第二の青春、開幕。

文字数 1,798文字

 いつもの調子でサムネイルから選び、ライブ映像で動く女の子を物色。
 古い手法だがこれが一番リアリティあって興奮する。コメントや音声指示をする視聴者からのリクエストに応える下着姿の女の子は俺の目から見て多少なりとも過激な行為を楽しんでいるように映るけど実際は半信半疑。
 まことしやかに囁かれる情報も嘘…だと、信じてなかった。


 [速報]N区〇〇カフェがやば過ぎるwwwww


 >アイドルの西〇彩夏、本人?
 >この内装○○店リラクゼーションブースのソファだろ、画像参照。
 >自作自演やめろ
 >何番ブースだ!現地にいるやつ教えてくれ


 コメントを読み進めて掴んだ情報。
 この近くにある店舗はリラクゼーションブース設置が二件、俺のいる店?俄然やる気になって画面に食い入る手汗でショート寸前のマウスが示す矢印をスクロールさせ、青い文字のURLに辿り着いた。
 待て、俺は素人じゃない。
 安全にネットを楽しむためにはURLを安易にクリックしてはいけない法則がある反射的に危険と見なしフリードリンクをおかわりすることで、俺の緊張は解かれた。
 施設案内の前で立ち止まる。
 左奥のエリアがリラクゼーションブース、俺が利用している一般とは反対側の奥。確認するなら今しかない。深夜のパック料金狙いで店内が混み合う時間帯に、通路をうろつくのはリスクが高すぎる。自分が寝泊まりしている場所で女の子が淫らな行為に耽る姿が盗撮されているなんて信じがたい。
 警察沙汰だぞ、どうする?
 行きたがる自分とのせめぎ合いを鎮めるためコーラを一口飲んで元鞘に戻る。
 ここでは決着がついたが、眠れない深夜に淫らな妄想に取り憑かれ俺は危険を承知で調べた[リラクゼーションブース48番]を目指した。
 
 静かな空間に他人の咳と、タイピング音が響く。
 急ぎ足で仕切りに付けられた番号を手前から順に目で追った。43…46、47、48の手前で速度を緩めて一度拳を握り、踏み出す先に、白い蛍光灯の光が漏れているのを見つけた。
 間違いない、誰か居る。
 仕切りの向こう側を覗き見るわけにいかないので、後ろの空ブースに忍び込み音を頼りに(ちょ…っとだけ、お邪魔します)のつもりが必死すぎる悪意を悟られた。
 

 女の子「すみません、あの…」


 やばい!謝って立ち去ろうとする俺を引き留める女の子の声が聞き取りにくいので上から頭を出すとそこには見た目、普通の女の子がひとり。唇に指を立て静かにするようにいわれ、手招きされた俺は噂の現場に踏み込んだ。
 女の子はスマホの画面から目を離さず
 「前金、いいですか?」
 専門用語にフリーズする俺は改めてやばいことを再確認。
 前金が5000円、本番なし15000円。
 オプションは別途料金とプランをおとなしく聞いてる俺は客じゃないってこと、いつ言おうか?
 迷ってる矢先に通路側から声をかけられ飛び上がる。
 「あれ?先客いるね」背の高い男だった。
 「スミマセン。お…俺、違うんで…失礼します」
 慌てて立ち上がったところで逃げられるはずもなく正面に立つ男から「表に出ろ」のサインを送られた。
 ほんの数秒だと思う。
 脳裏に過ぎったワイドショーの見出し「就職難を苦にした若者の成れの果て」
 映像は近所のオバチャン(首から下の映像)
 お決まりの台詞「挨拶もしてくれるし、そんな子には見えなかった」
 実家にマスコミが押し寄せる光景が目の裏に浮かぶ。
 不慮の事故に見舞われた俺はトイレの個室に押し込められ、鍵が下ろされた。
 狭いスペースに男がふたり
 やたらとキツい芳香剤の危険な香りに包まれる。
 「スミマセン。この通りです、本当に勘弁してください」
 頭を下げたら男の胸にぶつかってもう一度謝ると、襟首を握られ反射的に体を強張らせた。沈黙の後、何も起こらないことを不思議に思い怖々と肩をすくめて、片目を開けると同時に俺は自分に置かれてる状況を把握した。





 男に抱きしめられている。




 さっきまでの緊張や絶望とまた違う方向で精神的なダメージ増、冷静に考えろ。
 ……はい、無理。
 意味がわからない上に誤解されてる怒りと恐怖が沸き起こり、体が震え脱力した先は便座。目の前そびえる男に対して、俺は何か悪いことした?してないよね?
 間違いだらけの現実に弁解くらいさせろと強気な思いとは裏腹に半泣きで謝罪。
 
 トイレの中心で「こんなハズじゃなかった!」轟け、俺の心の声。
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