その大いなる力の使いどころ

文字数 1,150文字

 言うまでもなく、権力や地位というのはそれを持つ者が自らの横暴の免罪符として振りかざすためのものではない。持たざる者を保護し、守るべき義務を負った対象をより良い方向へ導くためのものである。
 そう、決して、力で押さえつけてその毛皮を堪能するためのものではないのだ。……ん? 何だい? そんなおかしな顔をして。
 ハムスターの別名は、キヌゲネズミという。絹の毛を持つネズミだ。ジャンガリアンとゴールデンは厳密に言うと別種なのだそうだが、まあそれはいったん放っておくとして。そう、ヤツラの毛皮は極上なのである。おネコのモフモフよりなお柔らかい。延々と日がな触っていてもたぶん飽きない。
 が。そこで先ほどの話である。ハムスターはネズミである。被捕食者の代表格である。いくら生存本能をごっそり落っことしてきたように見えるとはいえ、自分より大きな生き物への根本的な恐怖というのは決してなくならない。かわいいから捕まえて撫でようとしたんだ、と言ったところで通じるわけもない。強引なことをしたが最後、それまで積み重ねてきた信頼は一瞬にして崩壊する。
 要は、強引だと思わせなければいいのである。自分の意思でモフモフがやってくるように仕向ければいい。手のひらの、モフモフが全身乗っからなければ取れない位置にスペシャルおやつを置き、そこに来ればいいことがあると覚えさせる。ペーストタイプのものを指につけておけば、ちっちゃなお手手でがっちりホールドしてペロペロされるサービスも受けられる(プチサイズボディーだが、わりと力が強いぞ)。ジャンガリアンハムスターの足裏には毛が生えているので、これまたたまらん感触が味わえる。おやつにテンション上がりすぎたモフに噛まれることもあるので、注意が必要だが。細かな食べかすが出るものもおすすめだ。本体を食べ終わった後、ひとかけらも残すまいと手のひらのシワに鼻先を突っ込んでくるから、鼻先特有の短いモフモフ毛を楽しむことができる。
 ──腹黒い。分かっている、大変腹黒い。が、これこそが人間の頭脳の使い道である。Win-Winに持ち込んだように見せかけて、その実、一方的に最高のモフとかわいい姿を楽しむ。幸せそうな顔まで搾取して、それをエネルギーにして仕事に向かう。救いようのない悪どさ。だが、真の悪とは、ターゲットを幸せな気分にさせて気付かぬうちに遂行されるものなのである。む? 最初と言っていることが違うだと? 知らぬな、ふはははは。
 ところで、人間よりだいぶん小サイズにも関わらず、人間に対して圧倒的権力を持つクリチャーがいる。そいつの名を、ネコという。ほら、今日もまた撫でさせてやるから存分に愛でよ、とロックオンしてきた……。うう、お前だけでも逃げろ、ヤツに捕まったら人生おしまいだぞ!
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