文字数 994文字

――朝。
何かが焼けるにおいがする。

「うーん……」

「おい、起きろ。サキ。朝飯だぞ」

「……もうあと5分……」

「さっきもあと5分って言ってたな。起きないようなら……」

じゅうぅ……!!

「あ、熱っ!! い、痛いっ!!
な、何!!」

「……フライパンを当ててみた」

「普通にやけどするでしょっ!!
跡が残ったらどうするんですか!!
それに、なんでこの部屋に!?」

「だいぶ冷めたから平気だと思ったんだけど……。
この部屋にいるのは合鍵があるからに決まってるだろ。
うちん家だぞ」

朝っぱらからひどい目にあった。
結局昨日は広いマンションの一室で、
一人寂しく夜を過ごした。
そして朝を迎えたわけだが……。

「……ど、どうしたんですか? そのカッコ!!」

みゆきさんはいつもとまったく違い、
いかにもいいところのお嬢さんといった感じの
白いネグリジェを着ていた。

「あ、ありえない!! みゆきさんらしくないっ!!」

「落ち着け。これは私の趣味じゃない。
父の趣味だ」

「お、お父さん!?」

「昔から私に女の子らしいカッコをさせたがってな。
家ではこういった服装を強制されている。
今日は留守にしてはいるが」

「はぁ、そうなんですか……。
でも、よく見ると結構かわいいというか、
似合っているというか」

「そうか? これ、父のお古なんだが」

「お古!? お父さんが着てたんですか!?」

「ああ」

みゆきさんは顔色ひとつ変えず、
フライパンをシンクへ置くと
テーブルに皿を運んだ。

女装癖のある父親かぁ……。
色々考えてしまうなぁ。

「ま、朝飯ができたから、とりあえず食え」

朝ご飯……。
昨日は激マズなヨーグルトかけご飯を食わされた。
朝からゲテモノは、さすがに勘弁してもらいたい。

恐る恐るテーブルの上を見てみると……。

「え? 普通だ……っていうか、ちょっと豪華?」

オレンジジュースと牛乳、それにサラダが入ったボウル、
目玉焼きにウィンナー、トーストと、
ちょっと洒落たペンションが出すような食事が
並んでいる。

「これ、みゆきさんが?」

「ああ」

「料理、苦手なんじゃないですか?
昨日のお弁当は……その、ひどかったですし」

「そんなこと言ってないだろ? 下手なのは母だ。
私自身は苦手でも得意でもない。
そろそろ食べないと、朝練に遅れるんじゃないか?」

「そうだ! いただきます!!
……おいしいです!!」

「そうか」

みゆきさんはいつもと変わらない仏頂面だけど、
ほんの少しだけ、機嫌がよさそうに見えた。

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