文字数 1,038文字

「みゆきさん!!」

「サキ、ここだ」

駅前で待ち合わせると、俺とみゆきさんは歩き出した。

いよいよみゆきさんの家に行くのか……。
どんな部屋なんだろう?

今までのみゆきさんの趣味から考えると、
結構ボーイッシュな感じなのかな。
迷彩柄のカーテンとか、ドクロの置物とか。
いや、普段の言動の反動で、意外にも少女趣味だったりして。
ピンクと白を基調にした部屋だったらどうしよう!
それか、ブラックで統一された大人っぽい部屋とか?
ともかく楽しみだけど、その前に……。

「みゆきさん、暗いですし、手をつなぎませんか?」

「手? ああ、それならいいものを持ってるぞ」

「いいもの……ですか?」

「これだ」

バッグから出てきたのはなぜか手錠。
みゆきさんは躊躇なく俺の腕にそれをかけた。

「これを縄で縛って……よし、私が引っ張ってやるから
ちゃんとついてこい」

俺が期待したのは、犯罪者の気持ちになることじゃなくて
ドキドキしながらみゆきさんのぬくもりを感じることだったのに……。
大体なんで手錠なんて持ってたんだろう。
それを考えたら、終わりなのか?

駅から徒歩10分。大きなマンションの前でみゆきさんは止まった。

「ここの最上階……10階が私の家だ」

「へぇ! すごいですね。最上階だなんて……。
夜景もきれいだろうなぁ」

「そうだな、それは自慢だ」

きっと今夜はロマンチックな夜になるはず!
みゆきさんもそれを望んだから、
俺を招待してくれたんだ!

浮かれた気持ちを隠さず、俺は上機嫌で
エレベーターの到着を待つ。

一緒にエレベーターに乗り込むと、『10』のボタンを押す。
ドアが開くと、みゆきさんは俺にキーを渡した。

「……なんです? これ」

「1001号室は掃除したばっかりだから」

「え? ど、どういう意味っすか!?」

「ここのフロア全部がうちん家だから」

「………はぁぁっ!?」

「んじゃ、私は自分の部屋に帰るわ。おやすみ」

みゆきさんはさっさと1003号室のドアを開けて
非道にもガチャリと鍵を閉めてしまった。

意味ないじゃん!!
家とか部屋とかっ……関係ないじゃんっ!!
俺は急いで携帯を出し、みゆきさんに電話する。

『どうした? 部屋の使い方がわからないとか?』

「そうじゃなくって!!
恋人同士だったら、同じ部屋でイチャイチャするでしょ!!
なんで別々の部屋なんですかっ!!」

『文句があるなら帰れや』

ぷつり。
ツー……ツー……。

ひどい……。
仕方なく俺は1001号室に入り、
一人で夜景を見ることにした。

「うわぁ……きれいだなぁ。
ロマンチック~……」

むなしいだけだった。

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