悪霊祓い

文字数 1,155文字

 その日、お佐和はこの家の不吉な元を探る為に、佳代の家を出て調べてみることにした。
 その原因を探るのにはなかなか苦労したが、元あの屋敷で働いていたと言う女を見つけてきたのだ。その女の話すところによれば、どうやらその原因はやはりあの庭にあると言うことだった。

 しかしその女から聞いた話はそれまでで、それ以上のことはわからなかった。その話の真意を確かめるために、その町に古くから住んでいると言う長老を探りあてることができた。
 それは、お佐和の執念と言えるのかもしれない。お佐和は、その長老の家で話を聞き出していた。

「私は、獄門町にあります山崎という家の使いのものでございます。実は、あの家のお庭に何か不吉なものがあって、禍いを引き起こしているようなのです。
 それを、昔あの家で働いていたと言う人から聞いてまいりましたが、原因まではわかりません。そのために、あの家の娘さんが体調を壊して、今にも死にそうなのでございます。
 それを直すのには禍いの元を取り除く必要があるのです。どうしてもその因果関係を知りたいのでございます。どうかどうか、ご長老……お願いでございます。そのお話を是非にわたくしめに、聞かせて頂けないでしょうか?」

 老人の家で、お佐和は額を畳の上に擦り付けるようにして哀願していた。
「ううむ、左様か……」

 しばらく長老はじっとお佐和の顔を見ていたが、やっと重い口を開いた。
「それほどに言うのなら、いたしかたない、しかしこの話は他言せぬように、良いかな?」
「はい! それはもう」

 老人は、この町に昔から言い伝えられている獄門の話や、(ほこら)の言い伝えをとつとつと話した。それから、悪霊をいさめるための数々の教えをお佐和に説いたのである。悪霊祓いとは執着との戦いでもある。

 執着するものがあればあるほど、それが禍いの元にもなりうるのだ。その多くを捨てて、自我に目覚めなければならない。
 悪霊に打ち勝つには「無我の境地になる」ことが大切だと言うのだ。そして心を無にしても、それが報われない場合は、大抵はそのやり方に問題があると言う。
 
 この世で生きとし生ける者は完全に欲から縁を切ることは難しい。どこかにその迷いが出て、その迷いに悪霊が入りこんでくるのだ。故に悪霊と対峙するには理性の力、さらには深い洞察力と知恵が必要になってくる。

 お佐和は長老から聞いてきたそんな悪霊の話や、それから身を守る話を聞いてきた。それを聞いたとしても、すぐにそれを実行できることなどできはしない。果たしてその心を佳代が持ってくれるだろうか?

 しかし、今はそんな悠長な事は言っていられない。まずは当面の禍いから身を守る術をしなければならないのだ。そのために、お佐和はとりあえず、霊験あらたかなお呪いや、いくつかのお札や清い塩等を用意した。




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