文字数 1,549文字

「………」

「なんだよ、携帯見つめて」

「智也! お前っ!!」

稽古前に携帯をいじっていたら、
智也が声をかけてきた。
こいつにはこの間の恨みがある。

俺は携帯を手にしたまま
蹴りを食らわせた。

「痛ぇよ! この間のことは、
確かに悪かったって。
お詫びに焼肉おごっただろ!
それでチャラだって約束しただろうが」

「だけど、腹立つもんはしょうがないだろ」

「それよりどうなんだ? 最近白谷さんとは」

「……連絡はないよ」

小さくつぶやくと、智也は驚いた顔をした。

「なんでそんなに気を落とすんだ?
ひどい目にあわされたじゃん」

「お前も一枚噛んでただろ!」

「それはそうだけど……」

「はぁ……」

俺はもう一度携帯に目をやった。
画面に映っているのは、
白谷さんとの最後のメールだ。

『今日は楽しかったお!(*^_^*)ノ
男の子と遊ぶなんて、あんまり機会がなかったから
超緊張しちゃった☆
また遊んでくれると嬉しいなぁ~v』

彼女、やっぱりヤク中なんだろうか。
普段の彼女のテンションと、メールのテンションが
違いすぎて、困惑を通り越してぞっとする。
それにどこまでが真意なんだろう……。
読めない。

「俺、白谷さんが怖い!
なのに、気になってる自分がもっと怖い!!」

「そのメールは確かにヤバいにおいがするけど……
まさか、お前白谷さんに恋してるとか?」

「こ、恋!?
う、嘘だろ!! そんなわけない!
恐ろしい冗談はやめろよ!!」

あの異常な人に恋って……。
ありえない。

だけどここ数日、一緒に出かける前の
アプリでのやり取りを
何回も見ている自分がいる。

白谷さん、今頃何してるんだろう……?

またどっかの飲み会に参戦して、場を荒らしたり、
ライブで遠征したり、
怪しいバイトしてるのかな……?

「うおおっ! 周りの人に被害が出てないか
心配すぎるっ!!!」

「お前が心配してどうするよ……。
っていうか、そんなら自分から連絡してみればいいじゃん」

「で、でも……関わるの怖いし」

「気になってるんだろ。普通に連絡入れるぐらいなら、
別に害はない……と思うぞ?」

「そ、それもそうだよな。
ちょこっとだけ、メールしてみるか」

そうだ。おびえることはない。
相手がどんなによくわからない人でも、
俺は空手部主将だ。
女に襲われたって、大丈夫だ!

家に帰るとさっそくベッドの上で
文字を打とうとした。
だけど……一体何を話せばいいんだ?

少し考えたのち、打った言葉。

『最近どうですか?』

うわぁ、自分でも「これはないわ」と思う内容。
でも、他に何も聞くこともない。

「とりあえず送信っと」

下手すれば無視されるかもしれないけど、
まぁいいか。
返信がなかったら、元気ってことで
放っておこう。

ピロン、と音が鳴った。

「返信か? ……やけに早いけど……ん!?」

『あいえひ、助けて、、お』

「!?」

これは何かの暗号か!?
いや、意味は分からないけど、『助けて』って!

俺は急いで電話をかけた。
ワンコール、ツーコール。

『もしもし』

「し、白谷さん!? 『助けて』って
何があったの!?」

『……あ? 何の話だ?
ふぁ……』

「い、今そう書かれたメールが……!」

『……うーん、寝てたんだけど。
なんか携帯が鳴ったから、
文字打ったような気もするな。
それか?』

……もしかして、寝ぼけて返信したのか?
この人。
人騒がせだな! くそっ!!

「もういいですっ!
心配なんかしませんよっ!」

『ああ、そうだ。崎くん。
総合格闘技のチケットがあるんだが、
一緒に行くか?
私の周りに好きな人がいなくてな。
バイトの関係でもらったんだが……』

「……行きます」

ピッ。

……。
………。
…………。

はっ!? お、俺、つい流れでOKしちまった!
い、いや、だって総合格闘技のチケットなんて、
なかなか取れないし……。

っていうか、なんで俺、そんなホイホイ話にのってるの!!

自己嫌悪になりながら、俺は布団をかぶった。

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