夜の底を這いずり回る

文字数 1,311文字

 夜更けに突然脈絡もなく何かを始めたくなることはないだろうか。いや、共感を求めているわけではないから、頷かなくてもいい。自分がそうだというだけの話である。冷静に客観視するなら、22時にいきなり家じゅうの拭き掃除を始めたり、水回り丸ごとぴかぴかに磨き上げたり、仕上げに翌日の晩飯を作り始めたり、などというのは異常と言うべきなのだろうとは思う。が、そもそも自分を冷静に客観視など、そんな無謀な真似を試みたが最後、存在丸ごと消したくなること請け合いなのだから、あえて目を逸らし続けているところである。人間、バカマジメに直視しないほうがよいものなどごまんとあるのだ。
 それはともかくとして、夜更けの奇行である。夜更けというのは、夜遅い時間帯、深夜という意味らしいが、まあそれはいったんどうでもよいとして、なぜ昼行性のはずの人間が夜に元気になるのか。ふくろうのように闇を見通すマジカルアイがあるわけでなし、どころか、明かりがなければ勝手知ったる我が家ですら躓いて頭をぶつけてドロボーよろしく手探り足探り抜き足差し足という始末だ。電気という文明の利器あってこその不自然な夜行性のはずなのだが、いったいこれはどうしたことか。
 現在の浮世稼業はいずれも完全引きこもり型で(外でやったっていいものもあるのだが、家で完結できるんだから出かける準備が面倒)、もともと午後から日付の変わる頃くらいまでがコアタイムである。外からの光に影響を受けない夜間のほうが作業がやりやすいという側面もあることはあるのだが、それより何より体が楽だし圧倒的に効率もよい。ので、品質も上がる。ひと昔前ならこんな生活は「恥の多い生涯を送って来ました」とでも言わねばならなかったのかもしれないが、というより、ほんの数年前まで、早寝早起きのできない奴は堕落している、と散々言われまくって遂には謂れのない人格否定までされて余計に体調を崩したのであったが、たまさか遺伝子検査なるものを興味本位に受けてみたところ、「なぁーに言ってんのよ、アンタに早寝早起きなんてできるわけないでしょうが」という結果が送られてきた。うん? これは「人外」認定されたということか?
 それはわりと、当たらずとも遠からず、だったらしい。つまり、人間的マジョリティの対極にあるこの生活リズム、別の情報源によると「人間のご先祖様ってキミみたいな感じだったみたいだよ☆」なのだそうだ。なるほど先祖返り、か。悪くないな(デジタルデータ以外なら)。
 つまりはこうだ。本来、種としては昼間に活動するものなのだが、一部に祖先種的な本能を強く持つ者がおり、その場合、肉体的適性がないままに夜間を活動時間帯とするケースがまま見られる、と。──ま、これの真偽については専門家じゃないのでよう分かりませんが、少なくとも遺伝子型に関しては、いわゆる世間一般に合わせようとするなど自滅行為であるぞ、と明言される形となった。嗚呼、また「普通」が遠のいていく……。
 ちなみに、冒頭のような奇行が観察されるのは休日(と自分が勝手に決めた日)のみだから、これの最も効果的な抑止力は「休みなく働くこと」である。って、解決になるかーい!!!
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