文字数 1,371文字

「なー、崎~。今度の金曜って空いてる?」

「空いてるけど」

「女子との飲み会があるんだけど、行かね?」

俺、崎幸助は、その誘いに一瞬戸惑った。

都内にある有名大学の空手部主将を任されている俺だが、
実際女子との出会いは皆無だった。

え? 普通体育会系の主将で、強ければモテるんじゃないかって?
甘い。甘すぎる!!

普通のサークルぐらいならまだ緩いかもしれないが、
ガチの体育会系になると遊んでいる場合なんかじゃない。
朝練、昼錬は当然。夜は道場で稽古だ。
そんなせいで女子とは無縁な俺だったけど、大学3年に進級してからは
早々に主将を先輩から任せられ、後輩の指導もしていたので
余計女の子からは遠ざかってしまっていた。

そんな俺に、女子との飲み会!?
無理ゲーすぎる。
だけど、断る理由も今ものところはない。

「崎って、彼女いないよな?」

「ああ、いないけど……」

「童貞?」

「ち、ちがうわっ!」

顔を真っ赤にさせて否定する。
だが、童貞かどうかは、自分自身でもわからないというのが答えだ。

1年生の冬……。新年会と称して、部活の飲み会が開催された。
その時、真っ先につぶれた俺は、女の先輩の家に泊めてもらったのだが……
翌朝起きたら、先輩は全裸だった。

真っ先に自分が何かしでかした! と思ったのだが、着衣に乱れもない。
脱いでるのはあくまで先輩だけだったのだ。
しかし、その先輩は起きるとともに
「……昨日、よかったよ?」なんて意味深な台詞をつぶやいた。

だから、真相は闇の中なのである。

「今度の金曜は、道場が休みじゃん! だからさ」

「……うーん」

友人で副主将の智也は、俺の肩をポンと叩く。

「行ってもいいけど……どうせ数合わせなんだろ?」

「まぁまぁ、そう言うなよ。ともかく参加決定な?」

智也に強制的に参加させられることになった俺。
だけど、まさかそこで運命の出会いがあるとは、思いもしなかった……。

//場面転換

「智也~!! ここ!」

「麗華!」

女子側の幹事がスマホを手にしてこちらへと寄ってくる。

「ゆみえちゃんも来たんだ。あとは……げっ!?」

「な、なんだよ、どうしたんだ?」

「右端の女!!」

智也は俺の耳を引っ張ると、こそこそと話し始めた。

「あの人『白谷さん』だぞ!?」

「しろたに……? 誰?」

よくわからない俺に、智也はイラッとしたようだ。
先ほどよりも強く耳を引っ張ると、『白谷さん』について教えてくれた。

「白谷行幸! 4年の先輩だよ。
普段は別のキャンパスにいるんだけど、なんでここに!?」

「ああ、確かに3年の飲み会に4年生がひとりってのも変だよなぁ」

「違うっ!! そういう意味じゃないっ!!」

智也は小声だけど、だいぶパニックに陥っていた。
あわあわと女子の機嫌を伺いながら、俺にこっそりと情報を与える。

「白谷さん、学内じゃかなりの有名人だぞ? 
なんでも歴代の奇人変人No.1って言われてるし……」

「変って……まぁ、あの豹柄Tシャツは奇抜ではあるけど」

「いや、服装もだけど、中身も相当イっちゃってるらしい。
一人で1年の選択授業受けてたり、3年の就活イベントに出席したり……。
他にも酒乱でヤク中だって話も」

「酒乱!? ヤク中!?」

「しっ、声がでかいって」

「智也~、早く店行こうよ! 時間だけ経っちゃうよ?」

麗華ちゃんが智也を呼びつける。
智也は仕方なく俺から離れると、雑居ビルのエレベーターのボタンを押した。

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