怨結び

文字数 700文字

 

 初夜を夢見る宵闇の、産寝に想い熱く堕ちる。


 ◇

 晴れた神社の境内
 幸せの象徴が飛び立つ、午後。
 靴底に砂利を擦らせ階段の先に在る「神頼み」の場所を避けて、顔を伏せる。

 たくさんの願いが結ばれた縄の間に、いつかの自分を見た気がした。
 
 裏切りの果てに宛を無くした
 俺は悔しさと孤独から逃れるために、一枚の絵馬に何も書かず想いを晴らす。
 息が一瞬で氷の粒に変わる…
 凍てついた表情の俺は、俺と目が遭う。
 ゆっくりと視線を外す
 残像の俺と今ここに居る俺は同じ、言の葉を紡ぐ。
 どんなに心を巡らせて
 命を懸けて死ぬ時が来ても
 最後まで、お前を胸に抱いていられるように。俺は俺と、約束した。
 消えゆく俺を隔てるのは、雪にも似た早咲きの白い桜。
 一片、裏返りながら流れるようにして今の俺に辿り着く。
 目覚めるようにして顔を上げる、俺は…笑っていた。

 「天満宮の大神に挨拶の賽銭ひとつ投げない愛想無し。
 お前はここでも招かれざる流浪人(るろうに)だな。とめき」

 「変な名前で呼ぶな、変態」

 俺の言葉に誰かを探し始める勘違いは何も書かれてない絵馬に愁い笑み首に掛けている白くて長いマフラーを翻しながら、舞い散る雪桜に彩られ耽美一貫。歩く姿はなんとやら。

 歌舞伎青嵐(かぶきせいらん)。俺のご主人様はため息が出るほど、憎らしい。

 
 忘れもしない
 あの日から、俺の世界は一変した。

 
 花形を失い、荒ぶる俺は口を閉ざすことで生意気を身に付けて
 新造から隷属に出世。
 その証拠に本当の名前では呼ばれなくなった。




 ――――― 留吉(とめきち)




 これが俺の通り名だ。
 操と引き替えに手に入れた名前の由来も含め
 俺が生きていく為に必要な選択を語るとしよう。
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