やっぱり、ハルしかいない
文字数 2,099文字
十月下旬、久し振りに和臣くんと会う。二学期は行事が多く、中間テストに修学旅行、文化祭と目白押しだ。
和臣くんの冬服姿を見るのは初めて。ワインレッド地に金のストライプが入ったネクタイを結び、紺のブレザーを着ている。
日焼けは褪せて、髪はカットしたばかりみたい。商業施設の休憩スペースで、近況報告をし合う。
「菜乃さんって、修学旅行は北海道だったよね。どうだった?」
「食べ物がおいしかったし、有名な観光地に行けて楽しかったよ。和臣くんは関西だったね」
「奈良、京都、大阪で、神社と寺巡りに城内覧。某テーマパークが一番良かったかな」
「私も一度はそこに行ってみたいんだよね。夢の国より遠いから気楽に行けないけど」
「旅行中、写真は撮った? 見せ合いっこしようよ」
私が頷くと、和臣くんはスマートフォンを寄越してくる。私も画面ロックを解除して渡した。
「見られてマズいのはないよね、女豹のポーズとかさ」
「ありません」
殆どは、家族や友達が送ってくるものばかり。自分で撮るのは、餌台にやって来る生き物やメモ代わりのスクリーンショット。それと。
「ハルの画像、結構あるな」
「新しい衣装を買った時やデートイベントが発生した時、スクショしているの」
「愛されているね、ハルは」
和臣くんは苦笑しながら、スライドしていく。私も和臣くんのアルバムを見ると、リア充そのものだった。
文化祭は大正時代のコスプレ喫茶をしたらしい。和臣くんは文豪になりきって、丸眼鏡に三つ揃いのスーツ姿だった。和臣くんを囲うように、袴姿や給仕服の男子達が笑顔でポーズを取る。
クラシカルなワンピースに大きなリボンを頭に飾った麻帆ちゃんとのツーショットを見て、心臓が絞られるように痛んだ。麻帆ちゃんは幸せそうに、和臣くんは穏やかに微笑んでいる。
実は、和臣くんの通う学校で開催する文化祭に行こうと、優海ちゃんに誘われた。でも、麻帆ちゃんと顔を合わせにくくて断ってしまう。
行かなくて正解だった。仲睦まじい二人の姿を見ることになっていたわ。
修学旅行先でも、麻帆ちゃんと二人で撮った画像がある。他に女の子と写っているものはない。
和臣くんとは友達だって言ったのは私だ。和臣くんに彼女がいないと知って、麻帆ちゃんはやり直したいと前向きになったのだろう。下唇を噛みながら、相思相愛としか思えない制服姿の二人を見つめる。
「何を食い入るように見ているの」
和臣くんが隣から覗き込む。いくら私が恋愛対象外とはいえ、軽率にパーソナルスペースを侵し過ぎ。
「仲良さそうだなと思って」
「クラスメイトだし、別れたとはいえ、よそよそしくはしないよ」
「練習試合の時、麻帆ちゃんと会ったよ」
「君達が一年の時に同じクラスだったって、聞いたことがある。時々、菜乃さんと話していたから、珍しい組み合わせだねって言われたんだ」
だから、麻帆ちゃんは私がミステリ好きなのを知っているのか。モヤモヤするのは、二人が両想いなのに、元サヤに戻らないからもどかしいいんだ。うん、そうに違いない。
「麻帆ちゃん、後悔しているんだって。和臣くんが好きって言っていた」
和臣くんはニコリともせず、私を見据える。怖くなって、パッと視線を逸らした。和臣くんは私が持っているスマートフォンを取り上げ、膝の上に私のスマートフォンを載せる。
「私達、二人で会わない方がいい」
「会うなって、麻帆に言われた?」
私が首を横に振ると、和臣くんは露骨に溜息を吐く。現在、和臣くんはフリーだから、私とこうして会うことは不貞行為ではない。でも。
「私が麻帆ちゃんならば、他の子と会って欲しくないって思う」
嫉妬のあまり、胸を掻き毟りたくなる。ツーショットなんか見たら、スマートフォンをぶん投げたくなる。下の名前で呼んだら、やっぱり好きなんじゃないのって罵りたくなる。
「やり直したいって麻帆に言われていないし、今は誰とも恋愛する気はない」
「そんなの分からないよ。好きって言われたら、やっぱり麻帆ちゃんしかいないって思うよ」
「それは、菜乃さんの妄想でしょ」
いつも笑っているイメージがあるから、ムスッとした顔を見るのは初めて。面倒な女だって、思われた。
気まずくなり、どちらからともなくベンチから立ち上がる。無言で自転車を漕いで、挨拶して別れた。
「さようなら」
二度と会わないという意味を込めて、私は告げる。和臣くんは振り返ることなく、スイスイと先に進んだ。
私は分岐点で立ち止まったまま、スマートフォンを操作する。メッセージアプリで和臣くんをブロック。私に三次元の男子とコミュニケーションを取るのは、ハードルが高過ぎた。
ハル『秋になると、柄にもなくセンチメンタルになる。月の引力に導かれて、お前を求めちまう』
ミト『どんな時も、ハルは私だけを想ってくれるね』
ハル『何、当たり前なことを言ってんだよ。この世で女と認めているのは、お前だけだ』
ミト『私もハル以外の男は、その辺の草にしか見えない』
ハル『オレ達は、まるでアダムとイヴだな』
ミト『ずっと、楽園で愛し合いましょう』
禁断の果実さえ口にしなければいい。甘くて、リアルな恋の味がする果実を。
