理想はきっと理想のままで

文字数 1,004文字

 美しいものを見て、ただ無邪気に美しい、と呟くような、世の中や他人へ欠片も悪意など抱かぬような、そんな暮らしをしてみたいのである。心動かされるのは移り行く季節にのみ、覚えるのは喜と楽のみ。そうなったなら、どれほどこの世は輝きはじめるだろうか。
 ──と、ずいぶんにお耽美に冒頭やらかしたのだが、この世の中にいる限り、そんなのは露と落ち露と消えにし夢のまた夢なのである。身も蓋もなくて申し訳ないが。
 有難いことに、周囲の人たちがみな穏やかなお陰で(仕事が完全引きこもり型なのも幸いして)、日常のほとんどを悪意と無縁な環境で過ごせている。あ、おネコに早う飯よこせと怒られたり、なぜ私だけを構わぬのだ、とむくれられたりするのはしょっちゅうだが。もちろん、主張と主張がぶつかることはあるが、そこに負の感情を乗せないで筋の通った話し合いのできる相手ばかりなので本当に助かっている。
 ただ、当然ながら世の中そんな人たちだけで構成されている訳ではない。良くも悪くも人間は多様性の生き物であり、こちらが撥ね付けなければ調子に乗ってどんどん理不尽をエスカレートさせる手合いも少なくない。というか、子どもの頃からごく最近まで、親族やら同僚やらそうした人々に悩まされ続けて、ようやく今、この安寧を手に入れたところだ。
 ほんの一時期、馬の牧場で働いていたことがあるのだが、その時に言われた「馬がじりじりと体重をかけて押してきたら絶対にスペースを譲るな、譲れば格下と見なされて言うことを聞かなくなり大事故に繋がる」というのがそのまま人間関係のスタンスにも適用できる気がしている。こちらから積極的に攻撃する必要はないが、許容ラインを越えようとする相手には決して甘い顔をしない。離れた場所で騒いでいるのは相手にしない。常に笑顔で誠実であれ、というのは相手がそうだからこそであり、不誠実な相手に誠実を返す必要は毛頭ない。
 ──うん? なんかずいぶんマジメモードになってしまったな。フマジメ万歳な我には息苦しいぞい。こりゃあエネルギー切れだな、なんか食べてくるか。あと、ちょっと寝てくる。
 さて、食べて寝て起きたので、続きを書こう。何の話をしていたっけ。あー、そうかそうか、でも、なんかもういいや。マイナスの感情というのは、ちゃんと食べてちゃんと休むだけでだいぶ軽減されるのだという。というわけで、もう少し欲を満たしてくることにする。ぐう……。
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