文字数 1,922文字

「白谷さ~ん、なんで飲み会参加してくれたんっすか!?」

少し酒が入って余裕ができたのか、智也がぶしつけな質問をかました。

白谷さんは5杯目に冷酒を頼んでいた。
ビール、焼酎、冷酒……ちゃんぽんかよっ!!
だけど、酔った様子もなく、ただもくもくと飲んでいる。
料理には手を出していない。
くっ……酒飲みの飲み方だ……。

質問した智也に顔もむけず、白谷さんはぐい飲みを傾けながら答えた。

「……興味があったから」

「お、おおっ!」

思わず俺は声をあげてしまった。
彼女もやっぱり普通の学生なんだな。
ただKYってだけで。

だけど失礼な質問はさらに続いた。

「白谷さん、彼氏いないんですか~?」

「いるわけないってことは、自分で一番理解してるから。
普通に考えて、こんな根暗な女いやでしょ。
顔もいいわけじゃないし、おしゃれなわけでもない」

「え、えぇ~? そ、そんなことないですよ……」

一応、ここは場を盛り下げないために、
フォローすべきだよな!?
だけど、俺のそんな気遣いも、次の一言でかき消された。

「私が男だったら、絶対に付き合いたくない」

……そうですか。
こんな自信満々なマイナス自己評価、
初めて聞いた。

「だからここで彼氏を見つけようとか!?」

麗華ちゃんも調子に乗って突っ込む。
6杯目に頼んだ泡盛を飲み干すと、
さらっと答えた。

「別に彼氏は現時点でいなくていいと思う。
それに、結婚だけするなら最終手段がある」

「さ、最終手段って……」

恐る恐る俺がたずねると、スパッと返された。

「お見合い。1回で結婚に持ち込む。
交渉事なら得意だから」

恋愛の楽しさなんか考えないで、実利だけを重視した結果か……。
さすがにこの回答には、全員が黙り込んでしまった。

「で、でも、こういう飲み会に来てくれたのは、そ、その、
……なんでですか?」

本当にそれしか質問できなかった。
俺たちのテーブルだけ、お通夜状態だ。
だけど、そのときふっと白谷さんが笑った。

「……友達が誘ってくれたから」

「え!? 私って友達なんですか!?」

れ、麗華ちゃん……。
それは思ってても口に出しちゃまずいでしょ。
確かに麗華ちゃんと白谷さんは友達とも先輩後輩とも
思えないけど。

「うん」

頬を赤らめて、こくんとうなずく白谷さん。
な、何、これ……。
麗華ちゃんは若干引いている。
これは、壮大な勘違いなのか!?
だとしたら、不気味なオーラを醸し出している白谷さんだけど、
本当の彼女は頭弱いんじゃ……。

「………」

うなずいたまま、白谷さんは止まった。
今度は何だというんだ?

「し、白谷さん……?」

「うっ……」

泣いてる? もしかして、麗華ちゃんの質問が本当はショックだったとか?
それか、飲み過ぎたせいでリバースするのか!?
前者も面倒くさいが、後者はもっと迷惑だ!!

「白谷さん、トイレに行き……」

「うるせぇぇぇっ!!! 誰が顔面トイレじゃああっ!!」

「!?」

いきなりの罵声に、盛り上がっていたはずの店内までも
しん、となる。
って、『顔面トイレ』なんて誰も言ってない。
酔っ払いの被害妄想か?

立ち上がって、ドンッ! とテーブルに足を乗せると、
白谷さんは叫んだ。

「酒が好きなんだよ!! どうして来たかって?
酒を飲みにきて何が悪いっ!! 店員!! 生中3杯追加っ!」

「智也! やばいぞ、この人噂通り酒乱だ!! 取り押さえろ!!」

「わ、わかった! 白谷さん、落ち着いて……」

「誰が酒乱だ、この野郎っ!!」

「うおっ!!」

白谷さんの右ストレートが俺の顔面に入る。
い、痛い……。な、なんだ? この重いパンチはっ!!
本当に女子かよ!!
鼻に違和感を覚え、手でこすると、血が出ている。

「大丈夫か、崎!」

「と、とりあえず取り押さえて、店の外に連れて……っ!?」

ぶおん、と何かが空を切った。

咄嗟によけて構えると、目の前には隣のテーブルから奪った焼酎のボトルを
手にした白谷さんがいた。

「よう、崎くん。キミが相手か?」

「そ、そのボトルは置きましょうよ……ね?」

俺は、白谷さんを落ち着かせようとする。
彼女はボトルにそのまま口をつけ、ごくんと焼酎を飲むと、バリンッ!! と
空になったガラスビンを割った。

「や、やべぇぞ……これ、警察来る!! みんな逃げろっ!!」

「きゃああっ!!」

智也たちは伝票を持つと、逃げるように店の外へと走る。
マジかよ……置いていかれた!!

もうこうなったら最終手段だ。

「白谷さん、落ち着いてくださいって!!」

「!?」

腕を取ると、そのまま投げ飛ばす。
彼女の小柄な体が宙を舞う。
どたん! と通路へと投げ飛ばすと、白谷さんは気を失った。

よし、逃げるなら今のうちだ。
だけど、彼女を置いておくとまずい。色々と。

「あ、あの、お客様っ!」

店長らしき人が呼び止めたが、俺は無視して
彼女を引きずり外へと出た。

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