踊り場で躍り狂ってノビる

文字数 1,036文字

 熱中症になってしまった。お前はやりたいことに年がら年中熱中している「熱中」症だとか、ハムスターが大好きな熱チュー症だとか、そんなのは以前から言われてきたのだが、正真正銘本家本元の熱中症になったのは生まれて初めてのことだ。別に何をしていたわけでもなく、多少涼しい午前のうちに図書館へ行ってしまおうと出掛けただけなのだが、たかだか二十分ほど自転車で移動した程度で完全にやられた。たしかにアップダウンのきつい場所が二カ所ほどあって、後輪の空気もかなり抜けてしまっていたのはあるにしても、くらくらして手足に力が入らなくなり、まともな判断力がなくなってしまうなんてのは、衰えを自覚しろ、とお天道さんにぶん殴られたみたいな気分になって落ち込む。てやんでい、こちとら花の四十代でい。
 四十五十は洟垂れ小僧、とは渋沢栄一の言葉だそうだが、なるほどこの年代でステージが変わるような気はする。なんとなく人生が分かったような気になっていたのが、まるで分かっとらんということに気付く。できた気になっていたのが、まったく詰めが甘いことを痛感させられる。学習心理学(だったかな?)の考え方では、成長過程で必ずプラトー期と呼ばれる停滞期が訪れるのだという。平たく言えばダイエットと同じ現象が起きるってことだが、四十代というのはこの「踊り場」をひしひしと感じさせられる年代なのかもしれない。
 体力面で言えば明らかな衰えを感じ、できない・分からない自分を容赦なく突きつけられてメンタルを削られ、さりとてそこそこ責任ある立場にいて、ろくに弱音も吐けず。……なあ、世の若人たちよ、オッサンやオバチャンをもっと労ってやってほしい。ネットやテレビで見るようなピッチピチキラッキラな一部の四十代五十代は例外なのだ。オッサンは気兼ねなしにディスれる生き物、じゃないのだよ。君たちのような体力も希望も未来もなくなって……って、こういうことを言うから嫌がられるんだろうかなあ。
 しかし覚えておくとよかろう。あれだけ嫌だった「俺が若い頃には~」というアレの気持ちが理解できてしまう日が、きっと来る。ぶっちゃけ、今が満たされて順調に進んでいる人間はあんなことは口にしない。過去は今の誰かを貶すためのものではなく、より良い未来のために役立てるものなのだが、それを忘れてしまうほどに追い詰められているのだ。だからあれは、表向きは順風満帆そうに見えても満たされていない、哀しき怪物の咆哮なのである。
 ああ、今日も空が青いなあ……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み