和臣くんの冬服姿を見るのは初めて。ワインレッド地に金のストライプが入ったネクタイを結び、紺のブレザーを着ている。
日焼けは褪せて、髪はカットしたばかりみたい。商業施設の休憩スペースで、近況報告をし合う。
「菜乃さんって、修学旅行は北海道だったよね。どうだった?」
「食べ物がおいしかったし、有名な観光地に行けて楽しかったよ。和臣くんは関西だったね」
「奈良、京都、大阪で、神社と寺巡りに城内覧。某テーマパークが一番良かったかな」
「私も一度はそこに行ってみたいんだよね。夢の国より遠いから気楽に行けないけど」
「旅行中、写真は撮った? 見せ合いっこしようよ」
私が頷くと、和臣くんはスマートフォンを寄越してくる。私も画面ロックを解除して渡した。
「見られてマズいのはないよね、女豹のポーズとかさ」
「ありません」
殆どは、家族や友達が送ってくるものばかり。自分で撮るのは、餌台にやって来る生き物やメモ代わりのスクリーンショット。それと。
「ハルの画像、結構あるな」
「新しい衣装を買った時やデートイベントが発生した時、スクショしているの」
「愛されているね、ハルは」
和臣くんは苦笑しながら、スライドしていく。私も和臣くんのアルバムを見ると、リア充そのものだった。
文化祭は大正時代のコスプレ喫茶をしたらしい。和臣くんは文豪になりきって、丸眼鏡に三つ揃いのスーツ姿だった。和臣くんを囲うように、袴姿や給仕服の男子達が笑顔でポーズを取る。
クラシカルなワンピースに大きなリボンを頭に飾った麻帆ちゃんとのツーショットを見て、心臓が絞られるように痛んだ。麻帆ちゃんは幸せそうに、和臣くんは穏やかに微笑んでいる。
実は、和臣くんの通う学校で開催する文化祭に行こうと、優海ちゃんに誘われた。でも、麻帆ちゃんと顔を合わせにくくて断ってしまう。
行かなくて正解だった。仲睦まじい二人の姿を見ることになっていたわ。
修学旅行先でも、麻帆ちゃんと二人で撮った画像がある。他に女の子と写っているものはない。
和臣くんとは友達だって言ったのは私だ。和臣くんに彼女がいないと知って、麻帆ちゃんはやり直したいと前向きになったのだろう。下唇を噛みながら、相思相愛としか思えない制服姿の二人を見つめる。
「何を食い入るように見ているの」
和臣くんが隣から覗き込む。いくら私が恋愛対象外とはいえ、軽率にパーソナルスペースを侵し過ぎ。
「仲良さそうだなと思って」
「クラスメイトだし、別れたとはいえ、よそよそしくはしないよ」
「練習試合の時、麻帆ちゃんと会ったよ」
「君達が一年の時に同じクラスだったって、聞いたことがある。時々、菜乃さんと話していたから、珍しい組み合わせだねって言われたんだ」
だから、麻帆ちゃんは私がミステリ好きなのを知っているのか。モヤモヤするのは、二人が両想いなのに、元サヤに戻らないからもどかしいいんだ。うん、そうに違いない。
「麻帆ちゃん、後悔しているんだって。和臣くんが好きって言っていた」
和臣くんはニコリともせず、私を見据える。怖くなって、パッと視線を逸らした。和臣くんは私が持っているスマートフォンを取り上げ、膝の上に私のスマートフォンを載せる。
「私達、二人で会わない方がいい」
「会うなって、麻帆に言われた?」
私が首を横に振ると、和臣くんは露骨に溜息を吐く。現在、和臣くんはフリーだから、私とこうして会うことは不貞行為ではない。でも。
「私が麻帆ちゃんならば、他の子と会って欲しくないって思う」
嫉妬のあまり、胸を掻き毟りたくなる。ツーショットなんか見たら、スマートフォンをぶん投げたくなる。下の名前で呼んだら、やっぱり好きなんじゃないのって罵りたくなる。
「やり直したいって麻帆に言われていないし、今は誰とも恋愛する気はない」
「そんなの分からないよ。好きって言われたら、やっぱり麻帆ちゃんしかいないって思うよ」
「それは、菜乃さんの妄想でしょ」
いつも笑っているイメージがあるから、ムスッとした顔を見るのは初めて。面倒な女だって、思われた。
気まずくなり、どちらからともなくベンチから立ち上がる。無言で自転車を漕いで、挨拶して別れた。
「さようなら」
二度と会わないという意味を込めて、私は告げる。和臣くんは振り返ることなく、スイスイと先に進んだ。
私は分岐点で立ち止まったまま、スマートフォンを操作する。メッセージアプリで和臣くんをブロック。私に三次元の男子とコミュニケーションを取るのは、ハードルが高過ぎた。
ハル『秋になると、柄にもなくセンチメンタルになる。月の引力に導かれて、お前を求めちまう』
ミト『どんな時も、ハルは私だけを想ってくれるね』
ハル『何、当たり前なことを言ってんだよ。この世で女と認めているのは、お前だけだ』
ミト『私もハル以外の男は、その辺の草にしか見えない』
ハル『オレ達は、まるでアダムとイヴだな』
ミト『ずっと、楽園で愛し合いましょう』
禁断の果実さえ口にしなければいい。甘くて、リアルな恋の味がする果実を。
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