようになったし!
これで精神的に安定したぜ!」

「……普通、彼女になったら考えるように
なるだろ。
お前、やっぱり病院必要だと思うぞ?」

ふふん、好きなように言えばいい。
智也がどんなにひがんだって、みゆきさんが俺の彼女だってことに
変わりはない。

ピロン。

おっと、着信だ。
携帯を確認すると、みゆきさんからだった。

『弁当を作った。昼まだなら、一緒に食べないか?』

「おおおっ!! べ、弁当っ!!
しかも手作り!?
速攻行くぜ!!」

「あの人、またうちのキャンパス来てるのか……。
っていうか、毒見の間違えじゃねぇの?
せいぜい死なないようにな」

「大丈夫に決まってるだろ!
じゃ、行ってくる!!」

俺は昼の稽古をサボって、待ち合わせ場所のピロティへ
胴着のまま向かう。
そこにはいつもと同じカッコのみゆきさんが待っていた。

「みゆきさぁ~ん!!」

「よう、サキ」

「あ、あの、お弁当……俺のために
作ってきてくれたんですよね!!」

「いや、月に一度弁当持参を心がけていて、
そのついでだ」

相変わらず無表情だけど、
きっとみゆきさんのことだ。
内心は照れてるはず! 絶対!!

「さっそく向こうのベンチで食べましょう!!
超楽しみですっ!!」

「そうか」

二人で並んで座ると、みゆきさんは俺に
弁当箱を渡した。

「こ、これが手作り弁当っ!!
そ、それじゃ、いただきますっ!!」

「勝手に食べろ」

ドキドキしながら弁当箱のふたを開ける。
中身はというと……。

「これって……吐瀉物ですか?」

「食事中に汚いことを言うなよ」

「い、いや、だってドロっとしてるし
発酵したにおいも……」

「それはヨーグルトだ」

「え……ということは、
今日のお弁当はヨーグルトですか?」

「ちゃんと下にご飯も入っている」

「………」

みゆきさんには悪いが、まずそうだ。
ヨーグルトかけご飯……。
ヨーグルトとご飯は合わないだろう。

みゆきさんも自分の弁当箱を開ける。
中身は一緒だ。

「あの、これうまいんですか?」

「……うまいと思うか」

「いえ。でもなんでこんなもん作ったんですか?」

「保育園のとき、母がよく作ってくれてな……」

はっ!!
まさかこれは、みゆきさんとお母さんの思い出の
レシピだったり……!?
だからまずくてもわざわざ作って食べてるとか。

みゆきさんは話を続けた。

「あまりにも母の料理がまずくて……。
あの人の料理に対しての憎しみを忘れないため、
月に一度これを作って、無理に食べることにしている」

「そ、そうですか……」

クソまずい弁当も、ある意味思い出のレシピなのだろうか。
俺はただもくもくと、まずい弁当を食べた。
何回かマジでもどしそうになった。

「ごちそうさまでした……」

「そうだ、暇ならうちに来るか?
今日は親、いないし……」

「えっ!! そ、それって……」

まさか、そういうお誘い!?
あのみゆきさんからそんなことを言われるなんて
夢にも思わなかったけど……。
とうとうその日が来たのか!!

「行きます!! 稽古あるけど、サボって行きます!!」

「……部活は出ろよ。主将だろうが。
終わったら駅まで迎えに行ってやるから」

「わ、わかりましたっ!!」

俺はウキウキしながらみゆきさんと別れた。
当然ながら、稽古は上の空で終わった。

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