エピローグ

文字数 3,815文字

俺、崎幸助は見事大学を卒業し、
警察官になりましたっ!!

なんで警察官かって?
……みゆきさんやお義母さんに何かあったとき、
対処できるからだ。
何かあったら、どうにかしてもみ消す!
純粋に市民を守るとか、たいそうな理想を
掲げてなくてすまない!

だけど、警察官か弁護士か。
俺にはその二つしか選択肢はなかった。
理由は……わかるだろ?

1年先に卒業したみゆきさんは何をしてるかって?

意外なことに、彼女は超一流企業の四菱グループに
勤めていた。

しばらく忙しくて会えなかったけど、
今日は久々のデートだ。

「ねぇ、みゆきさん」

「なんだ、サキ」

「なんで四菱に入れたの?
確かに大学の成績が良かったのは知ってるけど……」

「ああ、そのことか。
昔、飲み屋でおっさんと取っ組み合いのケンカになったんだが……
面接官が彼でな」

「それが縁で!?」

「いや、そのあと再会を祝って飲みに行って……
もう一回殴り合ったら合格になった」

どういうことなのか、常人の俺には理解できかねるのですが。

もしかして少年漫画でみるような、
殴り合って「お前、なかなかやるな……」
「お前もな」ってやつだったりするのか?

だとしたら四菱の人事も、よっぽどの人だと
思われる。

でも、一流会社に入ってくれているおかげで、
おかんもみゆきさんのことを気に入ってるし、
おとんも「彼女なら嫁に来ていいと思ってる」なんて
言ってくれてる。

まだ、結婚なんて早いけど……。
できたらいいなぁとはちょっとだけ
思っている。
みゆきさんもそう思ってくれてるといいんだけどな……。

デートの数日後。
お義父さんから電話をもらった。

「行幸が事故った。今入院している」

驚いた俺は、仕事が終わるとすぐに
病院へと向かった。

「みゆきさんっ!!」

「……サキか?」

個室のベッドに横たわっていたのは、
全身ミイラ状態のみゆきさんだった。

「ひ、ひどい……一体何が起きたんですか!?」

「……眠くてな」

「は?」

「朝、自転車で駅に向かってる途中、居眠りしたらしい。
電信柱にぶつかって、吹っ飛んだときにあごを打った。
近くを歩いていたサラリーマンに助けてもらった……」

「そんなことが!?
みゆきさん、危ないですよ!!
でも、記憶が確かでよかったです……」

「記憶は確かじゃないぞ。
今のは全部、聞いた話だからな。
気を失っていた人間が、ここまで状況把握できてるわけないだろ」

それもそうか……。
相変わらず淡々と話すみゆきさん。
俺は閉口した。

「しかし……病院っていうのはつらいな」

「ずっと寝てないといけないからですか?」

「違う」

「え?」

「母がな……」

俺はごくりと唾を飲んだ。
あのお義母さん、今度は何をやったんだ!!

「『ケガしたのは宗教に入ってないからだ!』って、
相部屋で謎の水をぶっかけてな。
母曰く、聖水らしいんだが……。
毎日『悪霊退散!!』って騒ぎ立てて帰るんだ。
そのせいで私は個室だよ。
終いにはギター片手に讃美歌を歌って……」

お義母さん……相変わらずの危険人物だなぁ。
ギターに讃美歌って、どんなロックだ。

「ともかく、私自身は心配いらない。
明日には退院するだろうし」

「ならよかったです。
俺、ホッとしましたよ……」

「そうか、心配させてすまなかった」

「えっ……」

あのみゆきさんが、初めて俺に謝った。
しかも心配したことに対してだ。
いつも傍若無人で、人のことをサンドバック程度に思ってて、
ひどい目にあわせるのがすきなみゆきさんが……。

みゆきさんは、俺の手をそっと握った。

「キミには迷惑をかけっぱなしだな。
出会った時からずっと……」

「そんな! 気にしないでください。
もう慣れっこですよ」

「慣れるまで、ずっとそばにいてくれたんだな……キミは」

「だって俺、みゆきさんがいないとダメですから」

「バカだな、キミは。
私なんかに構わなければ、もっと楽しい人生があったかもしれないって
いうのに」

「バカで結構ですよ。
俺は今の人生に満足しています。
その……みゆきさんと一緒の人生にね」

「なら、はっきり言わせてくれ。
私と……結婚してくれないか?」

思わぬところで逆プロポーズ。
……こんなの、ずるいだろ。
プロポーズって、俺がするのが普通じゃん。
いや、普通じゃない。
彼女は常人の物差しで測っちゃいけない人だ。
本当は俺から言いたかったけど……
この人ならいっか。

