騙されて奪われたものは…

文字数 1,325文字

 10日後、事件は起きた。

 俺は今までそれと信じて、疑うことはなかった。
 誰だって初めての時はそうだろ、違うか?

 「本当のこと言って、玲音」豪快な上腕二頭筋に掴みかかる
 「忘れてください。きっと何かの間違いです、私には…」
 「じゃあ何だよ。これは?」
 「ですから、私には…」躊躇って視線を外す癖、今日は逃がさない。


 「それが人生ゲームのお金にしか見えません」


 1日8$10日かけて8000円ほど稼ぎニンマリ紙幣を数えているうちにある違和感に気がついた。
 これ 本 物 だよな?
 そこで海外生活の経験がある玲音に紙幣を見せると、最新版ボードゲームの紙幣と判明。ゲームマネーに喜んでた俺の苦労は一体。
 あの野郎!テキトーなことしやがって…
 今日という今日はケツから万国旗引っ張り出してやる。
 オラァー!歌舞伎青嵐ちょっと来いや!!
 至上最悪の香具師
 みんなのアイドル青嵐様の仮眠を突き破り、顔面に向かってゲームマネー全部ぶちまけてやった。貫徹プレーで疲労困憊の社長は、寝起きが悪いなんて百も承知だ。
 寝ぼけてガウンを脱ぎながら俺の腕を掴むと(…ん?何この感じ)横に寝かせて顔の上に顔を乗せてきた。

 ……う、息が止まる。



 初めてのキスが、男という衝撃に叩きのめされる俺。



 トイレに立てこもり、悲嘆に暮れる俺を説得しようとドアの外側に立つ玲音。
 お前にファーストキスを奪われるならまだしも、あんな奴に…

 「うわ、ヤマダとチューしちゃった。最悪」

 それだけは言われたくなかった。

 「代われるものなら代わりたかった」
 「黙れ。俺がお前になっても男としかキスできねーだろ、変態!」
 「おや?まだここに居たのかい」
 悪魔の登場に胸がざわっとして顔を上げた。
 「お騒がせして、申し訳ありません」
 「いいよ。精々汚物で食いつないで貰おうじゃないか。
 なに、穀潰しのクソ虫にお似合いの場所だ。配水管に詰まって死ねばいい」
 俺の唇を奪っておきながらクソ虫呼ばわり
 畜生、俺に明日を生きる資格はないのか?
 それでも玲音は根気強く俺の暗黒物質(ダークマター)を取り除いてくれた。
 よくできた俺の司令塔。そして、カミングアウトするまでもない一目瞭然のゲイ。
俺はノーマルでこの世界に入って初めてゲイと遭遇したが既成概念で固まる事はなく玲音を見る限り、降り注ぐような純粋さに目を見張るものがある。仕事のパートナーとはいえ他人の俺に一生懸命になってる姿を逆に守ってやりたいとさえ思う。
 戸惑いながらトイレのドアを開ける、とりあえず笑ってみせた。
 
 お詫びに俺特製のカレー焼きうどんを作っていると、風呂上がりの水も滴る悪の華社長がキッチンに全裸で乗り込んできた。ぼかし入れろ、大迷惑。
 「わぁ…臭い」フレーメン反応
 そんな顔するならお前絶対食うなよといわんばかりの目つきで皿に盛りつけさっさと運び玲音の横にどっかり腰を下ろして食べる。
 「いい味ですね」だろ?男の作る料理は男の口に合うと相場が決まってる。
 ただ、嬉しいと言われたら…
 いやらしく喉を鳴らして、飲み込んだ。
 続いて「普段は誰かの手料理を食べることはありませんから」そういう意味ならわかるけど、過剰に反応するとあそこのどSにバレそうで、嫌だ。
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