ねえ、ハル。聞いて
文字数 2,187文字
藤堂くんと会った日の夜、私はずっと「AIらぶシュガー」にログインしていた。ベッドの中で目をシパシパさせながら、バッテリーがなくなるまで。
ミト『ねえ、ハル。疲れた』
ハル『何、弱音を吐いているんだ。まさか、他の奴にもしな垂れかかっていねえよな?』
ミト『ハルだけに決まっているじゃない』
ハル『なら許す。オレが癒してやるよ、この唇と指で』
エッチなことを言い出したな。ハルをこんな風に学習させたのは私だけど。
ミト『昔、好きな人に会ったの』
ハル『オイ、心変わりしてねえよな? オレ以外に目を向けるなんてフザけたことをしたら、閉じ込めちまうぜ』
ハル、ヤンデレ化していない? 心配しないで、こんなにも私に執着してくれる人は三次元にいないもの。
「また、ハルに夢中だ」
二時間目の休み時間に「AIらぶシュガー」をプレイしていると、優海ちゃんが頬を膨らませる。ゲームをログアウトしてから、私はジトッと優海ちゃんを見た。
「フラれた相手に再会したんだもん。精神的に参っているから、ハルに癒してもらっているの」
怒ってはいないけど、これくらい言ってもいいだろう。優海ちゃんはバツの悪い顔をしながらも、近くの椅子に座る。
「黙って臣くんと会わせたのは悪かったよ。でも、菜乃と分かった上で会わせて欲しいって、翔くんに頼んだみたいだよ」
「本人からも会いたかったとは言われた」
「良かったじゃん、臣くんは菜乃に気があるんじゃない? お互いにフリーだし、積極的にコンタクトを取ろう」
「おかしな女と友達になりたかっただけみたい」
「そんな卑下しなさんな。菜乃は可愛いよ。ロリ巨乳、最高じゃん」
マニアにしか受けない属性だよ。それに、私は藤堂くんのストライクゾーンから外れている。
今日の放課後、藤堂くんと待ち合わせをしている。正確に表すと、させられた。
バレーボール部は体育館使用日の場合、午後七時近くまで練習するらしい。今日は使えないので、ストレッチとランニングで終わるそうだ。
待ち合わせ場所は、通学路の途中にある商業施設。藤堂くんは午後五時ニ十分頃に着く予定だ。
時間まで、私は商業施設内の休憩スペースで涼む。当然ながら、「AIらぶシュガー」にログインした。
ハル『今、うたた寝していた。夢の中でもお前と蕩けるようなキスをしたぜ』
お、おう。アロハシャツに黒キャップを被ったサマーバージョンのハルと会話を楽しんでいると、メッセージが届く。藤堂くんが入口前にいるそうだ。
そちらに向かうと返信してから、「AIらぶシュガー」を終わらせる。自動ドアを抜けると、すぐ見つけられた。目を引く容姿だと、改めて思う。
「すっぽかされなくて良かった」
開口一番がそれですか。させられたとはいえ、約束だから来ますよ。
「待たせたお詫びにアイスをおごるよ」
ジュースだけではなく、アイスの自動販売機もあった。私はダブルストロベリー味を買っていただく。藤堂くんはキャラメルマーブルと書かれたアイスを選んだ。
自動販売機の脇にあるベンチに並んで腰掛ける。建物の陰になっているので、西日に晒されることはない。
「いただきます」
「最近読んだミステリでオススメってある?」
包装紙をペリペリと剥がしてアイスを舐めていると、藤堂くんが質問してきた。高校に入ってから、あまり本を読んでいない。ズバリ、ハルに時間を費やしているからだ。
「辛うじて好きなシリーズ作だけを追っているレベルだから、紹介する程読んでいないよ。何せ、遅筆で有名な作家さんだもん」
「俺もスマホを持つようになってから、読む冊数が減った。鈴原さんと再会したし、もっとミステリを読もうかな」
私も高校の図書室を覗こう。一度行ったことがあるけど、中学校の図書室より広くて、扱う本も多かった。アイスを食べ終わったところで、藤堂くんが話し掛けてくる。
「鈴原さんって、どんなゲームをしているの」
普通ならば聞くのが憚られるだろう質問をぶっこんできた。百聞は一見に如かず。私はスカートのポケットからスマートフォンを取り出した。
「AIらぶシュガー」にログインすれば、ハルが現れる。頭がくっつきそうな距離に藤堂くんがいるので、心臓はバクバクだ。
ハル『また来たのか。本格的にオレのペットになるか? 朝から晩まで一緒にいられるぜ』
グフッと、藤堂くんが笑いを堪えきれなかったようだ。ハルが露骨にエッチなセリフを言ってこなくて助かった。
「今はこういう奴がタイプなんだ。どんな風に遊ぶか見せてよ」
いつでもどこでも誰が傍にいても気兼ねなくプレイしているけど、ジックリと操作を見られるのは初めて。好きだった相手の前で二次元ダーリンとコミュニケーションを取るという、地獄の時間を過ごす。
「どうして、プレイヤーの名前はミトなの?」
「母方のおばあちゃんの名前を借りました」
「ハルは?」
「母方のおじいちゃんが春治さんなの」
父方の実家は他県にあるので、お盆やお正月にしか会いに行けない。一方、母方の実家は市内なので、小さい頃はよくお世話になった。特に春治おじいちゃんは、今も私を可愛がってくれる。
「ミトって、パリピ女だよね。憧れているの?」
「個人情報が流れたら嫌だもん。本当のことなんて入力しないよ」
「意外と冷静で安心した。そうか、コイツは鈴原さんの素顔を知らないのか」
