激録!警察24時
文字数 1,929文字
どうやって店から出てきたのか記憶が無い。
電車の中で、やっと自分を取り戻した気がする。
みっともない姿が反対側の窓ガラスに映っていたけど、自分だと認識するまで時間を要した。パーカーには乾いた黒い血の染みが点々とした柄になり、顔を隠すためにフードを被り何かの拍子で動けば黒くて短い線が落ちてきた。頭髪の残骸だと解らず虫だと思って払う自分の手を見て「何だこれ?」やっと現実味を帯びてきた。
右手の親指の爪が浮いて、周りに乾いた血が固まっていた。それだけじゃない。
広げた手の中から出てきたものは…
呆然として巣鴨のホームに、身を投げるようにして降りた。
アナウンスと雑音に紛れる午前5時15分
どうやら始発から数えて何本目かの山手線外回りに乗車したらしい。
本当だったら池袋のイメクラを11時に出て、すぐ巣鴨のデリヘルに向かう予定が大幅に遅れてしまった。勿論、何の連絡もしてない。
他に行く宛を考えるよりも道なりに足を引きずりエレベーターの扉が開いた先で現れた俺を見たデリヘル嬢が悲鳴を上げ、駆けつけたマネージャーは表情を歪めて視線を離した。
「話が違います。今更あんなの寄こされても…迷惑…ですから」
物凄い剣幕でクレームを入れるマネージャーは、俺を睨み、顔と肩に受話器を挟んで対応を待つ。声が届く合間、煙草の先に火を点ける姿を知的に落ちた目の色で眺め、あ…俺の
包まれて張り付く感覚と痛痒さが一致しているけど、確認する勇気は無い。
それより無惨な坊主頭が恥ずかしくて今にも死にそうだ。
体育会系のガチ勢じゃあるまいしコイツは…まずいだろ。うん。
俺を引き取りに来た青輝丸は一言
「青嵐がご立腹だ、覚悟しろよ」もう、ため息しか出なかった。
池袋で凄惨な集団暴行事件が発生した。
匿名の通報で警察が駆けつけ現行犯逮捕。
被害者の俺が見つからないことから同時刻、都営地下鉄で起きた人身事故に関連性があるとみて死亡した男性の身元確認を急ぐ騒動。
警ら経由でアナスタシア社長代理の逮捕要員が警察で実際の遺体を確認して身体的特徴や着衣から俺ではないことが判明。
消息が掴めない俺の足取りを捜す一方で、さすがの社長も穏やかではいられず一連の主犯格を身内からあぶり出しアナスタシアの最高責任者、青魄 に事の次第を報告。巣鴨のデリヘル店からのクレームで俺の居場所が割れて拉致、五反田の事務所に戻ったのは、午前7時過ぎ。
着替える際に怪我の程を確認したいと言われたので、青輝丸と個室に入り診察が始まった。
斑に刈られた坊主頭に顔半分は鼻や口からの出血が伸びて乾き糸切り歯が傾き腫れた歯茎から押し上げられていた。全身打撲の黒ずみを浮かべる身体に視線が注がれる度、俺は震えながら唇を噛みしめた。
問題は火炙りにされた箇所
溶けたポリウレタン製のゴムを着用したまま長時間、何の処置もなく放置していた為、火傷で負った水ぶくれが破れてしまい、化膿が進み、皮膚が爛れていることから処置を急がれたが「何をされたのか」聞かれるのも屈辱で、全てが怖かった。
青輝丸 は俺を責めている訳じゃない。
返事の変わりに頷く俺の視界は滲んでいった。
応急処置が済んだ後、いよいよ青嵐と顔を合わせることになった。
「すみません」
言いかけると青嵐が手を翳す。反射的に下がり床に手を突いて謝罪。
俺は被害者なので、謝るべき処ではない。
しかし自責の念を感じていた。
それだけは間違いだったと自分を責めて、深く頭を下げる。
「死なれたかと思ったよ」
「返す言葉も御座いません。相当の処分は覚悟の上です」
「考え深いのは結構。派手にやる分には、まぁ…私が困る処ではないので別にいいって言ったら青輝丸に怒られるかな?」
振り返って聞く。
「青嵐、真面目にやれよ。真面目に…」
「イタズラっ子だなぁ…いい加減、度が過ぎるよ?」
笑いを堪えない青嵐にイラッとする青輝丸が逆ギレ。
革靴を履いたまま床に正座させられ、こっぴどく青輝丸に叱られるが屁理屈ばかりこねるから、最終奥義の必殺技で止めを刺される。
「次やったら青魄をここに呼ぶからな。覚えておけ」
青輝丸、ご乱心。
この状況…おもしろいのか、そうなのか?
