文字数 3,316文字

待ち合わせ時間、10分が過ぎた。

「来ない……」

もしかして、気が変わったとか?
それならそれで、ラッキーなんだけど。
だけど、何も連絡なしっていうのも
最低だな。

面倒だけど、こっちから連絡してみるか。

白谷さんにメールを送ると、
速攻で電話がかかってきた。

「待ち合わせ場所にいるんだけど。
どこ?」

「えっと、喫茶店の前なんですけど」

「ああ、いたわ」

電話が切れると、目の前にロングヘアでワンピースを着た
女性が立った。

胸、でかっ!

「……やっぱ胸でかいか」

「はっ!? す、すみません!!」

反射的に謝ると、その女性は俺の横に移動した。

「で? 今日はどこに行くんだ?」

「あ、あの……どなたですか?」

「白谷だけど」

「!!」

あの、地味で中の下or下の中ぐらいの顔の
白谷さん!?

全然顔違うんですけど……。
目はぱっちり二重だし、
まつ毛長いし、胸でかいし……。
それに、普段と全然格好が違う!

あの、怪しいTシャツにジーパン姿の
だっさい人が、これ!?

「……ああ、顔違いすぎて驚いてんのか。
今日バイトで」

「バイトって、何のですか?」

「尾行。ペア組んでた先輩が、普通の姿だと
恥ずかしくていやだって。
一緒に歩きたくねぇってほざいたから、
美容室でガッツリメイクしてもらった。
カラコンも入れたし、
胸はパット5枚くらい入ってる。
とりあえず、メイク落としたいから
トイレ行ってもいいか?」

どこからつっこんでいいのかわかんねーよ!!
尾行って、どんなバイトだよ!
それに……。

「あの、でかい声でトイレ行くとか
言わないでくださいよ。
一応女の人なんですから」

「は? トイレに行きたいって言って
何が悪い。
ともかくちょっとそこで待ってて」

ダメだこりゃ。
何言ってもわかってくれなさそうだな。

白谷さんを送りだして
5分後……。

「はぁ、さっぱりした」

「……女性のメイクって、
改造手術なんですか?」

「元が悪いのは認めるけど、
大概にしろよ」

カツラを取って、
メイクを落とした白谷さんは、
いつもの陰気な顔に戻った。

「カラオケか……」

俺は白谷さんをカラオケに連れてきた。
どこに行けばいいかかなり迷った結果だ。

映画は好き好きあるし、
だからといって、夏の暑いところを
うろうろするのもかったるい。

そもそもこのデート……
いや、二人で出かけるということすら
面倒だと思ってるくらいなんだ。
もはや接待のひとつでしかない。

それを考えると、カラオケは楽だ。
クーラーの中で歌ってれば、
いつの間にか数時間経ってるだろうし。

「先に白谷さんからどうぞ」

「いや……先攻は譲るよ」

先攻……?
何のことだ?
気にはなったけど、俺は適当に曲を入れた。

「……ふうん、V系か。
それなら……」

俺が歌っている間に、白谷さんも曲を入れた。
げっ、同じバンドの曲じゃん。

「白谷さんも好きなんですか?」

「まぁ……」

歌い終わると、今度は他のバンドの曲を入れた。

「ふうん、それ入れたんだ。
じゃ、私も……」

くっ! また同じバンドを被せてきた!!
こうなったら……。

「アイドル好きなのか?」

「ま、まぁ、流行りの曲なんで……」

「それならこの曲も知ってるか?」

「!!」

また同じアイドルの曲をっ!!

被せに被せられた俺だが、やけになっていた。
白谷さんの歌は決してうまくはないが、
守備範囲が同じで、イラッとする。

それならこれでどうだ!

「……ああ、ダンス系ユニットの。
じゃあこれで」

なっ!?
うろ覚えだけど博打で入れたのに
また被せられた……。
しかも、今まで全部男性ボーカルの曲じゃないか。
男友達とカラオケに来てる感じしかしない。

「白谷さん、どんなジャンルでも歌えるんですか?」

「そういうわけじゃないけど……
便利なものがあるじゃん」

「え? なんですか」

「ベスト盤」

その手があったか……。
なんとなく、今まで頑張っていた自分が
かわいそうになった。

「そういえば、前に言ってた
ペンダンツってバンドの曲は
入れないんですか?」

「入れないっていうか、
メジャーじゃないから入ってない」

「そ、それじゃ、リトルポリスマン……でしたっけ?
あれは?」

「歌詞が倫理的にまずくて、表示できないらしい」

この人とカラオケ、もう絶対に行きたくないと
確信した。

//場面転換

はぁ……ただのカラオケだけだっつーのに、
すごく疲れた……。
だけど、これでもう二度と彼女とは
関わらなくて済むよな?

