文字数 991文字

「すげぇな、白谷さん……こんなもん持ってたら、
お前逮捕されるぞ」

「わかってるけど、捨てられないだろ……」

昼練のときに智也にもらったミニ四駆を見せたが、
やっぱり驚かれた。

「それにしても……呼び出されたからって
よく行くよな。
普通、無視するって」

「無視したら怖いじゃん……
それこそ家にこのミニ四駆、投げ込まれそうだし」

あの人の肩書きが少し気になっていた。
もらった名刺に書いてあった探偵会社……。
実在する業界大手だ。
彼女が本当に素行調査員ってやつだとしたら、
うちの家を特定するのも楽勝だろう。
それが不気味だった。

「だけど、本当に面白いな。白谷さんって。
ヤバい人だけど」

「はっ?!」

智也は笑いながら言った。
完全に他人事だ。

「お、お前っ……!」

「せっかくだからさ、1回くらいデートしてみたらどうだ?
直接関わりたくはないけど、
遠くから見てる分にはかなり笑えるから」

「くっ……。
俺にだって選ぶ権利はある!」

「……でも、強い女が好きなんだろ?」

「だけど、彼女は人間としてどうかしてる!
彼女以外なら、どんな女だっていい!!」

俺の声が道場に響いた。

「やだ、サイテー……『どんな女でもいい』とか」

遠くで練習していたチア部の女子たちが、
俺を見てヒソヒソ話している。
なんでこうなった。

「ま、まぁ、お前が本当に嫌だったら
逃げるなりした方がいいぞ。
あーいうタイプはストーカーに
なりそうだからな」

「そこまで好かれてるかはわかんないけどな。
土産って言っても危険物だし。
はっ!! まさか……」

「なんだよ」

「この間投げ飛ばしたことを恨んでいて、
わざとやってるとか!?」

その可能性はなくはない。
現に意識的に飲み会を荒らして
楽しんでる人だし……。

楽しんでいたところ、
俺が投げ飛ばして気絶させたから
こんな嫌がらせをしてるのかもしれない。

「どうしよう、智也!
俺、恨みかった!!」

「……なんでカタコトなんだよ。
でも、それなら機嫌取って
許してもらうしかないんじゃね?」

「機嫌……?」

「デート決定だな」

選択肢はそれ以外にないのだろうか。
何をしてもどんな反応が返ってくるか
わからない。

俺は恐る恐る、休日二人で出かける約束を
取り付けるため、メールを送った。

返信はその夜にきた。

『行く』

楽しそうだから行くことにしたのか、
暇だったのか。
俺に興味があるのか、
逆に俺をさらにおびえさせたいのか……。

たった2文字の中に、俺は言い知れない恐怖を
覚えた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み