良い意味で寛容、おそらく懐がブラックホールに違いない。
警察に被害届は出さずに事実上の泣き寝入りを決め込んだが、青嵐の計らいによりこれまで俺を陥れようとしていた犯人グループと主犯格が処分された。業界の追放を命じられた一派の末路はメディアに情報を売られ、時の人となり行方知れず。
命があるのかどうか、誰にもわからない。
これが世を震撼させた事件の真相。ここからが正念場。
俺、売られます。
電車の中で、やっと自分を取り戻した気がする。
みっともない姿が反対側の窓ガラスに映っていたけど、自分だと認識するまで時間を要した。パーカーには乾いた黒い血の染みが点々とした柄になり、顔を隠すためにフードを被り何かの拍子で動けば黒くて短い線が落ちてきた。頭髪の残骸だと解らず虫だと思って払う自分の手を見て「何だこれ?」やっと現実味を帯びてきた。
右手の親指の爪が浮いて、周りに乾いた血が固まっていた。それだけじゃない。
広げた手の中から出てきたものは…
呆然として巣鴨のホームに、身を投げるようにして降りた。
アナウンスと雑音に紛れる午前5時15分
どうやら始発から数えて何本目かの山手線外回りに乗車したらしい。
本当だったら池袋のイメクラを11時に出て、すぐ巣鴨のデリヘルに向かう予定が大幅に遅れてしまった。勿論、何の連絡もしてない。
他に行く宛を考えるよりも道なりに足を引きずりエレベーターの扉が開いた先で現れた俺を見たデリヘル嬢が悲鳴を上げ、駆けつけたマネージャーは表情を歪めて視線を離した。
「話が違います。今更あんなの寄こされても…迷惑…ですから」
物凄い剣幕でクレームを入れるマネージャーは、俺を睨み、顔と肩に受話器を挟んで対応を待つ。声が届く合間、煙草の先に火を点ける姿を知的に落ちた目の色で眺め、あ…俺の
アレ
どうなったんだろう?包まれて張り付く感覚と痛痒さが一致しているけど、確認する勇気は無い。
それより無惨な坊主頭が恥ずかしくて今にも死にそうだ。
体育会系のガチ勢じゃあるまいしコイツは…まずいだろ。うん。
俺を引き取りに来た青輝丸は一言
「青嵐がご立腹だ、覚悟しろよ」もう、ため息しか出なかった。
池袋で凄惨な集団暴行事件が発生した。
匿名の通報で警察が駆けつけ現行犯逮捕。
被害者の俺が見つからないことから同時刻、都営地下鉄で起きた人身事故に関連性があるとみて死亡した男性の身元確認を急ぐ騒動。
警ら経由でアナスタシア社長代理の逮捕要員が警察で実際の遺体を確認して身体的特徴や着衣から俺ではないことが判明。
消息が掴めない俺の足取りを捜す一方で、さすがの社長も穏やかではいられず一連の主犯格を身内からあぶり出しアナスタシアの最高責任者、
着替える際に怪我の程を確認したいと言われたので、青輝丸と個室に入り診察が始まった。
斑に刈られた坊主頭に顔半分は鼻や口からの出血が伸びて乾き糸切り歯が傾き腫れた歯茎から押し上げられていた。全身打撲の黒ずみを浮かべる身体に視線が注がれる度、俺は震えながら唇を噛みしめた。
問題は火炙りにされた箇所
溶けたポリウレタン製のゴムを着用したまま長時間、何の処置もなく放置していた為、火傷で負った水ぶくれが破れてしまい、化膿が進み、皮膚が爛れていることから処置を急がれたが「何をされたのか」聞かれるのも屈辱で、全てが怖かった。
返事の変わりに頷く俺の視界は滲んでいった。
応急処置が済んだ後、いよいよ青嵐と顔を合わせることになった。
「すみません」
言いかけると青嵐が手を翳す。反射的に下がり床に手を突いて謝罪。
俺は被害者なので、謝るべき処ではない。
しかし自責の念を感じていた。
それだけは間違いだったと自分を責めて、深く頭を下げる。
「死なれたかと思ったよ」
「返す言葉も御座いません。相当の処分は覚悟の上です」
「考え深いのは結構。派手にやる分には、まぁ…私が困る処ではないので別にいいって言ったら青輝丸に怒られるかな?」
振り返って聞く。
「青嵐、真面目にやれよ。真面目に…」
「イタズラっ子だなぁ…いい加減、度が過ぎるよ?」
笑いを堪えない青嵐にイラッとする青輝丸が逆ギレ。
革靴を履いたまま床に正座させられ、こっぴどく青輝丸に叱られるが屁理屈ばかりこねるから、最終奥義の必殺技で止めを刺される。
「次やったら青魄をここに呼ぶからな。覚えておけ」
青輝丸、ご乱心。
この状況…おもしろいのか、そうなのか?
良い意味で寛容、おそらく懐がブラックホールに違いない。
警察に被害届は出さずに事実上の泣き寝入りを決め込んだが、青嵐の計らいによりこれまで俺を陥れようとしていた犯人グループと主犯格が処分された。業界の追放を命じられた一派の末路はメディアに情報を売られ、時の人となり行方知れず。
命があるのかどうか、誰にもわからない。
これが世を震撼させた事件の真相。ここからが正念場。
俺、売られます。