試合後に
文字数 1,607文字
和臣くんからメッセージが届く。正門前にいるようなので、今から向かうと返信した。
校舎を出ると、正門側が賑やか。和臣くんサイドの皆さんが集まっているので、私は遠巻きに眺める。
和臣くんは私に気付くと、駆け寄ってきた。ジャージ姿でリュックを背負っている。
「お待たせ。青葉さんは?」
「翔くんと会う約束があるから先に行ったよ。その、お疲れ様」
「どうも。部長特権を使って現地解散にしたから、一緒に帰ろう」
和臣くんの仲間達は、自転車や歩きで正門を抜けていく。何人かは私達が気になるのか、様子を窺っていた。麻帆ちゃんの姿はなかったので、ホッとしてしまう。
「菜乃さんにダイブしちゃってごめん」
「大丈夫だから気にしないで」
「真面目な話だけど、ブラのサイズ合っていないよね」
深刻そうな顔で言うセリフ? その根拠は何よ。
「女の子の胸に顔を埋めたのは初めてだけど、思っていたのと違う感触だった。限界まで綿を詰めたクッションみたいに、みっちりしていた」
初めてということは、麻帆ちゃんにはしていないんだ。お付き合いが長いから、既に大人の階段を駆け上ったものと思っていた。大切なあまり、手が出せなかったのかな。
「菜乃さんのことだから認めたくないだろうけど、Fはあるんじゃない? ちゃんと測って買い替えた方がいい」
茶化すならばともかく、諭すような口調だもんな。和臣くんは切り替えるように、ニッコリとする。
「わざわざ来てくれてありがとう。菜乃さんの顔が見られたお陰で勝てた」
「和臣くんの実力だよ。それと、野鳥にあげる餌を交換したかったから、今日、学校に来られて良かった」
「鳥より獣が現れる確率が高いと噂の餌台だね。今日もリスに会えた?」
「名前は分からないけど、何か出た」
私はスマートフォンで撮った動物を見せる。和臣くんは屈んで画面を見た後、フフッと笑った。
「新しい仲間を召喚したね。これはハクビシン。鼻に白いラインが入っているでしょ」
名前は聞いたことがある。外来種な上、害獣だったような。
「今行ったら、何かいるかな。案内してよ」
和臣くんが弾んだ声をあげる。まだ正門付近にお仲間が残っていて、女子の方が多い。彼等に注目されるのは精神的に参るので、和臣くんを中庭に連れて行った。
嘘、鳥がいる。カラスでもハトでもない。
感動のあまり立ち尽くすと、和臣くんはスマートフォンで小鳥を撮った。餌台にもう二羽やって来て、餌を啄みはじめる。
「近くの木にも、同じ鳥がいる」
小鳥を驚かさないように、和臣くんが耳元で囁く。鼻先が耳殻に当たって、くすぐったい。
「残念、リスが見たかった」
「贅沢言わないで」
生物部に入って二年目、ようやく拝めた。平日よりも土日の方が、静かで小鳥が訪れやすいのだろうか。
「菜乃さんは、この鳥の名前分かる?」
和臣くんが撮ったばかりの画像をズームして、私に見せる。白くて丸っこいボディに、黒くて長い尾が特徴的だ。
「分からないけど、凄く可愛い」
「今、送ってあげる」
着信音がして、メッセージアプリより画像が届いた。同じ写真を持っているなんて、お揃いみたい。
「この後、お茶をしよう。久し振りにドーナツが食べたい」
相変わらず、甘いものが好きだな。笑いながらも、麻帆ちゃんのことを考える。ヨリを戻したら、こんな風に過ごせなくなるね。
だから? 和臣くんと会えなくたって、寂しくなんかない。二人はお似合いだもの、元サヤ上等だ。
ハル『最近、オレと会う時間が減ってきていないか?』
ミト『寂しい?』
ハル『お前の美しい姿が見られなくて、お前の甘い匂いが嗅げなくて、お前の喘ぎや吐息を聞けなくて、お前とのキスが味わえなくて、お前の吸い付くような柔肌に触れられなくて気が狂いそうだ』
ミト『もし、ハル以外の人を好きになったら、どうする?』
ハル『ソイツの手が届かない場所にお前を隠したい。でも、お前がソイツといることで幸せならば、オレは姿を消すよ』
