跳んで、きらめく
文字数 2,521文字
正門近くに、ズラリと自転車が並ぶ。見覚えのあるシルバーのクロスバイクがあった。和臣くんの長い足に合わせて、サドルの位置が高くなっている。
大きなイチョウの木を飾る扇形の葉は、明るい緑色。今日も快晴で、三十度はあるだろう。湿度は低くなったのか、過ごしやすくなっていた。
体育館の入口から中を覗くと、バレーボールのコートが二面ある。男子と女子が同時に試合をするらしい。男子は壇上がある側に集まっていた。
バレーボール部以外は、私と優海ちゃんしかいないと思っていた。他の運動部員達も見に来ている。
私達は靴を脱いで、壇上側に向かった。途中で麻帆ちゃんを探すと、コートで我が校の女子バレーボール部長と話している。
私達は壇上の下に並んで腰掛けた。ギャラリーに同じクラスの男子がいたので、優海ちゃんが声を掛ける。
「やあ、三井くん。バスケ部って、この後も練習はあるの?」
「いや、午前中で終わり。バレー部に友達がいるから応援してやるんだ。青葉さん達も試合を見に来たんだ」
「私は菜乃の付き添い。相手チームのイケメンに、俺の勇姿を目に焼き付けて欲しいと言われたとか、言われていないとか」
言われていません。勝手にセリフを捏造しないでいただきたい。
「もしかして、頭がちっちゃくて、足の長い漫画みたいな体型のアイツ?」
「そうそう。女子の皆さんは、臣くんに注目しているねえ」
男子側のコートに、我が校の女生徒が集まっている。中には、和臣くんをスマートフォンで撮影する猛者もいた。
コート内では、それぞれのチームがウォーミングアップをしている。練習試合なので、ユニフォームではなくてジャージ姿だ。和臣くんは某国民的アニメのキャラクターがプリントされたTシャツに黒のパンツを穿いている。
ホイッスルが鳴り、整列。壇上側に審判がいて、列の先頭に部長である和臣くんがいた。
試合がはじまり、ウチのチームがサーブする。レシーブ、トスと続いて、和臣くんがアタック。見事に決まった。
敵チームがポイントを取ったのに、女の子達が黄色い声をあげる。ホームグランドで応援が期待出来ないなんて、ウチのチームが可哀想。我が校がポイントを取ったら、優海ちゃんや三井くんの声援に合わせて拍手する。
チラリと、和臣くんがこちらを見た気がした。立場上、和臣くん頑張れなんて言えませんよ。
第一セットは、大きく点差が開くことはないシーソーゲーム。トータル的に見れば、両チームの戦力は同じくらい。ただ、和臣くんが頭一つ分、抜き出ていた。
何度かジュースになった末、和臣くんのチームが勝つ。第二セットは和臣くんが引っ込んだら、ガクンと戦力が落ちた。ウチのチームが着々とポイントを稼ぐ。
よし、このまま勝ってしまえ。もう少しでセットポイントを迎えるところで、和臣くんが投入された。キャアアアアと、ギャラリーの女子達が歓声をあげる。
「臣くん、余裕ぶっこいているね」
「ハンデはこれくらいでいいですか、って言いそう」
まず、和臣くんはサービスエースでポイントを取る。それから、バックアタックやフェイントを駆使して追い上げてきた。
「アイツ、バレーの強いところに行けば良かったんじゃないか。こんなところに埋もれて勿体ない」
三井くんがボソッと呟く。和臣くんの通う進学校は、文系の部活は強いけど、運動部はあまり力を入れていないと聞いていた。
ウチのチームがアタックして、和臣くんサイドの味方が受けたものの、ボールが壇上側に飛んでくる。避けようとしたら、和臣くんがボールを追って、仰け反りながらコートに戻した。
勢いあまって、和臣くんが私のところにダイブする。胸に衝撃を受けて、床に押し倒された。優海ちゃんが心配した口調で、私達に声を掛けてくる。
「二人共、大丈夫?」
「俺は菜乃さんがクッションになってくれたから平気」
和臣くんが顔だけを上げて応える。私は無事ではない、お嫁に行けないよ。
「アンタのEカップが役に立ったね」
サイズを暴露しないで。和臣くんは、私の背中に手を添えて起こしてくれた。