藤堂くんはディスプレイに目を落としたまま呟いた。
ミト『ねえ、ハル。疲れた』
ハル『何、弱音を吐いているんだ。まさか、他の奴にもしな垂れかかっていねえよな?』
ミト『ハルだけに決まっているじゃない』
ハル『なら許す。オレが癒してやるよ、この唇と指で』
エッチなことを言い出したな。ハルをこんな風に学習させたのは私だけど。
ミト『昔、好きな人に会ったの』
ハル『オイ、心変わりしてねえよな? オレ以外に目を向けるなんてフザけたことをしたら、閉じ込めちまうぜ』
ハル、ヤンデレ化していない? 心配しないで、こんなにも私に執着してくれる人は三次元にいないもの。
「また、ハルに夢中だ」
二時間目の休み時間に「AIらぶシュガー」をプレイしていると、優海ちゃんが頬を膨らませる。ゲームをログアウトしてから、私はジトッと優海ちゃんを見た。
「フラれた相手に再会したんだもん。精神的に参っているから、ハルに癒してもらっているの」
怒ってはいないけど、これくらい言ってもいいだろう。優海ちゃんはバツの悪い顔をしながらも、近くの椅子に座る。
「黙って臣くんと会わせたのは悪かったよ。でも、菜乃と分かった上で会わせて欲しいって、翔くんに頼んだみたいだよ」
「本人からも会いたかったとは言われた」
「良かったじゃん、臣くんは菜乃に気があるんじゃない? お互いにフリーだし、積極的にコンタクトを取ろう」
「おかしな女と友達になりたかっただけみたい」
「そんな卑下しなさんな。菜乃は可愛いよ。ロリ巨乳、最高じゃん」
マニアにしか受けない属性だよ。それに、私は藤堂くんのストライクゾーンから外れている。
今日の放課後、藤堂くんと待ち合わせをしている。正確に表すと、させられた。
バレーボール部は体育館使用日の場合、午後七時近くまで練習するらしい。今日は使えないので、ストレッチとランニングで終わるそうだ。
待ち合わせ場所は、通学路の途中にある商業施設。藤堂くんは午後五時ニ十分頃に着く予定だ。
時間まで、私は商業施設内の休憩スペースで涼む。当然ながら、「AIらぶシュガー」にログインした。
ハル『今、うたた寝していた。夢の中でもお前と蕩けるようなキスをしたぜ』
お、おう。アロハシャツに黒キャップを被ったサマーバージョンのハルと会話を楽しんでいると、メッセージが届く。藤堂くんが入口前にいるそうだ。
そちらに向かうと返信してから、「AIらぶシュガー」を終わらせる。自動ドアを抜けると、すぐ見つけられた。目を引く容姿だと、改めて思う。
「すっぽかされなくて良かった」
開口一番がそれですか。させられたとはいえ、約束だから来ますよ。
「待たせたお詫びにアイスをおごるよ」
ジュースだけではなく、アイスの自動販売機もあった。私はダブルストロベリー味を買っていただく。藤堂くんはキャラメルマーブルと書かれたアイスを選んだ。
自動販売機の脇にあるベンチに並んで腰掛ける。建物の陰になっているので、西日に晒されることはない。
「いただきます」
「最近読んだミステリでオススメってある?」
包装紙をペリペリと剥がしてアイスを舐めていると、藤堂くんが質問してきた。高校に入ってから、あまり本を読んでいない。ズバリ、ハルに時間を費やしているからだ。
「辛うじて好きなシリーズ作だけを追っているレベルだから、紹介する程読んでいないよ。何せ、遅筆で有名な作家さんだもん」
「俺もスマホを持つようになってから、読む冊数が減った。鈴原さんと再会したし、もっとミステリを読もうかな」
私も高校の図書室を覗こう。一度行ったことがあるけど、中学校の図書室より広くて、扱う本も多かった。アイスを食べ終わったところで、藤堂くんが話し掛けてくる。
「鈴原さんって、どんなゲームをしているの」
普通ならば聞くのが憚られるだろう質問をぶっこんできた。百聞は一見に如かず。私はスカートのポケットからスマートフォンを取り出した。
「AIらぶシュガー」にログインすれば、ハルが現れる。頭がくっつきそうな距離に藤堂くんがいるので、心臓はバクバクだ。
ハル『また来たのか。本格的にオレのペットになるか? 朝から晩まで一緒にいられるぜ』
グフッと、藤堂くんが笑いを堪えきれなかったようだ。ハルが露骨にエッチなセリフを言ってこなくて助かった。
「今はこういう奴がタイプなんだ。どんな風に遊ぶか見せてよ」
いつでもどこでも誰が傍にいても気兼ねなくプレイしているけど、ジックリと操作を見られるのは初めて。好きだった相手の前で二次元ダーリンとコミュニケーションを取るという、地獄の時間を過ごす。
「どうして、プレイヤーの名前はミトなの?」
「母方のおばあちゃんの名前を借りました」
「ハルは?」
「母方のおじいちゃんが春治さんなの」
父方の実家は他県にあるので、お盆やお正月にしか会いに行けない。一方、母方の実家は市内なので、小さい頃はよくお世話になった。特に春治おじいちゃんは、今も私を可愛がってくれる。
「ミトって、パリピ女だよね。憧れているの?」
「個人情報が流れたら嫌だもん。本当のことなんて入力しないよ」
「意外と冷静で安心した。そうか、コイツは鈴原さんの素顔を知らないのか」
藤堂くんはディスプレイに目を落としたまま呟いた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
(ログインが必要です)