文字数 3,751文字

「ちくしょうっ!!」

「うわっ!? お前どうしたんだよ。
力みすぎるっていうか、乱暴だぞ?」

智也と組手をしていると、いらだっていることを
指摘されつい口をつぐむ。

「………」

「何があったよ」

「……逆だよ。何もないんだって」

「は?」

「白谷さんからまったく音沙汰がないんだって!」

「それはいいことじゃないのか?」

そう言われて、また閉口する。

今の気持ちを一体どう表現すればいいのかわからない。
何も連絡がないから不気味というわけでもない。
ただ、何か言ってきてくれてもいいじゃないか。

俺の様子を見かねた智也は、
またため息をついて言った。

「もしかしたら、お前フラれたんじゃないか?」

「だ、だから告白もしてないって!!」

「告白まがいなことは言ったんだろ?
それこそ誤解されたとか。
で、お前のこと、別に好きでもないから
連絡を絶った。
考えられないことじゃないだろ」

「それならそうと、断ればいいだろっ!!」

「断るも何も……告白じゃないんだろ?
もう、どっちなんだよ。お前は……」

俺自身、自分の気持ちがわからない。
白谷さんのことは、常に気がかりだ。
あの人が今、何をしているのか……。
何を考えているのか……。
自分の知らないところで何が起こっているのか
知ることができないのが怖い。

「……白谷さんが近くにいないと、
ずっと彼女のことを考えてる」

「はいはい、もう恋でいいんじゃねーの?」

「ち、違う!!」

「この際、勘違いだろうが誤解だろうが、どっちでも
一緒なんじゃねーの?
いっそ付き合ったら?
目の届くところに居てほしいんだろ?
付き合うことになれば、自然と身近にいることになるんだから」

自然と身近に……?
それもそうか。
付き合うことになれば、目の届く範疇にはいるって
ことだよな!

「智也、ナイス! もう恋とかどうでもいい。
不安を解消するには、彼女になってもらえばいい!
さっそく、連絡とるわ!!」

俺はごそごそとカバンを探り始める。

「……とうとう気がふれたみたいだな。
よっぽど疲れてるんだなぁ」

智也が後ろでつぶやいていたことには、
気づかないふりをした。

『今度の土曜、遊園地に行きませんか』

場所はどこでもよかった。
とりあえず告白して、彼女になってもらう。
それが目的だ。

だけど、場所はどこでもいいとはいえ、
さすがに告白するんだからそれっぽい雰囲気の場所を
選んだ方がいい。

相手は何を考えているかわからない人だ。
それこそ気分次第ではフラれる可能性がないとは言えない。

でも、遊園地で大丈夫だったかな……。
文字を送信してから少しだけ後悔した。
どちらかというと白谷さんは、男性寄りの趣味をしている。
カラオケの選曲や、イベントしかり。

遊園地は普通の女の子だったら好きかもしれないけど、
白谷さんはどう思うだろう。

ドキドキしながら返信を待つ。

……返信が来なかったら?
不安もよぎるが、まだ望みが0になったわけじゃない。

ピロン。

来た。
白谷さんからだ。

急いでアプリを起動させる。
パスコードを入力して、早速画面を見つめる。

『行く』

「よっしゃっ!!」

相変わらず、返事は2文字。
それでも俺にとっては、嬉しい回答だった。

そして土曜日。
遊園地の最寄り駅で待っていると、
白谷さんは来た。

さすがにもう秋だ。
夏の間はTシャツだった白谷さんだが、
ラグランに衣替えをしていた。

「久しぶりだな」

「そうですね。急に誘ってすみませんでした」

「遊園地……ね。5年くらいぶりだわ」

「え、そ、そうなんですか?
遊園地、嫌いとか……?」

「ここの遊園地はあまり。
死にかけたことがある」

「死!? 何があったんですか!」

「……真夏に友達に連れられてきたんだが……
彼女がここの遊園地のオタクでな。
振り回されているうちに、熱中症で倒れて
地下通路から救急車で搬送された。
それ以来、二度と来るかって思ってたんだ。
……地下通路って、都市伝説じゃないぞ」

楽しいはずの遊園地で、ひどい思いしてるな……。
遊園地で倒れそうになるなんて、
よっぽどだぞ。
彼女の心中は察する。

「でも、今日は来てくれたんですね」

「数年ぶりに来れば、少しは印象も変わるかと
思って」

「白谷さん……」

「予想通り、現実離れしてるな。
ここの空間は。
あの着ぐるみも、キャラクターとして
スーツアクターが必死に演技しているよ」

もう少し言い方があるんじゃないだろうか。
子どもの夢をブレイクしかねないぞ……。

「最初は何乗りますか!?」

「え、乗り物に乗らないといけないの?」

「……へ? だって、遊園地ですよ!
乗り物に乗らなかったら、
意味ないじゃないですか!」

「混んでるじゃん」

相変わらず、常識というか普通のことができない人だな!
俺はイラッとする。
乗り物に乗らなかったら、遊園地に来た意味ないだろっ!!