「試合が終わっても帰らないでね」
コソッと耳打ちして、和臣くんはコートに戻る。今も胸で受けた和臣くんの感触が残っていた。
試合が終わった後、少しは話せるのかな。別に嬉しくなんかないんだからね。
この後、和臣くんの活躍で点差は縮まったものの、ウチのチームが勝った。第三セットではハナから和臣くんがコートに入り、随時見せ場を作る。
中学時代、和臣くんがバレーボールをするところは見たことがない。部活を覗く勇気はなかったし、校内の球技大会で、バレーボール部員は他の球技に参加しなくてはならなかった。
私を相手にゆるいトスやレシーブをする時と明らかに違う。高くジャンプし、しなやかに反って、威力のあるアタックをお見舞いしていた。
スポットライトが当たったみたいに輝いている。天性のキラメキを持つ人と私では、釣り合いが取れないね。
二度と、和臣くんに恋なんてしないよ。麻帆ちゃんと交わした会話を思い出して、胸がギュウウと締め付けられる。
練習試合は三セットまでらしく、二対一で和臣くんのチームが勝った。整列して礼をすると、積極的な女の子達が和臣くんに群がる。
モテモテボーイだな。面白くない気持ちを抱えて、連絡を待つと和臣くんにメッセージを送る。
この後、優海ちゃんは翔くんと会うようだ。体育館を出ると、正門前で優海ちゃんと別れる。
さて、ハルと会おうか。昇降口が開いているので、中に入って上がり口に腰掛ける。スマートフォンを取り出すと、「AIらぶシュガー」のアイコンをタップした。
ハル『秋になって、夜が長くなったな。その分、お前と肌を重ねる夢を長く見られるようになったぜ』
和臣くんと会う日は、必然的にログイン時間が減った。和臣くんは、私が「AIらぶシュガー」で遊ぶことをマイナスに見ていない。でも、一緒にいる時にうっかりプレイしようとすれば、たしなめられた。
和臣くんと会う時は制服かラフな格好ばかりだけど、普段よりも身だしなみチェックに時間を掛ける。髪型やシャンプー、リップの色を変えたって、和臣くんは私なんかに興味ないだろうに。
大きなイチョウの木を飾る扇形の葉は、明るい緑色。今日も快晴で、三十度はあるだろう。湿度は低くなったのか、過ごしやすくなっていた。
体育館の入口から中を覗くと、バレーボールのコートが二面ある。男子と女子が同時に試合をするらしい。男子は壇上がある側に集まっていた。
バレーボール部以外は、私と優海ちゃんしかいないと思っていた。他の運動部員達も見に来ている。
私達は靴を脱いで、壇上側に向かった。途中で麻帆ちゃんを探すと、コートで我が校の女子バレーボール部長と話している。
私達は壇上の下に並んで腰掛けた。ギャラリーに同じクラスの男子がいたので、優海ちゃんが声を掛ける。
「やあ、三井くん。バスケ部って、この後も練習はあるの?」
「いや、午前中で終わり。バレー部に友達がいるから応援してやるんだ。青葉さん達も試合を見に来たんだ」
「私は菜乃の付き添い。相手チームのイケメンに、俺の勇姿を目に焼き付けて欲しいと言われたとか、言われていないとか」
言われていません。勝手にセリフを捏造しないでいただきたい。
「もしかして、頭がちっちゃくて、足の長い漫画みたいな体型のアイツ?」
「そうそう。女子の皆さんは、臣くんに注目しているねえ」
男子側のコートに、我が校の女生徒が集まっている。中には、和臣くんをスマートフォンで撮影する猛者もいた。
コート内では、それぞれのチームがウォーミングアップをしている。練習試合なので、ユニフォームではなくてジャージ姿だ。和臣くんは某国民的アニメのキャラクターがプリントされたTシャツに黒のパンツを穿いている。
ホイッスルが鳴り、整列。壇上側に審判がいて、列の先頭に部長である和臣くんがいた。
試合がはじまり、ウチのチームがサーブする。レシーブ、トスと続いて、和臣くんがアタック。見事に決まった。
敵チームがポイントを取ったのに、女の子達が黄色い声をあげる。ホームグランドで応援が期待出来ないなんて、ウチのチームが可哀想。我が校がポイントを取ったら、優海ちゃんや三井くんの声援に合わせて拍手する。
