幽霊に選ばれないほうの人間

文字数 1,135文字

 春は出会いと別れの季節であり、花と嵐の季節であり、ヘンなものがふらつく季節でもある。ずっと寒くて縮こまっていたのから解放されて、引きこもりの私が積極的に外をふらつく季節だ。
 さて、ヘンなものの話が出たところで。霊的な体験をしたことはあるだろうか。私は、ない。もう、きれいに、全く。幽霊や物の怪と言われるものが何を思って人間に接触してくるのかは分からないが、あー、あんなニブくて面白味もない人間、存在を知らせてやる価値なんてないから、という回覧板が彼らの間で回っているんだろうと思う。世の中こんなに怪談だらけなんだし、きっと今までアプローチしてきてくれた霊もいたんだろう。ただ、どれだけべったり張り付こうが至近距離で目の前にぶら下がろうが、一向に気付く気配すらなかったから、諦めてしまったに違いない。諦めんなよ! もう一度頑張ろうよ! 諦めたらそこで試合終了ですよ!
 しかし今さらながら、幽霊って何じゃらほい? 物の怪ってどんなもの? まあ詳細については事典や水木しげる御大に任せておけばいいと思うが、私が実は妖怪だ、という可能性はゼロではない。私は人間である、と信じ込んでいるだけで、他から見たらちっとも人間じゃない、なんてこともあり得る。死んだのに気付かなくて、人間として振る舞っている幽霊の話なんてのもたまに見かける。あ、でもそうすると物の怪仲間から完全にハブられてる、ってことだから、それは大変悲しい。とりあえず人間(仮)ってことでよろしく。
 自他共に認めるイノシシである。人間(仮)と名乗ってから極薄タンにすら火の入らぬ間に、あれだが。比較的自制が効いているつもりだが、それもイノシシの中で、という前提あってのこと。だから、私の軸が人間であるという保証なんてどこにもないのだ。本当は私はイノシシで、何となく人間っぽい成りをして人間の言葉を話して、人間のような生活をしているだけなのかもしれない。
 歴史を見渡すと、どうやら同じことを考えて不安になっちゃった人間はけっこういたらしい。我思う故に我あり、とか、人間は考える葦である、とかもう、俺は俺という人間なんだ、と確固たる自信があって揺るぎない人の発言では到底ない。でも、わりとそういう不安というか疑問があるからこそ、それを補完すべくわちゃわちゃやって、歴史に名を残せたのかもしれない。人は正体の分からないものを本能的に恐れる、というが、もしかしたらこうした恐怖こそがこんにちの文明に繋がっているのかもしらん。知らんけど。
 私の正体が何なのかは結局よく分からない。けれども、考えたところで何も分かりゃしないことだけは分かっている。自分が何者なのかなんてのを知っているのは、きっと神様や仏様だけなんだろうね。
 
 
 
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