われと和解せよ

文字数 904文字

 「ネコと和解せよ」というポスターだか看板だかが、ネット上で紹介されていた。かなり以前のことだが、あの発想に笑いが止まらなくなると同時に羨ましくなったものだ。該当の文言は最初からそんな内容だったわけではなく、風雨に曝されたがための自然脱落だったか誰かのイタズラだったか、撮影者の画像処理だったかによって後から作られたものである。「ネコ」というのは本来「神」の字だったのである。
 ネコは一回に数分間しっかり構ってやれば満足するのだから、できれば相手をしてやれ、という飼育指南書を読んだのだが、本日のファーストコンタクトから約一時間、我が家のネコ様はいっこうに飽きる気配がない。性格にしても、気まぐれでもツンデレでもない、どこまでもベタベタでなおかつ聞き分けも基本的にはよいし、どうやら見た目はネコ、中身はイヌな不思議クリチャーを飼ってしまったようだ。
 と、そんなノロケは今はどうでもいい。んー、かわいいかわいい。よーしゃよしゃよしゃ。
 ──気を取り直して。自分の弱点の一つは、枠からはみ出しきれず、発想が小さくまとまりがちなことだと思っている。だから、漢字の一部を消して意味を変えてしまおう、なんて、クイズの設問でもない限りまず思いつけないのだ。クリエイター要素も求められる案件において、これは少なからず不利になる。何とかしたいのだが、何とかする方法が思いつけぬ。
 そんな話を職場の仲間にしたところ、彼は通話画面の向こうでしばらく言いにくそうにした後、のたもうた。「あの……たぬ丸さんって、そもそもの枠がずれて歪んでるんで。安心していいと思いますよ?」。そーかそーか、何を安心しろっつーんだ。別の心配が増えたじゃないかい。
 結局、様々な悩みにおいて和解すべきは他ならぬ自分自身なのだろうし、冷静に物事を捉えるためには自らの心と体をメンテナンスせねばならぬ。だから何はともあれ、飯を食って、ちゃんと寝て、炎天下には出ず、疲れたり体調が悪かったりしたら早めに休み、好きなものを愛で、昼寝をし、夜は墓場で運動会をし、風が吹いたら遅刻して、雨が降ったらお休みで……あれ? ええと、どっから間違っちゃったんだろうか……。
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