チラリと、和臣くんがこちらを見た気がした。立場上、和臣くん頑張れなんて言えませんよ。
第一セットは、大きく点差が開くことはないシーソーゲーム。トータル的に見れば、両チームの戦力は同じくらい。ただ、和臣くんが頭一つ分、抜き出ていた。
何度かジュースになった末、和臣くんのチームが勝つ。第二セットは和臣くんが引っ込んだら、ガクンと戦力が落ちた。ウチのチームが着々とポイントを稼ぐ。
よし、このまま勝ってしまえ。もう少しでセットポイントを迎えるところで、和臣くんが投入された。キャアアアアと、ギャラリーの女子達が歓声をあげる。
「臣くん、余裕ぶっこいているね」
「ハンデはこれくらいでいいですか、って言いそう」
まず、和臣くんはサービスエースでポイントを取る。それから、バックアタックやフェイントを駆使して追い上げてきた。
「アイツ、バレーの強いところに行けば良かったんじゃないか。こんなところに埋もれて勿体ない」
三井くんがボソッと呟く。和臣くんの通う進学校は、文系の部活は強いけど、運動部はあまり力を入れていないと聞いていた。
ウチのチームがアタックして、和臣くんサイドの味方が受けたものの、ボールが壇上側に飛んでくる。避けようとしたら、和臣くんがボールを追って、仰け反りながらコートに戻した。
勢いあまって、和臣くんが私のところにダイブする。胸に衝撃を受けて、床に押し倒された。優海ちゃんが心配した口調で、私達に声を掛けてくる。
「二人共、大丈夫?」
「俺は菜乃さんがクッションになってくれたから平気」
和臣くんが顔だけを上げて応える。私は無事ではない、お嫁に行けないよ。
「アンタのEカップが役に立ったね」
サイズを暴露しないで。和臣くんは、私の背中に手を添えて起こしてくれた。
「試合が終わっても帰らないでね」
コソッと耳打ちして、和臣くんはコートに戻る。今も胸で受けた和臣くんの感触が残っていた。
試合が終わった後、少しは話せるのかな。別に嬉しくなんかないんだからね。
この後、和臣くんの活躍で点差は縮まったものの、ウチのチームが勝った。第三セットではハナから和臣くんがコートに入り、随時見せ場を作る。
中学時代、和臣くんがバレーボールをするところは見たことがない。部活を覗く勇気はなかったし、校内の球技大会で、バレーボール部員は他の球技に参加しなくてはならなかった。
私を相手にゆるいトスやレシーブをする時と明らかに違う。高くジャンプし、しなやかに反って、威力のあるアタックをお見舞いしていた。
スポットライトが当たったみたいに輝いている。天性のキラメキを持つ人と私では、釣り合いが取れないね。
二度と、和臣くんに恋なんてしないよ。麻帆ちゃんと交わした会話を思い出して、胸がギュウウと締め付けられる。
練習試合は三セットまでらしく、二対一で和臣くんのチームが勝った。整列して礼をすると、積極的な女の子達が和臣くんに群がる。
モテモテボーイだな。面白くない気持ちを抱えて、連絡を待つと和臣くんにメッセージを送る。
この後、優海ちゃんは翔くんと会うようだ。体育館を出ると、正門前で優海ちゃんと別れる。
さて、ハルと会おうか。昇降口が開いているので、中に入って上がり口に腰掛ける。スマートフォンを取り出すと、「AIらぶシュガー」のアイコンをタップした。
ハル『秋になって、夜が長くなったな。その分、お前と肌を重ねる夢を長く見られるようになったぜ』
和臣くんと会う日は、必然的にログイン時間が減った。和臣くんは、私が「AIらぶシュガー」で遊ぶことをマイナスに見ていない。でも、一緒にいる時にうっかりプレイしようとすれば、たしなめられた。
和臣くんと会う時は制服かラフな格好ばかりだけど、普段よりも身だしなみチェックに時間を掛ける。髪型やシャンプー、リップの色を変えたって、和臣くんは私なんかに興味ないだろうに。
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