そう思ってたんだけど……。

「あ、ちょっと待ってて」

「はい?」

白谷さんは俺を待たせると、自販機で何か買ってきた。

「はい、いちごミルク。歌って喉乾いただろうから」

「これ、俺が好きなやつ……なんで知ってるんですか?」

「その……キミのことはずっと見てたから……」

「えっ……」

『ドキン……』って少女漫画だったらなるんだろうけど、
この人学年違うし、キャンパスも違うし、
そもそも初めて会ったの数日前の飲み会だし、
さらに言うなら『いつも見てた』っていつからだよ。
怖いわ。

「まぁ、今日は楽しかった。ありがとな。
私、学校内に友達皆無だし、
誘ってもらえて嬉しかった」

「白谷さん……」

やっぱり、学校内で浮いてるだけあって、
こうやって誘われることは少ないんだな……。
そこは少しだけ同情する。

「気が向いたら、また誘ってほしい」

「は、はぁ……」

「今日のカラオケ、楽しかった……って、智也くんも
言ってるし」

「はぁ……って、なんで智也が!?」

白谷さんは無言で携帯の画面を見せる。

『白谷さんのことに気づかなくてあたふたしてる姿、
超ウケる!』

「なっ、なんで智也が!?」

自分の携帯を取り出して、智也に連絡する。

「おい! 智也、どういうことだよっ!!」

『いやあ、麗子経由で連絡来たんだけどさ、
お前が白谷さんと会うって聞いて。
麗子にお前と会うときどうすればいい? って
たずねたらしい』

俺に会うのが不安だったってことか?
この人、人間不信ってわけではないと思うけど……。
でも、男っ気なさそうな雰囲気だし、
一応女として思うところがあったのか?

だが、智也の話はまだ終わってはいなかった。

『白谷さんさぁ、
「どうしたら崎くんの珍プレー・好プレーが見られるかな」
って言ってたらしいぞ?』

くっ!! 不安だったんじゃなくって、
俺の面白い姿を見たいってどんだけ嫌な女だよ!!

「……というわけで、会ってからずっとキミの様子を
写メと動画で智也くんと麗子ちゃんに送ってました」

ふざけんな。
それに、あんたらいつの間に仲良くなったんだよ。
内心思ったけど、智也や麗子ちゃんもグルだと知って
本当に悪いやつが誰なのか
もはやわからなくなっていた。

電話を切ると、憎しみをこめた眼差しで
白谷さんを見やる。
しかし、彼女は平然として、軽く言い放った。

「ちなみに、メイクの手配してくれたのも麗子ちゃん、
パットが5枚入るブラも麗子ちゃんに借りた」

ブラまで借りたって……。
二人はどういう関係だよ。

下着の貸し借りをするのもあり得ないし、
大体麗子ちゃんと彼女は本当に友達だったのかも
怪しいのに、なんでこんなことになったのか……
俺には理解不可能だ。

「俺をみんなでハメて、何が面白いんですか!」

「え。その困った様子がかわいいから」

ぐっ!?
か、かわいい……?
空手部主将の俺が、かわいいって?
さすがに言われたことはないな……。

「私も喉が渇いたな。コーラでも飲むか」

ペットボトルのコーラを開ける白谷さん。
その瞬間。

プシューッ!!

「………」

勢いよく噴出したコーラは、
俺の顔面にかかり、べたべたになった。

「白谷さん……本当に俺に何の恨みが
あるんですか」

「ああ、悪い悪い。
だけど……」

デオドラントシートを俺に渡すと、
白谷さんはふっ、と笑った。

「キミは本当にいじめがいがあるなぁ。
その表情、いいね」

「っ!!」

い、いじめ……。
トクン。
心臓が鼓動を打つ。

えっ!? な、なんでその一言で
俺、トキめいてんの!?
だんだん胸はドキドキと騒ぎ始める。

「じゃあ、今日はお疲れ。
また機会があったら、ぜひ遊ぼう。
今度はまぁ、キミを裏でハメたりはしない。
……堂々といじめるから」

「は、はい……」

お世辞にも美人とは言えないし、
性格もすっげーブスだし、
最低なクズ女だと思うのに、
なんでかわからないが俺は『また会いたい』と感じて
しばらくその場から離れられなかった。

俺、疲れてるのかもしれない……。
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