文字数 1,246文字

「ん……あれ? 飲み会は?」

「気がついたんスね。……終わりましたよ。
色んな意味で」

はぁ、と俺は大きくため息をついた。
とりあえず連れて出てきたのはいいが、
彼女をどうすればいいか困っていた。

俺は実家暮らしだし、さっきの飲み会のメンバーは
連絡がつかない。
智也のやつ、覚えてろよ。

……結局、どうすることもできず、
公園のベンチに寝かせると、たったの3分ほどで復活してくれた。

「ああ、また暴れたんだっけ。迷惑かけたね」

「記憶あるんですか?」

「意図的にやってるから。
……楽しい飲み会を乱闘大会にするのが趣味なんで。

「なっ……!?」

「ちなみに先月は隣の席のおっさんたちと殴り合った」

この人最悪だ!!
タチ悪すぎだろっ!

「あの、こんなこと言うのもアレですけど、マジでそのうち逮捕されますよ?」

「大丈夫。そんなときのために……」

彼女がバッグからちらりと見せたのはスタンガンだった。

「そ、そっすか。じゃ、俺はこれで」

関わっちゃいけない。
白谷さんは地雷すぎる。
関わると、そのうち俺まで逮捕される。

そりゃ、こんなヤバい人だったらヤク中の噂がたっても
おかしくない。

逃げようとしたところで、ガッとズボンのベルトをつかまれた。

「まぁ待て」

ガンッ!!

「っ……!! な、何するんですかっ!!」

バッグで思い切り頭を殴られた俺は、構えをした。
もしかしたらさらに危害を加えられるかもしれない。
そうなる前に、倒そう。

倒したら、今度こそここに捨てていく!!

「落ち着けよ。さっきの飲み代、払ってないだろ。
2万で足りるか?」

「……はぁ。2万……」

普通の飲み代なら多すぎるが、あの店はもう出禁になること決定だし、
迷惑料だと思えば、安いくらいか。

俺はそれを受け取ると、今度こそ逃げようとした。

「……だから、待て」

ガンッ!!

「痛ぇ……な、なんで殴るんですか!!」

「人の話を聞かないで逃げようとするからだけど?」

これ以上、何の話があるというのだ。
俺は後ずさりをする。

「キミには迷惑をかけたと思う。後日、お詫びをしたい」

「は? お詫びですか?」

「うん。これ、連絡先。
とりあえずなんかあったら連絡くれるか?
今日暴れた店から何か言われるかもしれないしね」

それは確かにある。
店からだけならまだいいが、
最悪警察から連絡がくるかもしれない。
連絡先は知っておいた方がいい。

「それじゃ、おやすみ」

カードを受け取ると、彼女はふらふらしながら駅の方へと歩きだした。
だけど……。

今度はドカッ!! と大きな音が聞こえた。

一瞬のことで目を擦る。
彼女は吹っ飛んでいった。
超スピードで突っ込んできた自転車にひかれたのだ。

さすがに驚いた俺は、その場に立ち尽くしてしまったが、
白谷さんは自転車の運転手に笑顔を見せると、
何もなかったかのように立ち去って行った。

……平気なのか? あの人。
それにこのカード……。

彼女にもらった手の中のものを見つめる。

『素行調査員・白谷行幸』。

「何者なんだよ……。
確かに携帯とメールのアドレスも載ってるけどさ……」

彼女からもらったのは、大手探偵社の名刺だった。
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