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あの後、かなり迷ったが俺は自分の携帯に彼女の番号を登録した。
自動的に無料通話アプリに名前が表示され、
こうして俺と彼女はつながることになってしまったのだ。

そして、あの悪夢とも思える飲み会の数日後――。

「ん? ……白谷さんから!?」

驚くことに彼女の方から連絡が来た。

『この間のお詫びに、旅行のお土産を渡したいんだけど。
時間があるなら1限目前にキミのキャンパスの近くの公園で』

どうしよう。
行くとまた面倒事に巻き込まれそうだ。
だけど、行かなかったら……。
それもそれで何か起こりそうで怖い。

多分、行っても行かなくても、俺は被害を受ける気がする。

「はぁ……仕方ない」

俺は朝練後に、公園へ立ち寄ることにした。

「うっす」

「どうも」

白谷さんは相変わらずの格好だ。
この間の豹柄ではないが、Tシャツとジーパン。スニーカー。
それにリュックを背負っている。

「はい、これ。この間は迷惑かけた」

迷惑だと思ってるなら、自重してくれないだろうか……。
もやもやしながらお土産を受け取ると
中には箱型の何かが入っていた。

「クッキーですか?」

「キミにぴったりだと思って……ミニ四駆」

出てきたミニ四駆を手にした俺は、
この人がどこに旅行したのかとか
なんで土産がミニ四駆なのかとか
問い詰めたい衝動にかられた。

「ちなみにそれ、ニトロ積めるから」

「は、はぁ……つーか、ニトロ積んで走行させたら、
普通に爆発するんじゃないですか?」

「……するけど、そういうオモチャじゃん」

この人のミニ四駆に対しての誤解を誰か
解いてやってくれ。
内心思いながら、俺は逃げようとした。

「と、ともかくありがとうございました。
どこに行ったのか知りませんけど」

「……ちょっと大阪の方に」

「大阪?」

「好きなバンドのライブで」

「……ああ、ペンダンツ、でしたっけ?」

「違う。リトルポリスマンってバンド。一週間前にCD
借りてハマって、昨日遠征してきた」

一週間前って……白谷さんってまさか、超ミーハーなのか?
でも、昨日はこの人、朝キャンパスにいたような……。
俺自身は見かけてないけど、智也が近くにいるから
気をつけろって言ってたよな。

「朝イチで講義受けて、昼から新幹線に乗って、そのままライブ。
夜行で今帰ってきたからさすがに疲れた」

たった一週間でファンになったバンドに、
ここまでする女って、初めて見た。

「あ、アクティブなんですね……」

「別に普通。じゃ、バイトあるんで」

彼女はそういうとさっさと退散していった。
……なんだったんだろう、一体。

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