性処理奴隷の縄妾

文字数 1,493文字

 タクシーの中で仮眠、目覚めた先は五反田のマンション前。

 やけに早いな。早朝で道が空いてたのか…あくびしながら料金を支払うと運転手がドアを開けてくれたので足を下ろすと頭痛に眩暈で窓に手を付いて、視界が戻るのを待った。
 オールで客を取るのは体力勝負。
 知恵と若さだけでは、乗り切れない。

 風俗店は基本24時間営業だが、夜勤は携帯だけ持っていればどこでも仕事ができるので事務所には誰も居なくなる。道具を自分で始末して、シャワーを浴びた後、鏡の前でボトルにローションの入れ替えから、器具を洗浄。派遣デリバリーは持ち込み(道具)が多い分、管理も大変だがどれも青嵐から預かる私物。
 俺の為に用意された高価な商売道具だ。
 使い込まれた麻縄の行き届いた手入れは見事なもので、見本を基準として汚れを落とすべく大鍋で茹で上げる。体液や脂が浮きあがり水が濁るので一度水を変えて煮た後は、用途別で脱水にかけて陰干し。
 麻縄を身に纏えば痛みが伴う。
 縄の仕上りにより、体感が異なるので配慮が必要。汚れにまみれた縄で叩かれたら埃が舞い、アレルギー体質の客は身の内に迫る絶望に打ちひしがれるだろう。
 青嵐の麻縄は手に巻くだけで蜜蝋の香りと質感が肌を伝わり気持ちを整えていく。
 蜜の配分を聞いておくべきだったな。
 縄のより戻しから、焦がさない毛羽焼き(表面を焼いてなめらかにする加工)する手順を青嵐が居るうちに見て覚えておけば、睡眠時間も確保できただろうに…軍手を穿かないと手が真っ黒になる。

 一頻り作業を済ませる午前9時
 昼店までの間、営業メールと格闘する時間だ。
 考えながら文章を打つのではなく即座に思ったことを打ち出さなければ数をこなせない。一件でも契約を取るのが営業の本懐、自分専用の奴隷をみつける事が目的だ。
 居眠りをしていると手に振動を感じて、起き上がると昨夜の客から丁寧な礼状が寄せられていた。これだけが励みになる、俺の仕事を評価するのは誰でもない客なのだから。

 昼店がオープンする12時
 アナスタシア本店は夕方までの時間を昼店と呼び、夜10時がラストオーダーで一区切り、以降は深夜料金が加算される。ショートコースは120分、最低でも10万超えの基本料金にオプションとコース内容により料金が追加され俺は一晩で100万の稼ぎ頭になるが個人的な修行…なので歩合もなく無料奉仕。
 働いた分だけ金になるのは店に所属する嬢キャスト(従業員)だけ
 これ一本で稼ぐベテラン選手もいるが、それも寿命があり、新人と引退が交錯する中に人間関係の難しさを見る思いだ。
 表向きには単純なプレイの連続だが、ここより深淵となれば、かつての性愛の常識に縛られない、法も命も狭間にある厳しい思想傾向に立たされる。

 嗜虐傾向
 同性愛
 女装…クライアントの要望に鋭く応える満足度の高い過酷な従業。

 現実の枷を外して己の理想に暮れ吠えるクライアントに理想的な演出を提供する。相手が傅いてるように見えて、実は自分が奉仕している気分に陥るが遣われる立場ではないことを自身が弁えることで理性を保てる。
 状況を見極め、適切な行為を行うために自分をすり減らして赴く。
 青嵐はこの道38年、未だ極めてないというが本当に果てなく、先が見えない不安から寄りかかる所も無いまま何度も自分に言い聞かせては奮い立たせるこの苦痛から逃げ出したくなるのも、今なら頷ける。
 人間としての軸が狂ってもおかしくはない。
 元からどっか変なので同情の余地も無いが…
 俺のご主人様は崇高なる存在だ。目指そうと思う事が烏滸がましいくらい、あの男は超越している。腹立たしいものだな。
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