校舎を出ると、正門側が賑やか。和臣くんサイドの皆さんが集まっているので、私は遠巻きに眺める。
和臣くんは私に気付くと、駆け寄ってきた。ジャージ姿でリュックを背負っている。
「お待たせ。青葉さんは?」
「翔くんと会う約束があるから先に行ったよ。その、お疲れ様」
「どうも。部長特権を使って現地解散にしたから、一緒に帰ろう」
和臣くんの仲間達は、自転車や歩きで正門を抜けていく。何人かは私達が気になるのか、様子を窺っていた。麻帆ちゃんの姿はなかったので、ホッとしてしまう。
「菜乃さんにダイブしちゃってごめん」
「大丈夫だから気にしないで」
「真面目な話だけど、ブラのサイズ合っていないよね」
深刻そうな顔で言うセリフ? その根拠は何よ。
「女の子の胸に顔を埋めたのは初めてだけど、思っていたのと違う感触だった。限界まで綿を詰めたクッションみたいに、みっちりしていた」
初めてということは、麻帆ちゃんにはしていないんだ。お付き合いが長いから、既に大人の階段を駆け上ったものと思っていた。大切なあまり、手が出せなかったのかな。
「菜乃さんのことだから認めたくないだろうけど、Fはあるんじゃない? ちゃんと測って買い替えた方がいい」
茶化すならばともかく、諭すような口調だもんな。和臣くんは切り替えるように、ニッコリとする。
「わざわざ来てくれてありがとう。菜乃さんの顔が見られたお陰で勝てた」
「和臣くんの実力だよ。それと、野鳥にあげる餌を交換したかったから、今日、学校に来られて良かった」
「鳥より獣が現れる確率が高いと噂の餌台だね。今日もリスに会えた?」
「名前は分からないけど、何か出た」
私はスマートフォンで撮った動物を見せる。和臣くんは屈んで画面を見た後、フフッと笑った。
「新しい仲間を召喚したね。これはハクビシン。鼻に白いラインが入っているでしょ」
名前は聞いたことがある。外来種な上、害獣だったような。
「今行ったら、何かいるかな。案内してよ」
和臣くんが弾んだ声をあげる。まだ正門付近にお仲間が残っていて、女子の方が多い。彼等に注目されるのは精神的に参るので、和臣くんを中庭に連れて行った。
嘘、鳥がいる。カラスでもハトでもない。
感動のあまり立ち尽くすと、和臣くんはスマートフォンで小鳥を撮った。餌台にもう二羽やって来て、餌を啄みはじめる。
「近くの木にも、同じ鳥がいる」
小鳥を驚かさないように、和臣くんが耳元で囁く。鼻先が耳殻に当たって、くすぐったい。
「残念、リスが見たかった」
「贅沢言わないで」
生物部に入って二年目、ようやく拝めた。平日よりも土日の方が、静かで小鳥が訪れやすいのだろうか。
「菜乃さんは、この鳥の名前分かる?」
和臣くんが撮ったばかりの画像をズームして、私に見せる。白くて丸っこいボディに、黒くて長い尾が特徴的だ。
「分からないけど、凄く可愛い」
「今、送ってあげる」
着信音がして、メッセージアプリより画像が届いた。同じ写真を持っているなんて、お揃いみたい。
「この後、お茶をしよう。久し振りにドーナツが食べたい」
相変わらず、甘いものが好きだな。笑いながらも、麻帆ちゃんのことを考える。ヨリを戻したら、こんな風に過ごせなくなるね。
だから? 和臣くんと会えなくたって、寂しくなんかない。二人はお似合いだもの、元サヤ上等だ。
ハル『最近、オレと会う時間が減ってきていないか?』
ミト『寂しい?』
ハル『お前の美しい姿が見られなくて、お前の甘い匂いが嗅げなくて、お前の喘ぎや吐息を聞けなくて、お前とのキスが味わえなくて、お前の吸い付くような柔肌に触れられなくて気が狂いそうだ』
ミト『もし、ハル以外の人を好きになったら、どうする?』
ハル『ソイツの手が届かない場所にお前を隠したい。でも、お前がソイツといることで幸せならば、オレは姿を消すよ』
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