「混んでるのは仕方ないことじゃないでしょ!」

「乗り物に乗らないで、その辺をフラフラ
散歩するだけでいいじゃん」

「は、はぁ……」

そしたらパスポートを買った意味が
ないっつーの。

だが、仕方ない。
今日の目的は、白谷さんに告白することだ。
嫌われないように、白谷さんの意思を尊重すべき
だよな。
ここは我慢だ。

俺たちは飲み物を買うと、
人混みのない方へと歩き出す。

「ここまで来ると、遊園地なのに静かですね」

「乗り物に乗るのもいいけど、
こうやってプラプラ歩くのも悪くはないだろ?」

「……そうですね」

いつもだったら何時間も待って乗り物に乗るが、
今日はなんだかのんびりした気分だ。

こんな遊園地の楽しみ方もあったんだな……。

白谷さんって確かに変わってるけど、
それって悪いことじゃなくって
俺とは違う視点を持ってるってことなのかな。

結局俺たちは、ショーをいくつか観たのと
ソフトクリームを食べたくらいで
午後の3時くらいには遊園地を後にすることになった。

うん、これはこれで楽しかったな。
白谷さんも異常な行動しなかったし……。
帰りの電車の中でそう思っていたが、
大事なことを忘れていたことに気がつく。

そうだよ!!
俺の今日の目的は、白谷さんに告白することだろうが!!

本当は夜のパレードを見ながら
ロマンチックに告白しようって思ってたのに、
全然スケジュールと違う行動してたからっ!!
俺はバカか!?

「あ、もうすぐ最寄り駅だな。
今日はありがとう。わりと有意義な一日だった」

「ま、待ってください!
俺も降ります!
少し話がしたいんです!!」

「は? ……まぁ、別にいいけど」

俺は白谷さんと同じ駅で降りると、
一緒に駅近くの公園へと向かった。

告白するなら星空の下で、とも思ったが、
まだそんな時間じゃない。
けど、夕日がきれいだ。
星空ではないが、いいシチュエーションかもしれない。

自販機でコーヒーを買うと、
ベンチに座る。

俺は大きく息を吸うと、
白谷さんにたずねた。

「この間俺が言ったことなんですけど……
あれ、どう思いました?」

「……何のことだ?」

「ほ、ほら! 言ったじゃないですか!!
『ずっと、俺の目の届くところにいてください』って」

「言ったっけ?」

うっ……気にも留めてなかったと
言うことか!!
だから無反応だったんだな?
それなら今度こそ、しっかり告白するっ!!

「あのっ、白谷さんっ!!」

「なんだよ」

「お、俺と……その、
つ、付き合ってくださいっ!!」

「………」

言った!!
とうとう言ったぞ!!

俺は不安げに白谷さんを見た。
だが、告白された当人は眉間にしわを寄せている。
な、なんでだ……?

「キミ、口説いてるつもりなら、
正気の沙汰とは思えないんだが。
何を血迷った。
私と付き合いたいって、頭は平気か?」

まさか、告白されたってわかってないのか?
あれだけダイレクトに言ったのに?
もしかしたら照れて、こういう反応をしているのかも
しれない。

それなら……!
俺はさらに白谷さんに伝える努力をする。

「血迷ってなんかいません!
白谷さんとお付き合いがしたいんです!」

「別に付き合う分にはいいけど」

「お、OKってことですか?」

「私についてきたいのなら、勝手についてくれば
いいだろ」

「つ、付き合うってそういう意味じゃないです!!」

「何が言いたいんだ、崎くん」

やっぱり白谷さんは理解できていないようだ。
なんで告白してるのに、俺が取り乱してる風に
思われてるんだよ……。

「俺は、白谷さんが好きなんですよ!
白谷さんは、俺のことどう思ってますか?」

「どうって……弟?」

お、弟……。
確かに俺は年下だけどっ!!
でも……。
俺が複雑な顔をしていると、
白谷さんは前言撤回した。

「いや、弟じゃないな。
……うちの死んだ犬に似てる」

い、犬ですか。しかも死んだ……。
人ですらないのですか……。

「でも、私もキミのことは好きだぞ」

「えっ!!」

「いい根性してると思う」

それってどういう意味だ。
測りかねる。

「話はそれで終わりか?
そろそろ帰ろう。
今日は疲れた」

白谷さんは大きなあくびをする。
くっ……今日はここまでかっ!
仕方ない。
だけど俺はこんなことじゃ諦めないぞ。

「白谷さん、これからも頻繁に
デートに誘っていいですか!!」

「……でーと?
言ってる意味はわからんが、
時間があれば付き合うよ。
私もその程度は人間関係、大事にしてるから」

人間関係を大事にしてるかどうかは
微妙だけど、とりあえず今後も誘ったら
付き合ってくれるという認識でいいんだな?

それなら今日は退散するけど……。
絶対落としてみせるっ!!

俺は変な目標に向かって燃えるのだった。

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