「はい。俺なんかでよかったら」

「うん」

みゆきさんは初めて俺に本当のほほえみを見せてくれた。
俺は嬉しくて、泣きそうになったのをなんとか
我慢した。

//場面転換

俺とみゆきさんは、結婚を決めたことを互いの両親に
伝えるため、電車に乗っていた。

「でも、思いもよりませんでした!
みゆきさんと結婚することになるなんて」

「私もだ。それで、子どもの名前なんだが……」

「え!? こ、子ども!? まさか、もういるんですか!?」

「いないけど、できたとしたら……。
『幸助』の『幸』と『行幸』の『幸』を取って、
『幸幸』……か」

「パンダじゃないんですよ?」

「じゃあ『行助』」

「いきすけ……ひどいですね。
お互いの名前を入れるのはやめましょう」

「……だな」

俺の両親は、みゆきさん必殺の猫かぶりで
あっさり承諾してくれた。

みゆきさんの親御さんは大丈夫だろうか……。

「心配はないと思うが、一応、手は打っておいた方がいい」

「手……ですか?」

「はい」

ゴソっ。

みゆきさんはバッグの中から鉄板を取り出した。

「母が最近、散弾銃を取得してな。
嬉しさのあまり、暴発するかもしれないから」

「……散弾銃はこんな薄い鉄板じゃ、受け止めきれませんよ。
みゆきさん、未亡人になってしまうので、
それだけは止めてください」

「わかってるって。父がいるから大丈夫だろう」

それならいいんだけど……。
色々な修羅場を潜り抜けて、ある程度は驚いたりひるんだりしない
自信はつけたが……。
やっぱりお義母さんには恐怖を感じずにはいられなかった。

エピローグ

「結婚、おめでとーーーーっ!!!」

結婚式の二次会を開いてくれたのは、智也と麗子ちゃんだった。

「いや、まさかお前らが結婚するとはな!」

「崎くんって、ホント、根っからのドMなんだね!!」

「お前ら……」

シャンパンを勧められながら、俺はみゆきさんを見つめていた。

出会ったばかりの頃からは想像できないような美人が、
目の前にいる。
彼女は石黒さんやほかの知人とともに、ワインを飲んでいた。

さすがに自分の結婚式の二次会で、
ケンカを引っかけるようなことはしないだろう。

安心して、智也たちと話をしていたところ、
みゆきさんが近寄ってきた。

「サキ……いや、幸助。ちょっといいか?」

「なんですか? みゆきさん」

ドガッ!!

「!?」

履いていた白いハイヒールで、俺は足払いをかけられた。
バランスを崩すが、さすがに俺だって同じ手は何度も食わない。
それに、現役の警察官だ。
この程度の攻撃で、倒れるわけがない。

「……みゆきさん」

「ほう、幸助。なかなかやるな?
では、結婚初夜の儀式……決闘を行おうじゃないか!」

「は、はぁ!!? ちょ、ちょっと待ってください!!
俺の知っている結婚初夜とはだいぶ違う……」

「問答無用っ!!」

みゆきさんのパンチが、俺の脇腹の柔らかいところに入る。

「ぐえっ!!」

「みゆき殿!! なかなかいい動きでありますっ!!」

くっ……石黒さん、余計なことをっ!!
俺だって、もう負けたりはしないっ!!

「せいっ!!」

「ちぃっ!!」

拳を容赦なく顔面に入れようとしたが、すんでのところで
避けられた。
みゆきさんはしゃがむと、もう一度俺の脚を払う。

ドタンッ!!

床に大の字になった俺の腕を取り、みゆきさんは腕ひしぎ十字固めに
持っていく。

「ふん、この程度の技を簡単にかけられるなんて、
成長が見られないぞ!!」

「……わざと、ですから」

「へ?」

「みゆきさんに技をかけてもらえるなんて、俺は幸せ者ですっ!!」

みゆきさんの力が弱まる。
その隙に抜け出すと、俺はみゆきさんに覆いかぶさった。

「なっ……!!」

「好きです、みゆきさんっ!!」

そのままキスをすると、みゆきさんはゆでだこみたいに
真っ赤になった。

「……みゆき、さん?」

「こ、こっちに来るなっ!!」

こんな人生を歩むことになるなんて、
初めて会ったときは思いもしなかった。
だけど、俺は今、最高に幸せだ。

今日のみゆきさんはとてもきれいだし、
ずっと俺のことを支えてくれるは……ず……?

「はれ?」

地面がゆがんで見える。
酒はそんなに飲んでないのに……どういうことだ?

さっきまで真っ赤だったみゆきさんが、にやりと悪どい笑みを
浮かべている。

「この『母オリジナル・ぶっとびシェキナベイベー』はよく効くようだな?」

「な、なんです? それ……」

「精神安定剤だ。結婚式の準備、大変だっただろ? ゆっくり休めよ」

「そ、そんな……み、みゆき……さ……ん」

気が遠くなる。俺は一服盛られたってことか。
頭の上に、何か固いものが乗っかる。
それがみゆきさんのハイヒールだということに気づいたのは、
二次会の映像を見たときだった。

「皆の衆、この白谷行幸、空手部主将打ち取ったり~!!」

みゆきさんは俺を足蹴にして赤ワインを片手に上機嫌だ。
あとから合流したお義母さんが、散弾銃をぶっ放す。
バン、バンと、クラッカーではない発砲音が、二次会会場に
響き渡る。

「おい、本当にいいのか?」

智也が心配そうに俺に囁く。

「早まったかもしれない……」

俺は小さくつぶやくと、そのまま気を失った。
                                     【了】
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み